第27話

「〈輝くラーナの飾剣〉が二本手に入ったのは大きい……。上手く捌けば、これだけで三千万ゴルドになるぞ。さすがにこの額のアイテムは、ちょっとでも高く買い取ってくれるところを探さないとな」


 額が額なので、変に名が知れたり、目を付けられたりするリスクも大きいので難しいところだが。

 ルーチェも巻き添えにしかねないので、その辺りはしっかり相談して考える必要があるだろう。


「さ、三千万……三百万が十個……」


 ルーチェは未だに信じられないらしく、ぶつぶつとそんな言葉を繰り返していた。


 ただ、成金ラーナを探すのにかなり時間が取られてしまっている。

 今日の内にあと一体は難しいだろう。


 放っておけば成金ラーナが狩れるかもしれないし、誰かがここの〈夢の主〉を討伐して〈夢の穴ダンジョン〉を消滅させるかもしれない。

 だが、それでも無用に事を焦るべきではない。

 命を落とせば元も子もないのだ。


 それに、これだけレベルが上がれば、もっと強い魔物が出てくる〈夢の穴ダンジョン〉で狩りを行う、という選択肢もある。

 この世界では〈技能の書スキルブック〉の価値が高いので、そっちのアイテムドロップを狙って闇店で売り捌くのも金策の手段として面白い。

 

 俺は〈ステータス〉を開き、現在の自身のレベルを改めて確認する。


――――――――――――――――――――

【エルマ・エドヴァン】

クラス:重騎士

Lv :33

HP :68/82

MP :14/34

攻撃力:22+5

防御力:51+5

魔法力:26

素早さ:26


【装備】

〈下級兵の剣〉〈狂鬼の盾〉

〈鉄の鎧〉


【特性スキル】

〈なし〉


【通常スキル】

〈城壁返し〉〈ディザーム〉〈パリィ〉

〈当て身斬り〉〈影踏み〉


【称号】

〈不動の者〉〈E級冒険者〉

――――――――――――――――――――


 大分俺の〈ステータス〉も格好がついてきた。

 半ば特例でE級冒険者に押し上げてもらったところだが、そろそろ都市ロンダルムの上位……D級冒険者として戦えるレベル帯だ。


 そして……スキルツリーの方もどうするべきか。


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:12]

〈重鎧の誓い〉[20/100]

〈防御力上昇〉[0/50]

〈初級剣術〉[5/50]

―――――――――――――――――――


 〈燻り狂う牙〉が来る時のために、ある程度はスキルポイントを残しておきたい……という欲求がある。

 いや、しかし〈燻り狂う牙〉を十全に活かすためには、結局〈重鎧の誓い〉も伸ばしておく必要があるのだ。

 それならば今の間に〈重鎧の誓い〉を伸ばしておくのは、全く悪くない。


 ……ただ、〈初級剣術〉もそこまで悪くないのだ。

 〈当て身斬り〉は有用であるし、〈燻り狂う牙〉の枠のために消すのは〈防御力上昇〉で決まっている。

 それなら〈初級剣術〉を伸ばして、『剣装備時に【攻撃力:+5】』を取得するのも悪くない。

 素の攻撃力が低い重騎士の序盤に大きな助けになるし、【攻撃力:+5】は後でも充分ありがたい。

 妥協案的な位置にはなるが、安定性が高いという意味でも検討する価値のある選択肢だ。


「必要に応じて、だな……。それまでは確保しておくか」


 スキルは状況が嵌れば強力な強みになる。

 〈初級剣術〉の攻撃力上昇を取れば、爆発的な強みはないが安定して強くなれる。


 〈燻り狂う牙〉は……どうせ手に入る頃には、もっとレベルが上がっているだろう。

 それならそこまで躍起になってスキルポイントを今温存する必要はない。


 防御面の強化が必要な状況に迫られれば〈重鎧の誓い〉を、攻撃面の強化が必要な状況に迫られれば〈初級剣術〉を、どちらも特に必要にならなければ〈燻り狂う牙〉まで取っておいても悪くない、といったところか。

 急ピッチの強化を要するような事態にならないのが一番いいのだが、何が起こるのかわからないのが冒険者の常というものである。


「アタシ今、【Lv:31】でスキルポイントが【10】余ってるんですけれど……どっ、どうしましょう、これ? 何かに振っておいた方がいいですか? エルマさん、エルマさん、ちょっとこれ……また〈ステータス〉のスキルツリーを見てもらってもいいですか? 自分で振るの、滅茶苦茶怖いんですけれど……」


「前も言ったが、〈ステータス〉はあんまり人に見せるものじゃないんだが……」


「前も見せたんで、今更ですよぉ。大丈夫です! エルマさんにはここまでレベルを上げていただいたご恩があるので、もし仮に利用され尽くしてボロ雑巾みたいに捨てられても恨みませんよ!」


 ルーチェがぐっと握り拳を作り、いい表情でとんでもないことを口走る。


「そこまで行ったら逆に恨まれない方が精神的にキツそうだが……」


 ……まあ、今のルーチェのスキルツリーの状態は把握できているので、今更なのは実際そうだ。

 既にステータスポイント振りに口出ししてしまっているのも事実だ。

 こうなれば、間違いがないようにしっかり確認して、適切な助言を出しておいた方が誠実というものだろう。


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:10]

〈愚者の曲芸[10/100]〉

〈豪運[15/70]〉

〈攻撃力上昇[0/50]〉

――――――――――――――――――――


 正直、悩ましいところだ。

 最終的に強くなりたいのであれば、〈愚者の曲芸〉や〈豪運〉を伸ばしつつ、今後も効率的なレベル上げを狙っていく必要がある。

 だが、そのためには自分に適した〈夢の穴ダンジョン〉や戦法を理解し、かつ仲間にも共有しておかなければならない。

 

 そういう意味では、知識不足でも安定して戦える〈攻撃力上昇〉も選択肢に入ってくる。

 それに、この世界はゲームではない。

 無理に危険を冒してレベル上げなんて行わず、安定してずっとレベル下の魔物を狩っていたい、という方針もありだろう。

 ゲームでは最終的にとにかく強くなるのが目的になってくるが、この世界では必ずしもそうではないのだ。


「当たり前だが、ルーチェがどうしたいか……そして、どうなりたいかによるな。もっと上を目指したいなら、今は温存しておいてE級冒険者になってポイント割り振り上限が外れてから〈豪運〉に振るべきだろう。ただ、今のレベル帯でもっと安定して戦える力が欲しいなら〈攻撃力上昇〉に振るべきだな」


「な、なるほど……そう突き付けられると、なかなか難しいですねぇ……。アタシだって、冒険者になった以上は一流を志したいって気持ちはありますけれど……正直、自信がないなって気持ちもあって……。で、でも、エルマさんはきっと、もっと上を目指してるんですよね? だったらアタシも、仲間ですし……!」


「人に合わせるより自分でしっかり答えを出すべきだ。今急いで決めることはない、都市に戻ってからでもいくらでも相談は乗る」


 ステータス上昇系スキルツリーは、最終的に強くはなれないかもしれないが、安定感がある。

 ルーチェのレベルで今あるスキルポイントを全て〈攻撃力上昇〉に振っておけば、道化師の攻撃力不足を誤魔化すことができる。

 その上で持ち前の素早さとトリッキーなスキル、幸運力が残るので、金銭にもパーティーメンバーに困ることはなくなるだろう。


 それを蹴って一緒に上を目指してくれるというのならば俺は嬉しいが、勢いで決断させていい部分ではない。



 今回はこれにて引き上げようと〈天使の玩具箱〉の出口へ歩き始めたのだが、ルーチェが途中で足を止めた。


「どうした?」


「……エルマさん、なんだか、赤ちゃんの泣き声のようなものが聞こえませんでしたか? アタシの気のせいですかね」


「赤ん坊の、泣き声……?」


 俺には聞こえなかったが、情報として心当たりがあった。

 〈天使の玩具箱〉での赤ん坊の泣き声。

 それは〈夢の主〉のものである。

 だが、通常〈夢の主〉は〈夢の穴ダンジョン〉奥地から動かないため、ここまで声が届くとはとても思えなかった。


「まさか、〈王の彷徨ワンダリング〉か!」

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