第5話 早速、配下ができたようです(強制)

「ふむ……やはり、存外悪くない」


 質屋に入れた金貨の残り――総数1000枚を寮の部屋の赤絨毯の上に敷き詰め、ヒャッホーイとばかりに裸でゴロゴロとしながら、恍惚の表情で余はそう呟いた。


 やはり、転生時は最初に金がないのが常だからな。


 転生……魔抜けという条件の都合上、それは致し方なしのなのだが、やはり……余としても金がないのはちょっぴり悲しく、そしてやっぱりちょっぴり寂しいのだ。


 しかし、今回はカリーナの部屋にあった家宝っぽい指輪が思いのほかに高く売れたので、いきなり小金持ちスタートとなった。


 と、なると、余のテンションがちょっと上がって「はっちゃけ」てしまうのは無理はない。


 っていうか、魔王ということで良く勘違いされがちなのだが実は――



 ――余は結構、俗っぽいところがあるのだ



 それは、お茶目さんと言い換えても良い。


 と、金貨の絨毯でゴロゴロしていると、ドンドンと寮のドアが叩かれた。


「おい、クラウス! アンタ……ウチの家の家宝を盗みよったなっ!」


 どうやら殴り込みに来たらしいので、余は立ち上がる。

 しかし、盗みとは人聞きが悪い。


 資材調達係のモノは余のモノであるのは必然ではないか。

 お前のモノは俺のモノという格言を知らんとは、これは教育の必要があると……余は深く溜息をついた。


「アンタ! どういうことなんよっ!?」


「どういうこととは?」


「さっきはマントで今は部屋で全裸やってっ!? 目のやり場に困るやんか! まあ良いっ! ともかく家宝を返し――アレっ!????」


 グギャリとばかりにカリーナの延髄に手刀を入れ、余は「やれやれ」と再度のため息をついた。


 ちなみに、やはり余は女を殴ることに抵抗はない。


 何故なら、余は男女平等……戦場におけるジェンダーフリーを推奨とする人権派の魔王なのだから。


「貴様が余に……これから2年間よろしくと言ったのであろう? 余の側に置くならば、役に立つのは道理であろうに」




 サイド:カリーナ



「ところでカリーナ……玉座とヴェールの調達なのだがな?」


 マジで意味分からへん……というのが、ウチの率直な感想や。


 いきなり滅茶苦茶強くなってるのもワケわかんし、喋り方もマントも部屋で全裸なのも意味分からへん。


 部屋は赤絨毯やし金貨が散乱してるし……。



 ――いや、何が起こっているのかマジで意味分からへん



 ウチの搭乗者武装(ボディスーツ)についても、拳の形に沿ってメリこんでいたし……。

 何かの冗談だと思ってたけど、どうにも冗談じゃあらへんなこれは。


「あ、あの……ウチは……もうアンタさんから手を引くので……資材調達係とかいうのは勘弁してもらいたいんやけど?」


「ん? おかしなことをいう奴だな……そもそも貴様が言ってたのだろう? これから2年間一緒だ……とな」


 アカン……めっちゃ睨まれてるし、取り付く島もあらへん。


 ともかく……今は様子見や。


 なんや分からへんけど、こいつに逆らうとすっげえヤバいって気がするのは間違いあらへん。


 これは長年、アドルフたちみたいなヤベエ連中に付き合っていたウチが培った第6感みたいなもんや。


 で、こういう時のウチの危険察知はよーく当たるんや。


「それであの……玉座でっか?」


「うむ。高貴な者たるもの、やはり玉座と……玉座を覆うヴェールは必要だと思うのだ」


 アカン! こりゃアカン!



 ――完全に頭がぶっ飛んどるやないか!



 やっぱこいつ……マジでやばいやん!


 そもそも学生寮に玉座って……。


「ところで、余は腹が空いたのだが?」


「……え?」


「だから、余は腹が空いたのだ」


「……え?」


「だから、貴様は余の資材調達係だろう? ああ、確か……お前たちの作法ではこう言うのだったよな」


「作法?」


「ウダウダ言わずにダッシュで学食行って買ってこい!」


 と、その言葉でウチはマッハで立ち上がり、食堂まで走っていったんや。



☆★☆★☆★



「ほう、カレーとな? 貴様……中々使える奴ではないか」


 クククと笑いながら、満足げに頷くクラウスは、ウチの買ってきたカレー弁当を机に置いて、どこで買ったものなのか、紙エプロンを装着した。


 すげえ……学食の食いモンに紙エプロンつける奴なんて初めてみたで。


「くくく、この紙エプロンがそんなに不思議か?」


「まあ、学食でそれをする人はあんまりおらへんさかいにな」


「高貴な者たるもの、マナーはいつでも重要だ。特にカレーのような無形芸術に対する際はな」


 っていうか、こいつ……ただの貧乏貴族の5男坊やったよな?


 さっきから高貴という言葉にこだわっているようやけど……一体全体どういうことなんや?


 と、そこでスプーンで一口カレーを食べると同時、クラウスの眉間に皺が寄った。




「カレーといえば甘口だろうがっ!」




 腹の底に響くような、超ド級の怒声やった。

 部屋全体の空気がビリビリと揺れて、その怒声にウチの全身が粟立つ。

 そして、その瞬間、窓から見える近くの山の辺りから雷鳴が走り、ガラガラドゴシャーンと稲光が鳴ったんや。


 これ……カミナリ落ちたよな? 

 うっわあ……煙とか出てるし……山火事とか大丈夫かいな?


 っていうかこれ……こいつが……やったんか?

 いや、でもまさかな? 魔法やったらあんなん大魔法の範疇やし……偶然やんな?


「ふむ、余としたことが……やはりカレーのことになると怒りを抑えきれん。無意識で雷撃魔法を放ってしまうとは……」


 アカーン!


 偶然ちゃうかった! やっぱりこいつがやったことやった!


 ってか、雷撃魔法って第七階梯クラスやんな!? そんなの400年前の……伝説の時代でも学生レベルではありえへんやんっ!?


「ところでカリーナ……玉座の調達なのだがな?」


 と、再度の問いかけを受け、ウチはドアへと駆け出した。


「どこへ行くのだカリーナ?」


「あ、その……えーっと……玉座とヴェールはツテを伝って何とか揃えてみます! あと……甘口カレーは今からマッハで買ってくるさかい……堪忍……堪忍したってください!」


「ふむ……良い心がけだ。ああ、そうそう――学食のオバちゃんに、ハチミツを別皿で貰うのも忘れるではないぞ」


「わ、わ、わ……分かりましたっ!」


 そうしてウチは半泣きになりながら学食へ向かって走りながら思ったんや。


 アレは狐憑き?

 

 あるいは、悪魔憑き?


 それとも……アレは元々あんな奴で、今まで様子を見てただけ?



 ――あるいは、覚醒者?



 何が何やら分からへん。


 ともかく、神装機神に搭乗もせんと第七階梯クラスの魔法を扱うなんて、バケモノ以外の何物でもあらへん。


 いや、ウチみたいな普通の学生やったら塔乗してもそんなことは不可能や。



 ――ああっ! ほんまにもうワケ分からんっ!



 そして、そんなパニック状況の中、ただ一つ思うこと……それは――



 ――ウチ等はヤベえ奴に手を出しちまったってことや




 それだけは間違いない。

 と、ただただウチはダッシュでその場を駆け抜けるのだった。

  


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