第4話 5月12日(水)
人気声優の
彼女が演じた魔法少女のスプリングスノーはサイドテールが特徴的な元気な女の子で、役とのシンクロを高めるために自身も同じ髪型にしている。
年齢よりも幼く見える顔と明るいトークで次世代の人気声優になるとの期待も高い。
「
台本チェックをしようと机に向かったものの、なかなかヤル気が湧かずに体は勝手にベッドへと移動していた。
目を瞑れば眠ってしまいそうなくらい疲れてはいるのに、頭は妙に興奮して寝付けない。
「普段からあかりみたいだったら、わたしの人生も違ってたのかな」
オーディションに合格してから1年、実際にアニメが放送されて世に出る活動をしたのは半年前。声優というのはいつがデビューなのかわかりにくい。
この問題は声優ラジオを聴いていると何度か耳にするので知識としては頭の中に入っていた。まさか自分が直面するとは思っていなかったけど。
引っ込み思案で人見知りでクラスになかなか馴染めない地味な女の子。それがわたし、
漫画みたいなキラキラと輝く学校生活を妄想して、だけど自分とあまりに離れていて。だからわたしは
わたしは自分をわたしと呼ぶ。あかりは自分をあかりと呼ぶ。そこからしてもう完全に別人格。二重人格ではなくて、演じるという感覚。
もしかしたら演じる延長戦で声優にもなれるかもって受けたオーディションに合格して現在に至る。
「
自分に言い聞かせるようにつぶやく。あれだけ好きだと言っている声優が隣の席にいるのに彼は全く気が付いていない。
普段のわたしはボブくらいの長さで前髪で顔を隠しているけど、あかりは明るめのウィッグを付けてサイドテールにしている。
役になりきるという意味と、わたしとは違う人間であることを強調したいから。
「恋愛経験がないの本当なのに、やっぱり岸田くんみたいに疑うのは普通なのかな」
こんなに地味なわたしがたった17年の人生で恋愛なんかできるはずがない。
告白をしたことも、されたこともない。パッとしないのが
だからこそ、
恋愛をしたいわけじゃなくて、声優として活躍してあかりの演技をみんなに知ってほしい。
「あかりのことを一番好きでいてくれる人……か」
わたしが……ううん。あかりが言った好きな人の条件。
でも、これはわたしにも当てはまることでウソじゃない。
そんな人が今、わたしの隣の席にいる。
正体は明かせない。
「こんなこと誰にも相談できないよ」
もはや台本の内容はまったく頭に入ってこなくて枕に顔を埋める。
女子高生なので宿題もやらなくてはならない。
元から部活には入っていないので時間はたっぷりあるはずなのに、悶々として何も手に付かない。
「あ、
わたしが声優を目指すきっかけになった声優・
そんな憧れの先輩とデビュー作で共演できて、一緒にラジオもやった。裏では
それでもわたし、
―みなさん、こんにちは。名探偵の
この番組では
歯に衣着せぬ物言いが可愛いイメージの女性声優とかけ離れていて、そのギャップが大勢の心を掴んでいる。わたしもその一人だ。
―まずは一人目。いつもありがとう。まみまみさん。あずみん、こんにちは。はい、こんにちは。アタシの幼馴染は周りに女子高生がいるのに女性声優との恋愛を夢見ています。どうすれば目が覚めますか?
「まみまみさん、こっちにもメール送ってるんだ。すごいな」
幼馴染がいるまみまみさんはたぶんあの人だ。あかりの番組にもよく幼馴染とのエピソードを送ってくれる。
恋愛関係ではみたいだけど、相手のことが好きなんだなというのがメールから伝わってくる。早く付き合っちゃえばいいのに。
―そっかあ。せっかくリアル幼馴染がいるのにもったないよね。まみまみちゃんが他の男の子と付き合ったらその幼馴染も焦るかもね。あ、これじゃ不倫みたい? でも男ってさ、失ってからようやく気付くものなのよ。
「すごいなあ
昨日更新された放送でも幼馴染絡みの恋愛相談を読んだ。あかりは無難なことしか言えなくてアドバイスにもなっていない。
「
わたしはスマホを手に取り久しぶりにメールアプリを開いた。
オーディションに合格してからは同業者になるからとメール投稿を控えていた。元々そんなに採用されていたわけではないけど、こういう風に送れば大丈夫という知識はちゃんと持っている。
「
まみまみちゃんの幼馴染メールが読まれると大抵は実況で妄想とか言われている。
この前の唐揚げ教科書は
「あずみんって呼べるのは、ここだけね」
久しぶりにこのニックネームで呼べたことに胸が高鳴る。
本人を目の前にするとそのオーラに圧倒されて自然と先輩が付くようになった。
だから一人の悩める女の子として、
「やっぱりラジオっていいなあ」
そんなことをしみじみと感じながら、わたしはちょっと話を改変しつつ心の中に生まれた悩みをメールにぶつけた。
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