第11話 分かり合う

 今度は、服屋さんに寄る一家。


「よしよし、こんなもんでいいだろ」


「お父さん、ありがとうー!」


「ふっ、どういたしまして」


 ブレサルは、半袖シャツに短パンといった夏らしい格好だ。

 頭には、青いキャップを被っている。


「魔王ちゃんもかわいいよ」


「えへへ、ありがとうなのじゃ」


 魔王は、白いワンピースを着ている。

 今まで着ていた暑苦しいマントなんかを脱いだその姿は、魔王というより普通の女の子といった印象を受ける。


「魔王ちゃん、キレイだね」


「そ、そうか?」


「これ、真っ白で……」


 ブレサルがワンピースを掴む。


「キャッ!」


「あ、おい!」


「ダメでしょ! ブレサル!」


 うんうん。

 スカートめくりはいけないぞ。


「……違うのに」


「ブレサル?」


「どこ行くんだ!?」


 ブレサルは家を飛び出した。


――――――――――――――――――――


「うぅ〜、どうしよ」


 もう夕陽が出てるよ?

 家に帰ったら?


「イヤだ!」


 う〜ん、困った。

 このままじゃ、悪い人に……。


「ブ〜レサル♪」


 ん?

 この声は……。


「魔王ちゃん?」


 燃える夕日を背に、同じく赤い髪の魔王が立っている。


「早く帰ろうなのじゃ」


 これで一件落……。


「……イヤ」


 あれ!?


「どうしてなのじゃ?」


「お父さんとお母さんに怒られるもん」


 うう〜ん。


「大丈夫なのじゃ」

「佐藤とシャロールはそんな人じゃないのじゃ」


 そうだね。

 魔王の言うとおりだ。


「でも……」


「ブレサルは、どうしてあんなことしたのじゃ?」


 普段どおりに尋ねる。


「魔王ちゃんも、怒ってるの?」


 恐る恐るなブレサル。


「ううん」

「びっくりしたけど、怒ってないのじゃ」


「……そっか」


 よかったな。


「怒ってないから、話してみてほしいのじゃ」


 だってよ。

 話してみたらどうだ?


「……うん、あのね」

「それ、すごくキレイでさ」


 ブレサルは魔王のワンピースを指差す。


「うむ」


「もっと近くで見たかったの」


「それで引っ張って……」


「ごめんね」


 ちゃんと謝れて偉いな。


「謝ることないのじゃ」

「ほら、もっと近くで見るのじゃ」


 魔王が裾をヒラヒラさせる。

 向こうも許してくれたみたいだな。


「あっ! 魔王ちゃん!」


 ブレサルが手で顔を覆う。


「ブレサル? 見たいんじゃなかったのか?」


「あの……パンツ……」


「ん?」


 魔王が下を向いて、頬を赤く染めていく。


「ブレサル……見たのじゃ?」


「ううん、ちょっとしか見てない!」

「帰ろう!」


 そう言って、服屋に戻るブレサル。


 ちょっとは見たのか……?


――――――――――――――――――――


「も〜! ブレサルったら!」


「いきなりどっか行くなんて……!」


 服屋の前では、二人共カンカンに怒っていた。

 心配してるから、こんなに怒ってるんだろうな。


「ブレサルを怒っちゃダメなのじゃ!」


「「魔王ちゃん?」」


 なんて言うのかな?


「ブレサルだって、わけがあるのじゃ!」

「まずは話し合い……シャロールは昔そう言ってたのじゃ!」


 確かに。


「……」


「そうだな、忘れてたよ」


「「ブレサル」」


「ごめんな」


「ごめんね」


 二人は申し訳無さそうに告げる。


「それじゃあ、どうして……」


「あんなことを……」


「グ〜〜〜〜!」


 突如響き渡るお腹の音。


「えへへ、お腹すいたのじゃ」


「魔王ちゃんったら〜」


「メシにするか〜」


 こうして一家は帰路についたとさ。


――――――――――――――――――――


「ブレサルは優しいのじゃ〜」


 布団の中で、隣に寝ているブレサルを見つめる魔王。


「むにゃむにゃ……」


「寝ちゃってる……」

「かわいい寝顔……」


 ネコミミにそっと触れる。


「んっ」


 なにかを感じ取って、少し吐息が漏れる。


「ブレサルのおかげで、私、毎日楽しいのじゃ」


「う〜ん」


「ありがとう……なのじゃ」

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