第6話 犠牲者一人目:魔王流の再起不能 その1
サイド:アドルフ
――休日明けの朝
学生寮からいつもの通学途中、俺たちはいつものメンバーで吊るんで教室へと向かっていた。
つまりは、俺、クリートさん、そして眼鏡のリチャードの三人だ。
と、「ふわあ……」と欠伸をしたところで、クリートさんが俺にこう語りかけてきたんだよな。
「おい、聞いたか? カリーナの話……なんだけど」
「カリーナの話ですかい? そういえば……今日はいませんね。いつもなら俺たちのところに犬みたいに走ってくるのに」
「女子寮の監督官から聞いたんだが、親に金を無心しに実家帰りをしたらしいんだ」
「金の無心に実家帰り? クリートさん……奴に無茶な小遣いをせびったんじゃ……」
「はは、そんなことをするわけがないだろう? カリーナには今まで色々と小銭を出してもらったが、親が絡むレベルまでの話になると遊びの範疇を超えて面倒ごとになってしまうよ。そんな無茶苦茶な……」
と、そこで眼鏡のリチャードが「そうだそうだ」とばかりに大きく頷いた。
「そうですよ。クリートさんはキレたら何をするかわかりません。が、同時にクレバーなのですから……そんなことをするはずがありません」
「じゃあ、どうして親に無心何て……そんな」
「それがだね。カリーナの休暇願いを受け取った監督官が言っていたんだが……」
「ふむふむ。どういうことなんですかい?」
「ホウセキノギョクザ……などと、意味の分からないことを言っていたらしい。目も虚ろで、声に抑揚もなくて……監督官も意味が分からなかったらしいんだが」
「ホウセキノギョクザ? ふーむ……何のことでしょうかね?」
どういうことだろう?
と、俺たち三人は顔を見合わせて思案を始める。
そうしてクリートさんは何かに気づいたように「あっ!」と手を叩いた。
「分かったんですかい?」
俺の問いかけに、クリートさんは大きく頷いた。
そしてクリートさんは少しの間、押し黙った。
そして大きく大きく息を吸い込んでクリートさんはこう言ったんだ。
「古代魔法か何かの呪文かだろう。カリーナはああ見えて勉強家だから……ノイローゼになってしまったんだ」
その言葉を受けて、俺とリチャードも大きく頷いた。
「ああ、そうですぜ。カリーナはきっと頭がおかしくなっちまったんだ」
「間違いないですね。アレは無理して私たちに付き合っていたフシがあるし……。先日のクラウスへの暴行もあって、心が壊れたんでしょう」
そうしてクリートさんは「やれやれだ」とばかりに肩をすくめた。
「カリーナもそろそろ切り時だね。これで今回の進級成績は欠席で下位枠が確定……流石につるんでる相手としては世間体が悪すぎる」
「ってことは、カリーナはどうするんですかい?」
するとクリートさんはニヤリと笑って、俺たちの前に歩くクラウスを指さした。
「まあ、今後はイジる対象が二人に増えるだけさ。カリーナには今後は仲間としてではなく純粋な財布担当……それでクラウスには今後はもっと面白いオモチャになってもらうってことだね」
「ってことは、今日の近接模擬戦で俺が奴を無茶苦茶に壊して良いってことですか?」
「ああ、公衆の面前で……完膚なきまで叩きのめしてやると良い」
そうして、クリートさんは「クック」と笑いを堪えていたのだった。
サイド:魔王ルキア
少年の記憶を辿るに、今日は神装機神搭乗科の進級試験ということらしい。
2学年における席次は、これまで1年間での学業通年成績が半分で、今回の技量試験で残り半分で決定するという次第のようだな。
技量試験について――
・今日
1次試験:魔法禁止&機神非搭乗での近接格闘模擬戦
2次試験:的当てによる魔法技能試験
・時を開けて2日後
3次試験:格闘禁止&機神非搭乗による魔法戦闘模擬戦
・更に時をあけてその翌日
最終試験:神装機神搭乗による模擬戦
2次試験の的当て以外の試験については1対1による形式のようだ。
そして、2次試験以外の余の対戦相手は――。
なるほど、近接試験が巨体のアドルフ、魔法試験が眼鏡のリチャード、そして機神搭乗での試験がクリートということか。
しかも、それぞれの得意分野での対戦ということになっている。
クラウス少年を公衆の面前で完膚なきまでに叩きのめし、辱めようと言うことだろうが……いささか対戦カードが出来過ぎているキライがあるな。
恐らくはクリートの父親が公爵ということで、裏から表から圧力をかけたのであろう。
が、そのようなことはどうでも良い。
余は連中は叩きのめすし、優秀な成績をもってこの学院の2年に進学し、神装機神の操縦方法をマスターするに最適な環境を作り上げる必要があるのだ。
ちなみにクラウス少年は学業成績においてはトップクラスということで、今日の成績で余がトップを修めれば、必然的に余はトップ待遇の学習環境を得ることができる。
ククク……。
何もかもが余の都合の良いように進んでいるなと、余がかつて魔界の魔女共を騒がせた暗黒スマイルを浮かべていると――
「おい、クラウス? 何をニタニタしてやがんだよ?」
アドルフから背後から殴られそうになったので、余はひょいっと顔を動かす。
すると、スカっと拳が空を切ったアドルフは大声でこう叫んだ。
「テメエ! 何避けてやがるんだよっ!」
「……貴様は馬鹿か?」
事前に声をかけたとはいえ、背後からの奇襲。
それを目視されることもなく避けられる。
天地ほどに実力差が無い限りはこのような芸当は不可能なことは猿でも分かりそうなものだが。
「テメエ! 馬鹿って……誰に向かってモノ言ってんだよオイっ!」
「余の眼前――ブタ畜生に向けて言っている」
その言葉でアドルフは顔を真っ赤にし、そのまま「ははは」と笑い始めた。
「テメエ……再起不能にしてやんぜ……。ここまで俺を怒らせるとは……お前もついに頭がおかしくなったようだな」
「いや、余は至って通常運転なのだが」
「まあ良い。ストップがかかるまでに、テメエの全身の骨をバキバキに折って、足腰立たなくして再起不能にしてやるよ。なあに、回復魔法を使える教授がいるし死にはしないぜ」
「なるほど。足腰を立たなくして……再起不能か。つまり、同じ戦場に立つからには貴様にも同じことをされる覚悟がある……と。今の言葉、二言はないな?」
「ああ、男の言葉だ――二言はねえよ。必ずテメエを再起不能にしてんぜ」
「ならば、余も……再起不能を前提として、貴様の足腰を立たんようにしてやろうか」
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