異世界に転生したけどそんなことより静かに暮らしたい!

猫太郎

序章 初めての死

第0話 プロローグ

――二〇XX年七月三一日、私は死んだ。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




何か、遠くでけたたましい音が鳴り響いている。


「……」


遠い。

しかし音に気付いた途端、それは加速度的に近づいてくる。


……リリリリ。


意識が覚醒してくると音の正体に気付く。同時に思い至る事実。


「……んー……朝、か」


ジリリリリリリ!


「うるさ……」


音は枕元に置かれたスマホから鳴っている。

さっさとアラームを止めると私は再び布団の中に潜り込んだ。


何のためのアラームなのか自問したくなる。起きなければならない時間にセットしたのではないのか。

だが答えは否。

どちらかと言えば鳴ってる時が朝だと知らせるため、と言ったほうが正しい。別に起きるためにセットしたわけではない。


アラームの音が消えると窓の向こうから蝉の鳴き声が聞こえてくる。


おかしなものだ。

夏だというのに布団というものには妙な魅力あるような気がする。私の――人間の心を掴んで離さない得体のしれない魅力。

冬ならば理解できる。寒いからぬくぬくと温かい布団の中に籠っていたい。だけど夏でも布団から出たくないという結論に変わりはない、不思議だ。


すると、不意に部屋の扉がノックされた。


舞依まいー、いつまで寝てるの?」


お母さんが私を起こしに来た。

起きなければならないとも、起きようとも思っていないがとりあえず返事をする。


「んー……今行くー」


意識して声を出したからだろうか、ぼやけていた視界がだんだんとはっきりとしてくる。

眠気が完全に消えたわけではないが、わざわざ二度寝しようという気も削がれた。仕方なしに布団を押し退け立ち上がる。


部屋を出ると朝食の微かな香りが鼻腔をくすぐった。

階段を降り、リビングまで移動する。


食卓にはすでにお父さんが座っており、新聞を両手で広げていた。対面には弟の健二、食べ終わった食器の前でゲームをしている。


「……おはよう」


声をかけるとお父さんと新聞越しに目が合った。


「おはよう、ずいぶんゆっくりだな。夜更かしでもしていたのか?」


していたからどうだと言うのだろうか。

今は夏休みの真っただ中、特に差し迫ってやらなければならないこともないし、どちらかと言うと日頃の疲れを取るための期間だ。とやかく言われる筋合いはない。


「夜更かしはお肌の天敵よ、あんたも女の子ならそういうの気を遣いなさい」


どうやら女の子は肌に気を遣わなければならない暗黙の了解があるらしい。

知ったことか。


「姉ちゃんにもいろいろあるんでしょ。別に少しくらいいいんじゃないの」


確かにその通りなのだが、健二にそれを言われると少し引っ掛かる。

私が姉で健二が弟だから、というのも大きいのかもしれないが両親は基本的に健二には甘い。温室でまったり育ってきた弟に援護してもらうのは情けないし納得いかないものがある。


私は特に何も返さずに食卓に着く。

朝の献立は白飯、味噌汁、焼き魚、そして納豆。朝食と言えばこれ、といった感じだ。

先ほどの会話もあれで終わったらしく、それ以降はテレビの音だけが流れる空間で朝食の時間は終わりを迎えた。




「ごちそうさま」


焼き魚だけでごはんを消化してしまったので納豆には手を付けていない。食器を重ねて片手で持ち、パックの納豆を逆の手で持ってキッチンに向かう。

洗い物はシンクへ、納豆は冷蔵庫に戻してついでに中の麦茶を取り出す。


健二は自室へ戻り、お父さんは庭に出て行っているのでリビングには私とお母さんしか残っていない。


「おそまつさま、食器水張っておいてよ」


「わかってるって」


言いながらそこで初めて食器に水を流し込む。

それを眺めながらコップに麦茶を注いで口をつけた。


さて、起きなければそれはそれでよかったが、せっかく起きたのだから何かをしよう。

何かとは言うもののやることは基本的に二分される。メンタルケア的に趣味を満喫するか、それとも――。


「もうちょいしたら図書館行ってくるから」


「そう、気を付けてね」


――学生における長期休暇に必ずと言っていいほど付きまとう、宿題というものだ。

別に家でやればいい話なのだが、部屋では誘惑に負け、リビングでは気が散ってしまう。


結果、やはりそういったことに相応しい場所へ移動するのがもっとも効率的なのだ。わからないことがあればその場で調べることもできるし、気が散るほどやかましくする人もいない。スマホで調べればいいというのは野暮だ、正解にたどり着くまでの過程が長ければ長いほど記憶には残る。


後は単純に図書館で勉強するというシチュエーションに何となく憧れに似た感情を抱いている、というのもある。形から入るタイプとも言えるかもしれない。




自室に戻り一通り準備を終わらせると、早速玄関へ向かう。

靴を履き、顔を上げると頭にふわりとした感触。


「ほれ、暑いから被って行き」


感触の正体はお母さんに被らされた帽子。

しかも洒落っ気など一ミリもないキャップタイプだ。かなりださい。


「えぇ……被ると汗で髪の毛ぴたってなるから嫌なんだけど……」


「ぴたってなるより熱中症になるほうが嫌に決まってるでしょ、いいから被って行きなさい」


確かにそれはそうだ。


しかし子どもというのは実用的なものよりも見た目を重視しがち。私も例に漏れることはない。

とは言うものの別に誰かと会うわけでもない、遊びに行くというのであれば断固拒否したが今日くらいはいいだろう。


適当に乗せられた帽子をしっかりと被り直し、私は家を出た。


「行ってきます」


「ん、行ってらっしゃい」




――暑い。


暑い、暑すぎる。

ぶっちゃけ帽子ってどうなのだろうか。照り返しの熱気がつばに遮られるから顔まわりが余計に暑くなる気がしないでもない。


朝のニュースが頭の中でこだまする。「今年は例年よりも平均的に暑くなりそうです」、もう聞き飽きた。五年は同じ言葉を聞いている気がする。

この調子でいくと数十年後には人が住めるような環境ではなくなっているのではないだろうか。


私は恨めしそうに頭上の太陽を睨みつける。


そもそも、何故遮蔽物も何もない一本道を歩かなければならないのだろう。

いや、答えはわかりきっている。ここが田舎で、インフラの整備もまともに行われていないからだ。

自転車という手もあるにはあるが、中学生くらいの時から乗っていない。理由は……できれば察してほしい。

それにうちにある自転車は一台、主に健二が使っているためいちいち断りを入れるのも面倒くさい。


太陽を睨んでも何も好転しない。

むしろ日差しを直に受けることで体感温度が上昇する分マイナスと言えるだろう。


前に向き直って先を進む。


一本道、右には田んぼが広がっており左には川が流れている。気分だけでも涼しくなろうと無心で歩きながら川を見つめる。

と、向こうの河川敷で遊んでいる子どもたちが目に入った。


「……元気だなぁ」


不思議なもので、元気に遊んでいる子どもを見ているとこちらまで元気になるようだった。


三人でひとつのボールを蹴りながら追いかけている。ルールなどないのだろう。ただなんとなく、ボールを保持しているとすごいみたいな感じだ、きっと。


微笑ましくそれを見ていると、子どもたちのひとりがボールを大きく蹴り飛ばした。ボールはまっすぐに私のほうへ飛んでくる。届くことはないが子どもたちが取りに来るより私が行ったほうが近いという程度。


多分、普段であれば私はそれを無視しただろう。

別に関係ないから、こんなところで善人面してみても何も返ってこないから、ただ暑いから。


だけど私は進行方向を少し変え、ボールに向かって歩いた。

そしてそれを拾い上げ、すぐそこまでやって来ていたひとりの子どもにボールを渡そうと顔を上げる。




「――お姉ちゃん、カズヤ、危ないッ!!」




まるで、突然そういう場に投げ込まれたかのよう。


ブォォォオオオオオ――。


何故気付かなかったのだろうか、私の耳にはうるさいほどのエンジン音が聞こえていた。


「えっ……?」


振り返るとそこには軽トラック。


時間が止まる。

否、限りなくゆっくりと流れ始める。


一瞬のうち、過剰な情報が頭の中に入り込んできた。

田んぼの向こうでおじいさんとおばあさんがのんびりしているのとか、電線にカラスが二羽止まっているのとか、トラックのルームミラーがやけに斜めになっているのとか、運転手が居眠りしているのとか。


無意識だ、反射。

私はボールを投げ捨て目の前の子どもを思い切り突き飛ばした。どこに向かって突き飛ばせばいいか、そんなことを考えている暇はない。ただただがむしゃら、とりあえず、できるだけここから遠くへ。




「――!!」


わからない。

何もわからない。


ただ、誰かが私のそばで叫んでいるような気がした。声は聞こえない。痛みもない。


目は、薄っすらと見えた。

開いた先には涙で顔をぐしゃぐしゃにしている子どもの姿があった。


私が突き飛ばした子どもだ。

見たところ目立つ外傷はない。どうやら助かったらしい。


私はその子どもに手を伸ばす。


「あぁ、よ、かった……」


伸ばした私の腕は想定したところにはいかない。

あり得ない方向に曲がっていたから。


徐々に霞んでいく視界の中、私は視線を下ろす。


赤。

一面赤。


どこからどこまでが何なのか視認できない。


……これ、もしかして死――。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




――目が、覚めた。


いや、これは正しいのだろうか。

わからない。


だって目が覚めたのに何も見えちゃいない。真っ暗だ。


だから正確に言うのであれば意識が戻った、だろう。




できるだけ冷静に、自分が置かれている状況の把握に努めるとしよう。

まず第一に、私は死んだ。


うん、多分死んだ。見たことのない赤、血の海。通常人間から放たれてはいけない量の血だった。衝撃で死んでいなくとも出血多量で死んでいる。

だから夢じゃないのであれば死んでいる、ここまではよし。いや、よしで済ませていい問題ではないのかもしれないが、とりあえずいいことにしておく。少なくとも今は。


じゃあ次。

私はこれからどうなるのか。


一般的に死んだら魂がうんたらかんたらとか言われている。以上。


……なんだこれ、全然わからないままだ。


でも、もしかしたら閻魔大王に会ったりするかもしれない。それどころか、突然あたりが明るくなって天使がふわふわ舞い降りてくる可能性も否定はできない。


『そこに掛けろ』


――不意に声が聞こえた。


否、それは正確ではない。

そういう意味を持った情報が頭に直接流れ込んできた、と言ったほうが正しい。


気付くと近くの一部に光が差しておりそこに簡素な椅子がひとつ置かれていた。

あれに座れと言われた――言われてはいないが――らしい。


『さて……どうだ?』


どうだ、とか言われても意味がわからないのだが。


「いや……何が、ですか?」


『うむ。貴様は死んだわけだが、どうだ?』


あぁ、なるほど。

どうやらこれが真正のコミュ障というやつらしい。真のコミュ障は話しかけることができないのではなく、会話が成り立たないのだ。


しかしやはり私は死んだらしい。

あの光景が事実なら当然と言えば当然ではある。


「……まあ、そっか、死んだかーって感じ、ですけど」


『受け入れているのか、悔いはないのか?』


というかそもそもこいつは何なんだ?

いきなり現れて……いや姿は見えないから現れてないけど、突然質問攻めにされても困る。


「悔い……あるにはありますけど。ていうかその前にあなたは――」


『――そうだろうそうだろう! あっ……ん、んん゛っ……そうだろう』


何だこいつ。

人の言葉遮るやつむちゃくちゃ嫌いだ。ていうかその芝居臭いの何なんだ。


『よし、ならば貴様にチャンスをくれてやろう……』


「チャンス……?」


『さすがの我でも生き返らせることはできないが、空の器に魂を埋めてやることはできる』


急に話が飛躍している気がする。

空の器だの魂だの、本当に何を言っているのかわからない。


「……?」


『理解していない風だな。だから、今後新たに魂が埋め込まれるはずの空の器、そこに貴様の魂を埋め込むことができると言っているのだ』


今後新たに魂が埋め込まれるはずの空の器。


少し、理解できた気がする。つまりこいつが言いたいのは――。


「――転生……ってこと?」


『そうだ。貴様は貴様の記憶を持って初めからやり直すことができる。無論、全く同じ人生など歩めるはずはないがな。貴様が死んだ事実はなくならないし、そもそも貴様が生きていた世界に生まれるかどうかもわからない』


転生、いわゆる“強くてニューゲーム”みたいな感覚だろう。

現時点での記憶を引き継いで赤子から始める。少なからず憧れを抱いた時期もあった。


『どうだ。貴様がもともと生きていた世界、科学技術が発達した近未来的世界、荒廃したディストピア、魔のものが巣食う世界……貴様らが好む、魔法が使える世界もあるが、どうす――』


「――いえ、結構です」


わずかな沈黙。


『……えっ? ん? は、え? な、何で!?』


「何でって、後悔って言ってもそういう後悔じゃないから。もしも私が生きていた世界をやり直させてくれるっていうならちょっと考えるけど、そうじゃないならいいや。面倒くさそうだし」


人生って振り返るとどうなのだろうか。

当然人それぞれ感想は違ってくるはずだが、私にとってはそれほどいい人生でもなかった。嬉しいこと、つらいこと、別に自分が不幸だったなどとは思わないが思い出されるのはどうしてもつらい出来事が多い。

もう一度先の見えない人生に身を投じ、そういったことを体験したいとは微塵も思わない。


それに、単純に生まれてから死ぬまでの時間が億劫だ。

こう言うと不謹慎だが、せっかく死んだのだからこれで終わりにしたい。


『い、いや、も、もっと楽しい世界とかあるぞ! 食っちゃ寝するだけでいい世界とか、ファンシーな世界とか!』


「いいって、面倒くさい。そういうのじゃないって言ったじゃん、あとうるさ――」


『――最近のやつらはそんなのばっかり!! やれ面倒くさい、やれ別にいいです! 何なのだ貴様らは!! 少しは我の気持ちも考えろ!!』


いや知らないけど、ていうか本当にうるさい。


『せっかく我が好意で言ってやってるというのに! ちょっと転生するくらい別にいいだろ!!』


まるで子どもの癇癪。

すっかり化けの皮が剥がれた。


「ちょっ、うるさいから静かにして」


『うるさい!! 貴様は黙って我の言う通りにすればいいのだ!』


思わず耳を塞ぐ。


うるさい、本当にうるさい。

うるさいのは嫌いだ。


お願いだから静かにしてくれ。


『どうして貴様らはそうやってすぐに面倒くさいとか言うのだ!! 少しは我に――』


「――あぁもう、うるさいッ!!」


自分の声で頭が割れそうだった。


『……』


頭に響く謎の声が止まった。


どうすればいいのかわからない。結局、こいつを納得させなければ状況は変わらないのだろう。

だが、わがままな子どもをどうやって納得させればいいのかなんて私にわかるはずがない。だから、こうするしかない。


「……わかった、すればいいんでしょ。わかったから少し静かにして」


仕方がない。

背に腹は代えられない、とでも言おうか。いや、そもそも勝手に背中を奪われたわけでどうして自分の腹と交換しようなどと考えなければならないのか、まるで納得できない。


『ほ、本当か!? よし、ちと待っておれ!』


「……なんでこいつうきうきなんだよ、最悪なんだけど」


謎の声に従いしばらく待っているとわざとらしい咳払いが聞こえてきた。


『うぉっほん! ……では、これから貴様の魂を抜き取る。先ほど言った通り、これから生を受ける世界を選ぶことはできない。完全にランダムだ』


「はいはい」


『抜き取れば貴様の意識は一度消失し、次に戻った時には新たな世界との邂逅となる』


「邂逅って偶然の出会いだから意味違うけどね、めちゃくちゃ人為的だし」


『……』


思わずつっこんでしまった。


「……わ、わかった。私が悪かったから、続けて」


『……はぁ』


溜め息、それが頭に響いた時には異常なほどに意識が薄れていた。


「……ぇ」


『力を抜け、身を委ねろ』


言葉通りに力を抜くと、抜けた場所から存在が希薄になっていく。腕、力を抜くともう存在が感知できない。足、腹、肩、首……頭。


続いて何か温かな感覚。

おかしい、もう自分の体すら知覚できないのに温かい。まるでお湯の中に沈んでいるような――。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇




――目が……いやいや、そうではなかった。

意識が戻った。


はっきりと、とは言えないが意識自体はある。

微睡みの中とでも形容しようか。温かく、うつらうつらとしそうな心地よさ。視界が真っ黒ということも手伝い、だんだんと眠気が近づいてくる。




――。


何だ。

何か聞こえた。


……気のせいだろうか。


「……――」


いや、やはり何かが聞こえる。


私は耳を――耳が存在しているかわからないが――澄ませ、わずかに聞こえる声を聞き取ろうとする。


「……すよー……ふ……わいい」


不意に真っ黒な視界に点のような光が見えた。


点は私のもとに近づいてくるように大きくなり、やがて輪郭のぼやけた謎の景色に変化した。


「……?」


何だこれは。

というか、今更だが転生は成功しているのか。そもそも失敗する可能性はあるのか。


強烈な変化に頭が混乱してくる。

焦燥、未知、恐怖。


そして、ぼやけた視界に何かが映り込んだ。


「あら、起きてたの。ふふっ、かわいいなぁ……」


続いた声はやけにはっきりと聞こえた。

どうやら視界に入って来たのはこの女性らしい。


女性は私の頬に指で触れると顔を綻ばせた、ように見えた。


徐々に、不明瞭な視界がクリアになっていく。

視界の中心には赤が見えた。吸い込まれそうなほどの深い赤。それは女性の瞳の色だった。そして次に見えたのは光を反射する銀、髪の色。


すごく、綺麗だ。


「……」


「……うん? どうしたの、そんなにじっと見つめて……」


いや、ただ綺麗だと思っただけで……。


「ぁうー、だー……」


……何だ、今の声は。


「あはは、お腹空いたよね。ちょっと待ってね」


まあ、空いていないと言えば嘘になるかもしれないけど。


「あーぅあー、ばぁー」


……いや、ちょ、ちょっと待ってほしい。


女性は何かを手に持ち、私の口元にそれをあてがった。


「はーい、上手に飲めるかな」


反射、と言っていいのだろうか。自分でもよくわからない。

とにかく私は口の中に突っ込まれたそれを必死に吸った。


理解している、理解はしているのだが私の中の何かが理解を拒んでいる。


「いい子だね、いっぱい飲んでえらいえらい」


な、何だこの羞恥プレイ……さ、最悪だ……。


恥ずかしさのあまり全身をばたつかせ奇声を発そうとする。


「うぁーぅ! だぁーぶぅ!!」


ああああああああああああああああああ!!

何この羞恥スパイラル! 抜けられないんだけど!!??


「はいはい、わかった、わかりましたよ。だから大人しくしてね」


ていうか、転生ってここまでリアルなのか。


多分本来の赤子は視力の発達もここまで早くはないはずだが、どうすれば焦点が合うのか、どれが何色なのか、彩度による色の違いなどを知識として知っていたためにここまで急速に発達したのだろうか。無意識下でそうした筋力などが鍛えられていたという可能性もあるし、イメージによる補完という可能性も。

あとは単純な転生におけるおまけ的な何かのせい、か……。


ともあれ、発声器官はまだ未発達。

しかしこれも遠くないうちに発達するだろう。


すると、女性が私の体を抱きかかえた。

おそらく、というか十中八九この女性は私の新しい母親。


はお外見るの好きだもんね」


そしてそのまま大きな窓のほうへ歩いていく。

窓はカーテンで遮られていたが、女性がそちらに近づいていくと自動的に開け放たれる。


「はーい、お外だよ。いい天気、綺麗だね」


広がったのは全く見たことのない世界。

眼下に街、広い自然、そして澄み渡るような青空。


――まさしく、異世界の景色だった。

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