第16話 宿敵

「クッ! こいつ……!」


「ガドーさん!」


 佐藤が洞窟から出ると、そこにはボロボロになったガドーさんが膝をついている。


「どうしてここに!?」


「ブレサルがいなくなったんで、お前のところに行ったのかと来てみれば……」


 来てみれば?


「とんでもないやつが……現れたぞ」


「ガドーさん!?」


 気絶してしまったようだ。

 それにしても、とんでもないやつって……。


「一体誰が……」


「クックックッ」

「久しぶりだな、勇者佐藤」


「お前は!」


 忘れもしないこの声は。


「ジェクオル!」


 佐藤の目の前の空間がぼんやり歪む。


「前置きなどめんどくさい」

「この恨み、今晴らしてやる!」


 宙に浮いた剣が、佐藤に降りかかる。


 ガキィィン!


「くっ!」


 なんとか受け止める。

 すると、ジェクオルは余裕そうに語りだす。


「この剣は、地獄の王の秘宝だ」

「いつまで持つかな?」


「な、なに!?」


 赤黒く光るその剣は、じわじわと熱気を発している。

 佐藤はその熱さに顔をしかめる。

 そして、異変が。


 ジジジッ。


 嫌な音が、剣から響く。


「ああ!?」


「ほほう、勇者の剣といえど溶けるか」


 ジェクオルの剣が、徐々に勇者の剣を溶かしていく。


「クソっ!」


「勇者よ、剣の錆……いや灰になるがいい!」


 ジェクオルがうまいセリフを吐いたその時だ。


「佐藤!」


 洞窟から、シャロールが飛び出してくる。


「負けちゃだめ!!」


 その言葉を聞き、佐藤はニヤリと笑う。


「わかっ……てるよ!!」


「む?」


 佐藤の力が上がり、少し動揺するジェクオル。


「こんなもの!」

「僕の気持ちに比べればぁ!!」


 勇者の剣から、炎が上がる。

 佐藤の情熱に反応しているようだ。


「おりゃぁぁ!!!」


「ぐ!!!」


 巨大な爆炎がジェクオルを包み込む。


「はぁ……はぁ……」

「やったか……?」


 息を切らせて、炎が鎮まるのを見つめる。


「ここで負けるわけには……!」


 ジェクオルが炎の中から声がする。

 どうやらまだ生きているようだ。


「待てぃ!」


 再び洞窟から誰か出てくる。


「誰だ!」


「私を忘れたとは言わせないぞ!」


 角のあるその少女は。


「ふん、魔王か」


 ジェクオルは、心底興味なさげだ。

 一応彼の上司だと思うんだけど。


「ジェクオル、大人しく地獄に帰るのじゃ」


「帰ってたまるか」


 あくまで反抗するようだ。 


「その剣は、この世界にあってはならないものよ」

「返しなさい」


 今度は地獄の王が洞窟から出てくる。


「ちっ……!」

「地獄の王まできやがったか」


「ジェクオル、観念するんだな」


 これにて一件……。


「喰らえ!」


「うわ!」


 目の前に炎の壁が現れた。

 ジェクオルが見えなくなる。

 そして、それが消えるとジェクオルの姿は消えていた。


「逃げられたか……」


「大変なことになったのじゃ」


 あいつは魔王幹部。

 なにをしでかすかわからない。


「とりあえずギルドに報告に……」


「地獄の門はどうします?」


「そうだった!」


 すっかり忘れてた。

 このままでは、次々と怪物が出てくる。

 開いたままだから。


「あれ、ていうかさ」

「ブレサルは?」


「「「……」」」


 みんなが沈黙した。


 さて、この物語の主人公は、今どこに?

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