内戦の変遷

 内戦初期から、中期まで優勢だったのは、意外にも解放軍側だった。

 彼らは、装備と数で劣る分を地の利を活かして戦果を挙げていた。

 また、彼らの戦略は、生きる為と戦うのに必要な物資を確保する事を主眼として、散発的なゲリラ戦で挑んでいたのだが、これがそのまま敵軍の戦略的要所を抑えるという戦争の定石と合致。

 ドーマ族は、神出鬼没のシャド族に対して、とにかく防衛線を張り巡らせる事で対応したが、それはあまり役に立っていなかった。


 猫獣人解放軍は、密林と山岳、それらの地下にトンネルを堀り、政府軍の防衛線を地中から超えて奇襲攻撃を仕掛け、

 彼らは、決まった拠点を一つを除いて持っていなかった。


 猫獣人の唯一の拠点は、所在不明の司令部で、そこが戦況を把握し、遊撃隊の行動範囲を決めて伝達する。逆に言えば、司令部は情報をまとめるだけの存在で、決して司令塔ではなかった。

 

 これはまるで、ベイルトン王国の聖堂騎士。ディーチ帝国の王下猟兵のように独立した指揮系統を持った軍団のようなもので、猫獣人解放軍の行動様式だけは、それらの精鋭戦士たちのものと似ていたのだ。


 この高度な指揮を解放軍が実現できたのは、彼らの心意気のみ。

 実際には、理論はなく無理矢理に実行していた結果、ビョウケン政府軍を翻弄していたのだ。

 だが、ケンビョウ政府軍は、この連日連夜のを耐え、徐々に解放軍の戦力を削り落としていく。


 解放軍の戦術は、非常に機密性の高いゲリラ戦だったが、これには欠点があった。それは慢性的な情報と情報交換の不足だ。

 内戦中期には、別部隊が襲撃した拠点を、他の部隊が襲撃する事も相次ぎ、これは慢性的な物資不足に拍車をかけた。

 この段階で、猫獣人解放軍は、ビョウケン中央部までを勢力圏に置いていたが、

 これは、十全が解放軍の実力ではなく、ビョウケン政府の新しい戦略の一環でもあった。


 ビョウケン政府軍には、元入植者として、国内を管理していたベイルトン王国の後ろ盾があったのだろう。

 その支援者たちは、従順で、既に手懐けてあるドーマ族に、物資を支援していたので、ビョウケン政府軍は、幾らでも物資を補充でき、軍略的な技能も身につけていった。


 ビョウケン政府が転換して行った戦略は、撤退戦と焦土しょうど作戦だったのだ。

 解放軍が破竹の勢いでの進撃こそしたが、結果として、兵士を失い、彼らの解放した土地には、インフラも資源も残さないようにされていた。

 その反面、ビョウケン政府は、湾岸部に強固な防衛線を築きあげ、解放軍が痩せ衰えるのを虎視眈々と待つだけよくなっていた。


 ビョウケン政府の守護対象はドーマ族だ。


 解放軍とは無縁の猫獣人、ドーマ族以外の犬獣人も防衛線の外側、焦土化した故郷に取り残さ、荒廃した土地は、ビョウケン国民を蝕みこの困窮は、さまざまな弊害をもたらす。


 行く町や村では、木陰で子供が昼寝するように餓死している光景が当たり前になり、ウジ虫やネズミが、死体を皮膚下から動かし、太陽は腐らせる。

 井戸や池には、薬品が瓶ごと投げ込まれ汚染され、家畜も住人も死に絶えた村。

 

 この頃には、猫獣人解放軍の中にも統制と秩序を失う軍団が現れだした。


 暴徒と化した解放軍は、犬獣人を怨敵おんてきとして、非参加の猫獣人たちを卑怯者として、虐殺するようにまで堕落。

 最後まで統制を維持していたのは、ナワニたちシャド族の者が多い軍団だったが、彼らも士気は低く、壊滅は目に見えていた。

 

 内戦の終息は、反政府組織の壊滅によってもたらされたが、実質的な終息は、ナワニがシャド族を団結させ、ビョウケン国と自治区の放棄を進言した時だったと思う。


 シャド族は、絶滅を避ける為に、ベイルトン王国の関心、ビョウケン政府の興味の薄い南方大陸奥地へと逃げる事を選択した。

 

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