ギルド支部建設部予備調査班
南方大陸
南方大陸
私の職務成績を精査した上層部は、私を支部建設部予備調査班に配属する事を決めた。
この部門は、冒険者ギルド支部を建設する国や地域に派遣され、冒険者ギルドの代表として、建設予定地の調査と建設の監督を任務とした。
冒険者ギルド直轄なので、待遇や報酬は安定していたが、その反面、裏方的な役割で、刺激や栄光には縁が無いよに思っていた。
……実際には、そうでもない。少なくとも刺激はあった。それも強すぎる程に。
私の最初の派遣先は、南方大陸ザザリーの獣人国家ビョウケン。
この国は、南方大陸の最西の国で、沿岸部にベイルトン人物の入植者が発展させた街があるが、それ以外のほとんどが手付かずの密林に覆われた国で、ベイルトン王国からの独立を果たしたばかりの新興国であり、植民地時代の影響がまだ色濃く残っていた。
多民族国家であるはずのビョウケンの国政はドーマ族と呼ばれる、犬獣人がほとんどを占めていた。
彼らは、植民地時代のベイルトンから受け継いだ、他民族を排斥する、伝統的で、悪しき政治形態で国を支配していた。
ドーマ族は、猟犬や軍用犬と言った言葉似合うよな体格をしており、人狼のような長い口に、短く硬めの体毛に覆われた体躯をもち、獣人族としては、長身で、尻尾も短く完全な二足歩行に特化した種族。
彼らは、ビョウケン西部から東部の沿岸部の発展した平地を独立時に確保した事で、富と権力を手に入れると同時に、それを独占して意図的に格差を設けた。
この方針は、ベイルトン王国が持ち込んだもっともたちの悪い疫病だ。
そして、私が訪れた目的である、ギルド支部建設予定地は、国の南西にあった。
このエリアには、シャド族という猫獣人たちの居住区にあたる。
シャド族は、130cm大の猫獣人で、胴と同じ程の長さの尾を持ち、黒と茶色からなる迷彩色の短い毛と、大きな琥珀色の目をした者たちで、走る時のみ四足歩行になる癖があった。
部族内にもいくつかのグループがあったのだが、当時はシャド族たちを元にした一つのグループで団結し、ジャド族の族長を頂点にした社会組織を持ち、事実上の自治区を作っていた。
つまりは、猫獣人族自体が、ドーマ族
当時、ベイルトン王国の人間は、ほとんどがこの内情を知らず、私もその1人に含まれていながら、この国に飛び込み、無知のまま、ビョウケン南西の名前もない土地へ視察に行くと、すぐにシャド族に包囲され、族長の元で取り調べを受けた。
彼らから、敵意は感じなかったが、猫獣人たちからすれば、突然、人間が現れたので、かなり動揺していた。
ビョウケン沿岸部には、人間も住んでいたが、そのほとんどは地主的な立場であり、“現状維持”を子々孫々まで続けようとする人種で、農地以外には徹底して無関心だったのだろう。
そこで、猫獣人族シャド族の長ニニョ・ナワヤと謁見した。
ナワヤは、大将と呼びたくなるような威厳を備えた猫獣人で、赤い布の眼帯をトレードマークに、長く太いヒゲを持ち、よく肥えた男で、
シャド族は、私の荷物から冒険者ギルドの紋章を見つけ、すぐに拘束は解かれた。
私はナヤワに、ベイルトン東部製の樽酒を振る舞い、彼は喜んで流し込み、打ち解けあい、ビョウケンのことについて事細かに説明してくれると、最後にはこう締めくくった。
「悪りぃ事あ、言ぃわない。この国から去れ。嵐が来る」
これは、非常に確度の高い予測で、彼の言う嵐は、気象現象の事では無いことは明らかだった。
私が訪れたこの時期には、ビョウケン政府や、ベイルトンのビョウケン広報担当官が、声高々に謳っていた、平穏な独立は存在しておらず。
シャド族はビョウケンからの独立を志し、ドーマ族は、労働力である猫獣人に、際限のない圧力を加えていた。
私がそれを知らずに来たの、ビョウケン政府がこの事を隠したのか、ベイルトン王国のビョウケン国広報担当官が致命的に時事問題に疎かったのどちらかだろう。
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