第14話 窮地

「よし、行こう!」


 ブレサルが意気込む。


「ほえ?」


 行くってどこに?


「決まってるだろ!」

「お父さんについていくの!」


「危ないからダメなのじゃ……」


 そうそう。

 魔王の言うとおりだ。


「大丈夫! なんとかなる!」


 ブレサルは魔王の腕を引っ張って、家を出た。


「ブレサル! どこ行った!」


 あ〜あ。

 どうなることやら。


――――――――――――――――――――


「暑いね〜」


「そうじゃな〜」


「なんとかならないの〜」


 言い出しっぺのブレサルだが、途中でへばっている。

 ほら、言わんこっちゃない。


「仕方ないのじゃ……」


 魔王がブレサルに手を掲げる。


「ん?」


 どうしたブレサル?


「涼しくなった!」


 おお、本当か!

 魔王かな?


「私の氷魔法なのじゃ〜」


「さすが魔王ちゃん!」


 そんな魔法も使えるんだな。


「それにしても、こっちであってるのじゃ?」


「たぶん!」


 たぶんか……。


――――――――――――――――――――


「ブレサル〜、もう帰ろうなのじゃ〜」


 今度は魔王がへばる。

 暑いというより、疲れたんだろう。


「もうちょいだから、頑張って」


「なんでわかるのじゃ?」


 うんうん。


「こっちから、風の音がした」


 ブレサルはネコミミを動かす。


「ブレサルはすごいのじゃ〜」


 すごいな〜。


「早く行こ!」


 洞窟へ入る。


――――――――――――――――――――


「おわ〜、でっけ〜!!!」


 奥にはあの門が。


「これは……地獄の門なのじゃ」


「これが?」


 地獄に?


「でも、なんでこんなところに……」


「きゃあー!!!」


 扉の向こうから、叫び声が聞こえた。


「今のは……」


「お母さん!!!」


 ブレサルが躊躇なく門をくぐる。


――――――――――――――――――――


「グルルルルル」


 人の形をしているが。

 人の背丈の二倍はある。

 頭に角を生やしたもの。


 そいつはシャロールを担いでいる。


「もう! 離して!!」


 必死の抵抗も虚しく、シャロールはどこかへ……。


「待てーー!!!」


「グア?」


 勇敢な少年が一人。


「ブレサル!?」


「お母さんを返せ!」


「危ないわ! 離れて!!」


 こんなときでも、シャロールはブレサルを心配する。


「グオー!!!」


 巨大な手が振り下ろされる。

 ブレサルは……。


「待つのじゃ!」


「グ!」


 手が止まる。


「所詮この世は弱肉強食!」

「お主が食うのは強者の証!」


 ふむ。


「じゃが!」


 じゃが?


「私は魔王、唯我独尊!」

「しからば、お主は弱者になるぞ!」


 ……。


「どういうこと?」


 ブレサルよく言った!!

 難しくてよくわからん!


「グゥ……」


 あれ、あいつはわかってくれたみたい。

 シャロールを置いて、どこかへ歩き出した。


「お母さんー!」


「ブレサルー!」


 親子が抱き合う。

 感動の再会だ。


「魔王ちゃん、ありがとう!」


 シャロールは魔王も抱きしめる。


「どういたしましてなのじゃ」


「ねぇ、お母さん。お父さんは?」


「……あそこ」


 シャロールが指さした先には、佐藤が地面に倒れている。


「大丈夫!?」


 ブレサルが駆け寄る。


「一体なにがあったのじゃ?」


 二人も佐藤を起こしに行く。


「あのね、ここに入ってしばらく歩いてると、どこからか叫び声が聞こえて……」


 さっきのやつか。


「気づいたときには、近くにいたの」


 恐ろしいな。


「それで、佐藤は頑張って戦おうとしてくれたけど」


 けど……。


「敵の攻撃を食らって、気絶しちゃったの」


 あ〜あ。


「お父さん、弱っちい〜」


「こら! そんなこと言わないの!」


「いや、僕が弱いのは事実だ」


 佐藤が目を開けた。


「危険な目に遭わせてすまなかった」


 起き上がった佐藤は、シャロールを見つめる。


「僕がもっと強かったら……」


「私、佐藤が頑張って守ろうとしてくれて嬉しかったよ」


「シャロール……」


「佐藤……」


 うわー!

 ダメダメダメ!!!

 ブレサル、目をつぶれ!!


「え?」


 しばらくして、一旦離れる夫婦。


「もう開けていい?」


「どうして目をつぶってるの、ブレサル?」


「作者がそう言ってたから!」


「あはは、たしかにな。今のは子供の前でやるもんじゃなかったな」


「ありがとね、作者さん」


「あれ、魔王ちゃん?」


「顔が真っ赤だよ?」


 そりゃあ、あんなシーン見たらそうなるよ。


「な、なんでもないのじゃ〜!」


「え〜! やっぱり見たかったー!」


「も〜! 二人にはまだ早いの!」


「それより、これからどうするかだ」

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