冒険者ブラックウッド
私の人生に転機が訪れたのは、15の時だった。
まず、戦士としての騎士になる志が潰えた。単純に、我が家の財源と私の努力では、とても騎士になる課程を終えられないと考えたのだ。
副産物的に魔法使いや魔術師の才もない事が分かった。私には、爪の先ほどの魔力も有していないと測定され、騎士も魔導騎士を諦め、その失意のまま、私は冒険者ギルドに向かった。
この時はまだ、冒険者になるつもりはなかったが、あそこには、当時のギルド長の趣味で、遠い地の香が焚かれており、それに加えて、誰でも閲覧可能な本が山のようにあり、ほどよい
冒険者ギルドは、担う役割が増えるごとに増築され、部屋や建物を取り組んだ巨大生物のように増築されていて、常に、異国の言語が飛び交っているのは今も昔も変わらない。
読書に身が入らず、三階の一般書庫から、吹き抜けを通して一階の広間にある掲示板を眺め、最新の世界状況が魔法で投影されたガラス板に起きる変化を見ていた。
「おーい! 誰かレンチ語のわかる奴をおらんかーー??」
誰かが一階で叫んで、偶然、3階の私の方を見上げた。
メンバーでもなんでもない私だったが、反射的に手を上げて応え、階を下る。
叫んだ男の目が私に向くと、彼も安堵して駆け寄ってきた。
「はっ。ちょうどよかった。……単色でもないか、まぁ、ちいっと通訳してくれ」
冒険者ギルドには、非公式な階級として単色と二色があった。
これは、制服のコートがどれだけ色褪せているかで、経験の有無を測る風習からきた
叫んでいた男は、私が冒険者で無い事が分かっていたにも関わらず、私の腕を掴んで、とあるレンチ人の聴取に同行させた。
そうして、異例にも部外者である私が、漁港から救難されたレンチ人の通訳を務めたのだ。
その者は、ディーチ語混じりに加えて、酷い訛りのあるレンチ語を慌ただしく話し、自身の身に降りかかった不幸を説明する。
彼の話を要約すると、彼は、海峡で巨大生物に船を沈められた船長だった。
共和国や帝国に向かう航路に怪物がいるという話を最初に知ったのは自分だという事に胸に高鳴ったのを覚えている。
聞き取りを続け、航海の知識の無い私は、彼の専門用語をそのまま訳して書き残したに過ぎないが、この情報はすぐに傭兵ギルドに伝わり、数日後には、青い狩猟団旗を掲げた船が謎の生物の捜索と討伐に向かった。
この時。部外者の私の翻訳に責任を持ち、迅速な情報展開にこぎつけたのは、地域情勢調査部部長パトリック・チャーチル。
彼は、私の父と同じくらいの年で、壮年の男性だったが、私の事を褒め称え、言葉の端々にそれとなく、冒険者ギルドに入りたくなるような口説き文句を並べた。
彼との会話で、少し心が指針を持ち、冒険者になって、命と引き換えにどこかの滝に自分の名前が付くのは嬉しいか、なんて事を考えながら家へと帰った。
チャーチルは、後日、私の家を訪れた、父と母の前で私に感謝状を渡すと、そのまま私を勧誘した。
「彼には、度胸がある」から始めて、まず両親を口説き落とす。
父は、元々私が世界に出る事を歓迎していたので、二つ返事で了承したが、母は、断固反対した。遠い地の果てで、息子が帰ってこなくなると思ったのだろう。
私からも、母を説得し、最後の最後に小さく首を縦に振ってくれた。
私は、そうして、冒険者のキャリアがスタートした。
冒険者ギルドでは、まず自然の中で生き延びる術を学ぶ。教導係は怒鳴りながら私たち新米をしごき上げ、特に私には、“反抗的な目のウスノロ”という二つ名を与えると、特に目をかけて可愛がり、精神も鍛える。
そうして、冒険者ギルドのメンバーとしてのトレーニング期間が終わると、冒険者ギルドの紋章である
進路章は、黒いキャンバスに、白枠のランタンとコンパスの重ねた図柄だ。
私がこの一連の必要な技能を習得した時点で、冒険者ギルドの上層部は、私の使い道を決めていたらしい。
私は、体力も学力も特別に優れていたわけではないが、ただ、自身が優秀だと言う事を、常に自分に言い聞かせた。外に出る者は、そう信じていないと、遅かれ早かれ、自然淘汰という鋭い刃を受ける事になるからだ。母なる自然は、頑固者を天敵とするからだ。
冒険者に必要なのは、この精神力が必要で、私の場合は、この後、南方大陸の過酷な環境でさらに補填されて、私の武器にもなっていく。
2年の訓練期間の後、私は、3年間をかけてレンチ共和国とディーチ共和国を回され、もう少し凝った異国での振る舞いを身につけた。
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