第19話 6月2日(水)昼
あずみんのライブまであと4日。水、木、金と授業を乗り切って土曜日に準備をすれば翌日には本番当日だ。否が応でもソワソワしてしまう。
「
「うん?」
「いや、今週末はあずみんのライブだろ。それなのに平常心を保ってるなって」
「もちろん楽しみだよ? でも俺のイチオシはるいたんだし、今回は保護者みたいなもんだし?」
「保護者って……
「それより
「違うから。…………すまん。全否定はしない。女子と一緒っていうのは緊張してる」
「んふふ」
「なんだよ気持ち悪い」
さほど緊張している様子のない
「お、
「にひひ。可愛い幼馴染参上!」
なぜそんなポーズを取るのか理由は不明だけど、足を肩幅に広げて腕を組んでいる。自分を戦隊ヒーローかなにかだと勘違いしているのだろか。
「
「ん~。
「さあ? トイレじゃないか?」
一緒にライブを見に行く友達なんだからもっと積極的に絡まないといけないと頭ではわかっていても女子に声を掛けるきっかけがつかめず今に至る。
「
「それは、まあ……。持つべきは幼馴染じゃなくて友達だな」
「むぅ……」
たまたま友達からチケットを譲ってもらっただけで幼馴染と友達に上も下もない。特に僕の場合はどちらに対しても恋愛感情を抱いてないのだからなおさらだ。
それなのに今回たまたま
「まあまあ。たまにはいいじゃん。結果的に4人で行くようなもんだしさ」
「あ、
「
「にひひ。
この学校に他のクラスの教室に入ってはいけないなんて校則は存在しない。だから
だけど
「う、うん。今度ね」
ほら、
「さて、これであずみんのライブに行く4人が揃ったわね」
「そうだな。席はだいぶ離れちゃってるけど」
「にひひ。アタシ達は2階だけどステージにめちゃくちゃ近いのよ。絶対にあずみんと目が合うわ」
「それは素直に羨ましい。けど、間違っても奇声を発するなよ?」
「発しな……い保証はできないけどライブを壊さないように善処するわ」
マイペースで自由な人間ではあるものの内田杏美への愛は本物だ。だから僕も本気で奇声を発する心配をしているわけではない。信じてるぞ
「こほん。アタシのことはどうでもいいの。せっかくだからそれぞれ待ち合わせ、その後に4人で合流するのってどうかしら?」
「ん? 一度僕と
「そうよ。アタシは
「寝取られてねーし自分で言うなバカタレが」
「ふふ。
「
あと寝取りの話題で笑わないで。なんとなく
「そうかな。こんな冗談が言えるなんてすっごく仲が良いんだなって伝わってくるよ」
「でしょう? こんなに可愛い幼馴染に好かれてるなんて
「届かないと思って諦めるのが一番カッコ悪いんだぜ?」
「ほらこの調子。本当に残念な幼馴染でアタシじゃなかったら見捨ててるわね」
まるで自分が聖人かのように自信満々に胸を張る。声優にガチ恋している男と友達でいてくれているのは感謝してる。だからこそ、早いとこ幼馴染だからという理由だけで恋人関係を勧める風潮を終わりにしたい。
「でも、そしたらわたしと
「にひひ。
「だから女子がそういうこと言うな!」
「なによそれ。男女差別?」
「そういうんじゃないけどさ……なんとなく」
「今みたいな発言は聞く人が聞いたら炎上案件だから気を付けるのよ」
「……はい」
「ふふ。
「そうなんだよ
「バカタレ。そんなことしたらあかりんに対して不誠実だろ」
「はいはい。そうですね」
僕とあかりんはまだ正式に付き合っているわけではない。でも、運命の相手でこれから交際、果ては結婚まで見えているのだから他の女の子、特に
「とにかく当日はそれぞれの組で待ち合わせしましょう。にひひ。アタシが
「いや、そんな気にならんけど。迷子にはなるなよ」
「とりあえず合流するのは開演の1時間前でいいか? せっかくだから武道館の前でみんなで集まりたいし」
「そうね。開演が18時だから17時に武道館の前に集合。それまではそれぞれの組で自由に過ごす。にひひ。楽しみだわ」
「ごめんね
さすがに呆れられていないかちょっと顔色を伺ってしまう。
「ううん。こんな風にみんなでお出かけとか初めてだから楽しい」
「それなら良かった」
やっぱり
「?
「あ、ううん。
「……っ!」
よほど恥ずかしかったのか
「ごめんごめん。でも、素敵な声だなって思ってさ。声優ファンの習性みたいなものだと思って気にしないで」
必死な僕のフォローを受けて
声があかりんみたい似ているような気がしたけど性格はまるで反対だ。あかりんだったらきっと全力で僕の誉め言葉を受け止めて喜びを表現するはず。
こんな時でもあかりんのことを考えてしまうなんて、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。