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意味のない後悔だとは分かっていた。それでも考えずには居られなかった。一人になると、彼女の居ない、自分の他に誰も居ない空間に向かって謝っていた。泣きながら許しを請うていた。
彼女が亡くなってからどれくらいたった頃だろうか。ある夜、日付の変わる頃、急に彼女は今日と同じように僕の部屋の、鍵のかかった窓を開けようとし、僕の名前を呼んだ。
その聞きなれた幼なじみの声を聞いた瞬間、謝りたいという気持ちはどこかに消え失せた。帰ってくるはずのない人間が帰ってきたという恐怖のほうが勝った。
僕のせいで死んだはずの幼なじみに呼ばれて、窓なんて開けられるはずがない。僕は怖くてベッドで布団にくるまり震えていた。復讐しに来たのか、あの世から迎えに来たのかは分からない。ただ、怖かった。
僕を呼ぶいつも通りの彼女の明るい声が怖かった。月明かりでカーテンに映される見慣れた彼女のシルエットが怖かった。
祖父母の法事で聞いたくらいで、ほとんど覚えていないお経を唱えた日もあった。耳を塞いで一晩中謝り、帰ってくれと懇願し続けた日もあった。
それでも、彼女は毎日欠かさず同じ時間に僕の部屋の窓を叩いた。
「ねえ、りーくん開けてよ。もう、せっかく幼なじみが訪ねてきてあげてるのに、ひどいなあ」
「私が死んだ? そんなはずないよ。だって現に私はここに居て、りーくんに話しかけてるんだからさ」
「どうして開けてくれないの? もしかして、何か怒らせるようなことしちゃった? なら謝るからさ、開けてよ」
「ごめんねりーくん。今日は帰るね。明日には機嫌直してて欲しいな。じゃあ、また明日」
毎日繰り返される言葉。その明るい声は僕の耳には呪いの言葉に聞こえていた。
両親にも確認してもらっているので、僕の幻覚、幻聴ではない。それでも世間体を気にしてか、拝み屋、お祓いといった事はしてくれなかった。
ある日、毎日の幼なじみの訪問に精神的に参っていた僕は、どうでもいい。殺してくれ。と窓を開いた。
そこには、以前と変わらない、活発で可愛らしい幼なじみの姿があった。
「こんばんは。りーくん」
聞き慣れたミイの声で僕の名前を呼んだ。
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