第11話 5月25日(火)0時
―みなさんご存知かもしれませんが、本日は『魔法少女役の新人声優がラジオをやるフラグ』から大切なお知らせがあります。
日付が変わった瞬間にラジオの配信サイトで番組を再生すると神妙な空気でスタートした。まるで何かの謝罪をするようなテンションに事情を知らない人なら心がざわつくと思う。
かく言う僕も
―この度、ラジフラこと『魔法少女役の新人声優がラジオをやるフラグ』は……。
今にも泣き出しそうな声で言葉を詰まらせる。ちょっと誇張し過ぎな感じは否めないけどリアリティがある良い演技だ。
明日、
ラジオでは基本的に演技をすることはほぼないけど、こういう茶番でしっかり演技できるのは強い。
―6月27日、日曜日に公開録音を行うことが決定しましたあああ!!
ファンファーレと共にスタッフさんの拍手が響き渡る。まっさらな状態で知ったら深夜にも関わらず飛び跳ねていたと思う。
父さんや母さんに怒られそうだから事前に情報を仕入れていて良かった。
―実はもうホームページには情報が載ってるんですよね? ちょっとラジオでお話するタイミングをミスったというか、隔週更新なのを作家さんが忘れていたみたいです。
「だから変なタイミングで情報が出たのか」
たしか
本来なら11日の放送で発表して、ホームページも更新する予定だったんだと思う。
―それでですね。非常に言いにくいのですが無料招待枠の募集はすでに締め切ってまして、今回の放送で当選者を決めちゃいます。
ゲストであるあずみんのファンではなく、本来のラジフラリスナーを招待するためと深読みしていた無料招待枠もただのうっかりミスのようだ。
―でもでも、日頃からメールを送ってくださってる方をご招待できるのであかりは嬉しいなって思います。だから作家さんを責めないであげてくださいね。
「天使だ」
僕は思わずつぶやいた。こういう事務的なことはスタッフさんの仕事であってあかりんには何の非もない。
それでも番組の顔はどんなに若くてキャリアが短くてもパーソナリティだ。作家さんのミスを謝り、しっかりフォローする姿はまさに天使。
―と、いうわけで早速抽選したいと思います。
ドンッドンッ! と重たい音がスピーカーから流れた。
―前回の放送から今回の収録までに届いたメール全部なんですけど、毎回すごい量なんですよ。公開録音の招待がなくてもこの量なので事前に告知してたらどれだけの量になったのか気になります。ねえ作家さん?
フォローを入れたあとはしっかりとイジる。何年も続いた声優ラジオではよく聞く光景だ。まだデビューして半年くらいなのにこんな技を使えるなんて、あかりんは本当にすごい実力を秘めている。
―ちなみに一組二名なのはあかりからの要望なんです。この番組のリスナーさんってなぜか幼馴染がいる人が多いじゃないですか。だから、もしよかったらその幼馴染と一緒に来てほしいんですよ。
「僕が当たったら
現象としては僕と
どちらかが当たれば参加できるので他のリスナーさんに比べて当選率は2倍だ。
でも、できれば自分で当てたい。
―それではまずメールの山を裏返しにして名前とか読めないようにして……。
♪ぴろりん
収録場組なのですでに結果は決まっている。それでも神に祈らずにはいられないタイミングでスマホが鳴った。
“音弥が当たったら絶対にアタシを連れていきなさいよ。あかりんもアタシに会いたいだろうし”
“わかってるよ。
“任せて。
“おい”
先週までと違うところ。それは
なんとなく声優ファンだとは察していたけどまさかあずみんやあかりんが好きだとは思わなかったし、
だから
うん。僕は頑張って一般販売で当てるよ……あずみんファンに勝てる気がしないけど。
―ではでは、公開録音にご招待されるのは~。どぅるるるるるるる。
「ドラムロールはあんまりうまくないな」
本当に下手なのかわざとクオリティを下げてるのかはわからないけど、それがまた可愛い。ファンの贔屓目と言われたら僕はそれを受け入れよう。
―はいっ! 決めました。おっ、いつもメールくれる方だあ。
あかりんの言葉に胸が高鳴る。僕は毎週欠かさずメールを数通送っている。採用率は
番組内で紹介されずとも裏では目を通してくれていると信じている。
いつもメールをくれる方が自分だったら。
公開録音に招待されるだけでなく、あかりんの記憶に日本に渡米の名前が刻まれている証明になる。
―それでは発表します。当選者は……っ!
スゥっと息を吸う音が聞こえた。今の息遣いも妄想が膨らむ。
―日本に渡米さんです。おめでとうございます!
「…………僕?」
あかりんはハッキリと日本に渡米と口にした。
そして僕のラジオネームは日本に渡米。つまり当選者は僕だ。
♪ぴろりん ♪ぴろりん ♪ぴろりん ♪ぴろりん
スマホの通知音が止まらない。
たぶん
すぐに返信した方がいいと頭ではわかっていても、今はこの幸福感に浸りたくて椅子に座って天井を見上げる。
「あかりん、僕のこと覚えててくれてるんだ」
特別印象に残るようなメールを送れた試しもない。
可能性があるとすればまみまみの幼馴染、つまりオマケみたいな存在として認知されるくらいだと思っていた。
「公開録音楽しみだなあ!」
運よく当選しただけなのに、あかりんとの運命を感じずにはいられない。
結局、スマホの通知を無視して幸福感に包まれたまま僕は寝落ちしてしまった。
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