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僕は少し安心する。
何度も繰り返してる。だから、彼女がこれ以上僕を責めることもないことは知っている。でも、もし何かのきっかけで繰り返さなくなったら。彼女が僕を責め立てるような罵詈雑言を吐き出したら……。
想像すると肩の辺りがぞくりと震えた。
考えて僕は自身に言い聞かせるように、自嘲気味に小さく「どうでもいい」と呟いた。
何を恐れているんだろう。以前は罵ってくれた方が楽だとすら考えていたはずなのに、いつから彼女からの拒絶の言葉を恐れだしたのだろう。責められて当然の事をしただろうに。
毎日繰り返される幼なじみからの得体の知れない、呪詛のように思える言葉。仕草。僕を責めているようにしか思えない。
そんなの耐えられるはずがない。だから僕は……。
――僕は?
「どうでもいい」
考えないようにと、僕はもう一度、彼女に聞こえないように小さく呟いた。
ミイが亡くなったのは僕のせいだ。
ある夏の日。いつも通りの彼女からの誘いを僕はいつもより強く断った。少し悪口も混ぜて畳み掛けるように言った。
理由は中学生にもなって女子と一緒にいるのは恥ずかしいだとか、それまで気にしてなかっただろうに、女子と一緒に歩いているのをクラスの男子に知られたら、からかわれるかもしれないだとか些細なものだったと思う。
その時の彼女はいつもと違って、その日は無理やり僕の手を引くことはしなかった。僕からの拒絶に瞳をうるませているのを見て、やってしまったと我に返った時には遅かった。彼女は走り去っていた。僕は呆然と立ち尽くし、後ろ姿を見ているだけしかできなかった。
追いかければよかったのにその日の僕は、次の日には機嫌を直してくれているかもしれない。そうでなくても、明日会った時に謝ればいい。そうやって彼女に甘えて楽観的に考えていた。
けれど、彼女はその日、交通事故で亡くなった。車道に飛び出して車に轢かれたのだと後から聞いた。
いつも危なっかしい彼女の、唯の不注意だったのかもしれない。よくある交通事故で、自動車がよそ見をしていたのかもしれない。けれど、もしかしたら僕の言葉に落ち込んでいたせいで自ら車道に出ていったのかもしれない。もしかしたら、彼女の誘いを断らず、僕が一緒に居たら彼女は亡くならなかったかもしれない。
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