Time the gate open (門が開くとき)
第12話 目的
「それで、佐藤はなんで転勤になったの?」
馬車に揺られながら、シャロールが尋ねる。
「あ〜、それ訊きたいか?」
少し顔が曇る佐藤。
「嫌なら話さなくてもいいよ」
「いやさ、これを聞いたらシャロールが傷つきそうでさ」
佐藤は気を使ってたんだね。
「……そっか。でも、話していいよ」
シャロールは覚悟を決めたみたいだ。
「わかった」
「あのな、あそこは元から暑い町だろ?」
「うん」
火山があるからね。
「それがさらに暑くなったのが、ちょうど僕達が初めてあそこに行った頃」
「そうだったね」
なぜか暑くなってきたよね。
「なんでだったか覚えてるか?」
「えっと……」
それは……。
「ファイウルが魔法で上げてたからだ」
「あ……」
なにかを思い出したシャロール。
「最近また暑くなってきてさ」
「え……」
それって……。
「ギルドではファイウルが復活したんじゃないかって言われてる」
「ホント!?」
嬉しそうなシャロール。
「だから、勇者の僕が討伐を頼まれた」
「え……ダメ……ダメだよ!!!」
シャロールは必死に訴える。
「わかってる、わかってるよ」
佐藤がシャロールをなだめる。
「だから、説得してくる予定だったんだ」
「ありがとう……」
「そういや、魔王ちゃんはファイウルについて知ってるんじゃないか?」
「知らないのじゃ〜」
「あれ?」
魔王なのに?
「ジェクオルが全部私の代わりにやってたから、さっぱりなのじゃ」
なるほど。
そんなことになってたのか。
「そんじゃあ、魔王ちゃんはあのことについても知らないのか?」
「あのこと?」
首をかしげる魔王。
どうやら本当に知らないようだ。
「知らないならいいの」
「……?」
わざわざ言うのも辛いしね。
「さて、まだまだ時間がかかりそうだから魔王ちゃんも寝てたらどうだ?」
「むにゃむにゃ……」
「ブレサルみたいに」
佐藤にもたれかかって、よだれを垂らすブレサル。
「う〜ん……」
「ほら、私が支えてあげるから」
シャロールが手を広げる。
「それじゃあ!」
嬉々としてシャロールに身を預ける魔王。
――――――――――――――――――――
「暑い……重い……苦しい……」
佐藤が唸る。
「はっ!」
目を覚ますと、佐藤はみんなにサンドイッチされていた。
右には、ブレサル。
左には、シャロール。
そのまた左には、魔王。
みんな寝ている。
「もうすぐですよ〜!」
御者の声が聞こえた。
「おい! みんな起きろ!!」
――――――――――――――――――――
「お〜! 久しぶりだな!」
ボルカノンの門では、ガドーが待ち構えていた。
「はは、相変わらずお元気そうで……」
やはり顔が引きつっている。
「さっそくしごいてやろう!」
「あ、いや、僕は仕事の引き継ぎがあるので!」
「え? そうなの?」
そんなこと、初めて聞いたぞ。
「じゃあな!」
そう言って、佐藤は逃げていった。
気にせずガドーは話し続ける。
「ブレサルも大きくなったな!」
「はい!」
「おじさんと特訓するか!」
「はい!」
ブレサルは乗り気なんだけどな〜。
――――――――――――――――――――
一方その頃ギルドの佐藤は。
「こちらが13年前のデータです」
ギルド職員に書類を手渡される。
「ふむ」
「平均気温を大きく上回る数値が出ていますでしょう?」
「そうだね」
数日だが、明らかに数値が上がっている。
「しかし、ある日突然平年通りに戻りました」
「僕が倒したからかな」
「はい、おそらく」
「そして、最近のデータがこちら」
新しい紙。
「むむむ」
「再び気温が増加しています」
「そのようだね」
「そこで、一度火口の調査をお願いしたく……」
「わかった」
佐藤はあっさりと引き受けた。
元からそのつもりだったからね。
「ありがとうございます」
「しかし、二つお願いをしてもいいかな?」
「なんですか?」
「一つ目。僕の妻も調査に参加していいかな?」
「ええと……奥様……ですか?」
シャロールを?
「そう」
「アシスタントが必要なのでしたら、我々ギルド職員が同行しますよ。わざわざ奥様を危険が伴う場所にお連れせずとも……」
「いや、ちょっと複雑な事情があってね」
「彼女にしかできないことがあるかもしれないと思って」
それって、スキルとか?
「そうですか……」
「それともう一つ」
「はい」
「この調査は、二人だけで行かせてくれ」
「はい?」
「ダメかな?」
「いえ、佐藤さんがそうおっしゃるのなら、止めはしません」
「ただ……」
「ただ……?」
「今回の調査は大変危険なものだと想定しています」
「それでも、お一人で?」
「まあ、なんとかなるよ」
神妙な面持ちの職員に明るく答える佐藤。
「それじゃあ、帰っていいかな?」
「あ、はい! お気をつけて!」
ギルドを出た佐藤は、一人呟いた。
「シャロールさえいれば、大丈夫さ」
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