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 この質問に彼女が幽霊だと自覚してほしいなんて魂胆は微塵も無い。そういった考えは、彼女と何日も合ううちに消え失せてしまった。


「あれ? もしかしてりーくん、まだおばけが怖いの? 昔から怖がりだもんねえ」


 質問したことを軽く後悔した。まあ、大真面目に返答されても、それはそれで困ってしまうのだろうが。


 ふとこのやり取りに既視感を覚えた。もしかしたら、同じ質問をしたことがあっただろうか。彼女の言う通り、子供の頃の僕はおばけ、幽霊といった超自然的で人を怖がらせる存在が苦手だった。その頃に話したことがあるのかもしれない。


「ねえ、りーくん。もしもだよ。もしも私が……いや、本当に本当にもしもの話だよ。万が一、億が一にもないだろうけどさ……」


「話してよ」


「もし本当に私が死んだら、悲しんでくれる?」


「……悲しむだろうね」


 悲しんだよ。僕のせいで彼女は亡くなったのだと謝り続けた。僕なんかの命と引き換えに彼女が戻ってくる方法があるのなら、実行していた。彼女の居ない世界なんていっそ滅べばいいとすら思っていたんだ。


「ありがと。何かさ、自分で聞いておいてなんだけど、りーくんが悲しんでくれるから嬉しい。でも、自分が死んでるかと思うと悲しい。複雑だよ」


「なら、聞くなよ」


「じゃあさ、私がもしだよ。もし……いや、万が一、億が一、兆が一に……」


「くどい」


「ごめんごめん」


 彼女は仕切り直したいのか、わざとらしく大袈裟に咳払いをした。


「もしも、もしもだよ。私が死んで、幽霊だとかゾンビだとかになって戻ってきたら、りーくんは私に会ってくれる? 今と同じように話をしてくれる?」


「……もう、こんな例え話はやめよう」


 自分が話を始めたのは分かっている。それでも、これ以上話す気分にはなれなかった。


「そ、そうだよねっ。ごめんね。こんな暗い話は嫌だよね。ごめんごめん」


 ふと隣を見ると、彼女は涙を流していた。僕が見ているのに気がつくと、泣き顔を見られたくなかったのか腕で覆い隠そうとした。


「りーくんとはずっと家族みたいで、一緒に居るのが当たり前だから、離れ離れになるのを想像するとね……」


 彼女の震えた声と涙が、亡くなった日の彼女と重なり、僕は目を背けたくなる。

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