第23話 6月6日(日)コラボカフェ1
歩行者天国が開始される前の秋葉原はさらに人が増えてまるでテーマパークのような様相になっていた。
「うわぁ、すごい人。はぐれないように気を付けないと」
「うん」
もし僕と
だから友達と人混みではぐれないためにはお互いに注意するしかなかった。
「世の中にはたくさんのオタクがいるんだなあ」
「そうだね。クラスではわたしと
「僕さ、大勢の中ってちょっと苦手なんだよね」
「うん。わかる」
「でも、秋葉原はなんとなく落ち着くっていうか、オレンジのアロハシャツはちょっと悪目立ちしてる感じはあるけど」
ちらりと
するとすかさず視線を逸らされてしまった。
絶対悪ノリでこの服を選んだでしょ。
「不思議だよね。同じ趣味の人が集まってるだけで心強い感じがするの」
「全然知らない人なのにね」
今すれ違った人とはよほどの運命がない限りはもう二度と会わない。
でも、
そんな不思議な縁がこの街には溢れている気がして自然と足取りが軽くなる。
「ま、待って
「あ、ごめん」
夢中になると周りが見えなくなるのは僕の悪いクセだ。はぐれないように注意していたはずが
「こっち!」
秋葉原は外国人も多くて1人1人の圧迫感が他の街よりも大きい。
それにお互いに秋葉原初心者だから待ち合わせ場所にどこを指定すればいいのかわからない。
コラボカフェの受付時間も迫っているから今この場ではぐれるわけにはいかなかった。
「あ」
「ご、ごめん。つい反射的に」
好き勝手に動き回る
幼馴染以外の女の子の手を握るのは初めてで、その柔らかさと心地の良い冷たさが僕の心拍数を一気に上げる。
「ホントごめん。
「……
「…………」
別に付き合っているわけでもないのになぜか追い詰められているような気がして、さっきとは別の理由で心臓の鼓動が早くなる。
「えーっと、あっ! このビルかな。コラボカフェがあるの」
「
「いやー。楽しみだ。きっとラブマスターで溢れたカフェなんだろうなあ!」
「…………」
不自然なくらいに大きな声でハキハキと独り言を喋っていると
「ほらほら。エレベーターが来たよ。ささ、どうぞ」
開ボタンを押しながら恭しく
やり慣れないことをアロハシャツを着てやっているから自分でも違和感が半端ない。
「……
「いやいや。あいつの機嫌を損ねた時は放置に限る。そのうち僕に宿題とかで泣きついてくるから」
「ふーん?」
「……ぷっ。ふふふ」
「
「
「むしろ?」
楽しそうに笑っていた
「さっき手を繋いだことを
「別に僕と
「……じゃ、じゃあ」
「あ、着いた」
途中で止まることなくコラボカフェがある目的の階まで一直線に来ることができた。散々な目に遭ったからこれくらいのプチラッキーがあってもいい。
「わあっ! これ初期の絵柄だ。懐かしい」
コラボカフェに到着するなり
最初はゲームだけだったのがアニメ化されたりゲームハードの進化で絵柄が洗練されたりして今ではだいぶ雰囲気が変わった。
「ラブマスターって今見ても全然古く感じないのがすごいよね。絵柄は変化してるのに」
「それだけ当時から洗練されてたんだよ。わたしがハマった頃はお金がなくてグッズが買えなくて、今もだけど……あの頃手の届かなかったものが目の前にある幸せ」
「
「うん! わたし、
「なりたくて?」
「え、えーっと……髪型とかマネしてたんだ。あはは」
ラブマスターの
「ラジオで
「その気持ちわかる。何も知らない人にトークから
「ふふ。そうかもね。だからわたし、声優さんってすごいなって思ったんだ。自分とは全然違う人になれちゃうなんて夢みたいだなって」
「じゃあ
「ふぇっ!? え、あー。んーっと」
顔を真っ赤にしてうろたえる姿はまるでアニメキャラみたいで可愛らしい。教室ではいつも大人しくしているので、こういう一面が明らかになったらクラスのマスコットになれそうだと思った。
僕が同じ立場でマスコット化されそうになったら絶対にイヤだから無理強いはしないけど。
「それではお待たせしました。ただいまより開場いたします。まずは指定の席にお着きください」
「
「そうだね。行こう」
結局、
それに僕自身も進路がちゃんと定まってないのに他人を詮索するのはよくないと反省した。
でも、
そんなオタク心も残っているのも事実だった。
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