第22話 6月6日(日)アニメショップ
あまり目立ちたくない人間なので他人からの視線に敏感だ。ちょっとでも視線を感じたらスーっと気配を消す。そんな風にして今まで生きてきた。
「
「ふふ。よく似合ってるからだよ」
今日みたいな蒸し暑い日に風通しの良い服というのはとてもありがたい。たぶん自分では絶対に選ばないような物を
とんでもなく高価な物だったりあまりにも突飛なデザインだったらあの手この手で逃げようと考えていたけどギリギリ許容できそうなラインを攻められた。
「アロハシャツってライブ会場で浮かないかな」
「大丈夫だよ。フルグラ法被とかオリジナルTシャツに比べたら街中でもあり得る恰好だし、似合ってるし」
「2回も言われると逆に疑いたくなる……」
「わっ! すごい。CDコーナーがあずみんだらけ」
「ライブ前だから店員さんも推してるのかな。この手書きメッセージからすごい熱意を感じる」
「本当だ。あ……今日お仕事なんだ……」
「知らない方が幸せなことってあるんだね……」
店員さんの熱意と悲壮感が伝わるメッセージだけでなく、ファンからのひと言メッセージが書かれた付箋も掲示板にたくさん貼られている。
「僕らも書いてみる?」
「うん。ちょっと恥ずかしいけど」
「後日、
「そうだね。でも、興奮で変なことを書かないように気を付けなきゃ」
「
「……
いくら友達とは言っても、あんまり他の女子の名前や話題を出すのはよくないんだな。どうしても
「あー……
「秘密。いつかわたしがこういう時にどんなメッセージを書くか当ててみて」
「それってめちゃくちゃ難易度高いんじゃ」
「幼馴染みたいに10年くらい友達でいたらわかるかもよ」
「うん。そうなるといいね」
すでに過ごした時間はもう変えることはできない。
「じゃあ僕も秘密にしようかな。貼ったらバレバレだけど」
「
「か、書かないよ。僕はあずみんを声優としてか見てないから」
「それが普通なんだけどね」
クスクスと笑いながら
隙を付いてそれを見るのは今の僕らの関係性ではナシな気がして、僕は少し離れた場所に自分のメッセージを貼る。
「それにしてもあずみんっていっぱいCD出してるなあ」
「声優さんはキャラクター名義もあるもんね」
「いつかあかりんも……」
「
「もちろん! あの力強くも透き通った声は絶対に歌にも活かしてほしいし、魔法少女は死亡フラグの歌も良かった。今は高校生で仕事をセーブしてるのかもしれないけど数年後には絶対デビューしてるね」
つい熱が入りすぎてペラペラと早口になってしまった。オタク特有の早口というやつだ。でも、絶対に
「ふふ。そんな風に応援してもらえたらあかりんも喜んでると思うよ」
「まあね。僕は
別に僕自身は何もすごいことはないのに、あかりんを応援していることを褒められてなぜか妙に鼻が高くなってしまった。
これが彼氏面というやつだろうか。まあ、将来的には彼氏になるから問題はないずだ。僕があかりんを身近で支える存在になるわけだし。
「もしあかりんがライブをするってなったら絶対に行く?」
「うん! チケットが手に入ればだけど……運の要素はともかく、お金は絶対にどうにかする。どんなに遠い場所でも駆けつける。あかりんの晴れ舞台をこの目に焼き付けたい」
「そっか、それなら
「そそ。だから数年後のデビューに期待してたり」
「なあんだ。あかりんの高校生活を心配してくれてるのかと思った」
「も、もちろんそれもあるよ? お互い高校生だからその大変さはよくわかってる。やっぱり大学生になってからが人生の本番みたいなところはあると思うんだよね」
「ふふ。早口で言い訳してるとすごく怪しいね」
もしかして僕ってMだったのか?
「それじゃあもう少し今のペースでいいかな」
「ん? ペースって?」
「あ、うん。もう少し時間があるからゆっくり見て回ろうかなって」
「そうだね。あんまり早く行っても入れないだろうし」
お昼にはラブマスターのコラボカフェを予約してある。
予約時間まであと30分ほど。僕らはアニメショップを周りながら作品の思い出を語り合った。
自分の好きを語ったり、人の好きを知るのは楽しい。新しいオタク友達が出来て本当に良かった。
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