最終話

ルナが血を流して倒れている。


私は目の前の光景が信じられないでいた。体全体の血が引いていくのを感じる。


ただ近寄りももできず。その場に立ち尽くしていた。


「ねーね...?」

ソルの一言にはっとする。彼女の無事を確かめれば。

そう思い私が彼女の近くへ駆け寄ったとき銃声が一発響いた。


バーン。


手から温かい血が流れている。誰かが私に銃を放ったようだ。魔法で自分の傷を治しながら、銃声がなった方をみると向こうのじげみのほうから兵隊が一人、二人、私に銃を向けているのが見える。


でも、そんなことにかまってる時間はない。ルナの傷をなおすのが最優先だ。

彼女の方に駆け寄り、ソルを片手に抱き、体へそっと手を回すと、彼女はぐったりとしながらかすかに目をあける。

「魔女さん、、?」

その口からかすかな声が漏れた。

「ごめんなさい、これは、私のせい、です。今まで、隠してたことがあって、」

おなかの傷口をおさえ体で息をしながら彼女は声を絞り出した。

(ああ!まだ、生きている!)私は急いで彼女の傷を治しながら声をかける。

「なにも言わなくて良い。今すぐ治す。」

そういいながら、あせって彼女の治療を進める私の方へまたもう一発銃声が響いた。

次は胸を狙われたようだ。

(何回打っても私には無駄なものだのに。)そう笑いながら今度こそ銃を撃った本人と向き合う。

彼らの後ろにも何人もの人が見える。どうやら敵は集団のようだ。


ソルを後ろにかばうようにおき彼らに向き合う。


「なぜ、この子をおそう。」

怒りにまかせたまま私は声を発する。


相手はおびえたように声を震わせながら叫んだ。

「これ以上近づくな。うつぞ!!」

そうして銃先を私に向ける。しかしながら、その手は銃とともに震えていてとてもやあたりそうでない。


銃を向けられても余裕な顔のままの私に彼らは続ける。

「その子供が誰だと思っている!売国の先王へリップの娘セレネに息子イリオスであるぞ!自らの贅沢のために国民から税を、財産を搾り取った悪女である。

 先日近くの街の忠誠な市民から報告にあがった。その齢にしてすでに市民を罵り、金銭を脅し取ったと聞いている。そのような悪女生かしていく訳にいかない。

 我が国の滅すべき敵として、、、」


それ以上を言葉を漏らすことを私は許さなかった。

それ以上の言葉を聞きたくなかった。

どうして、彼女がそんな言葉でけなされなければいけないのか。


彼女はどこからどう見ても心優しい無垢な少女であった。

弟のために魔女に心臓を捧げようとした。

髪の毛を切れなんていう意地の悪い脅しにもすぐに応じた。

この四年間、家事にしても、幼い弟の世話にしても何一つ不平を漏らさなかった。

弟のためなら何もかもを犠牲にしたのだ。

どうして、こんなに何もない少女なのに。子供なのに。

すべてを失い、犠牲にしてそれでもなお幸せだと笑っていた。

そんな少女を、何をしたわけでもない純粋で純情で優しい子供たちを、

どうしてこの男たちはおいつめ殺そうとするのか。

罵倒し、この世の悪だと残材するのだろうか。

どうしてこんなにむごいことを。。。


初めて感じたこの感情。私はいま多くのひとに怒っていた。

彼女を殺そうとする人間を。

この子達を殺すよう仕向けた男達を。

彼女にすべてを押しつけ死んでいった母親を。

そして、なによりこの子達を放置し、危険な状況においてしまった自分自身に。


どうしようもない怒りがおさまることのないまま、あらだった感情はそのまま魔力を暴走させていく。


「---  」


私の怒りを、魔法で炎にかえ。

私の嘆きを、風にかえ。

すべてをなぎはらえ。すべてを燃やし尽くせ。


気づいたら勝手に魔法を唱えていた。

かすかに私を止める幼い声が聞こえた。

それすら無視して私はすべてを焼き尽くした。


気づいた大量の人間が周りを倒れていた。


ぼんやりとそれを眺める。

(ああ、人を傷つけてしまったのか。)

体が徐々に呪いにむしばめられていっているのを感じる。

この感じ一時間、いや三十分も持たないだろう。

それまでに、あの子たちを無事な所に移さなければ。


「...魔女、さん...?きこえます?」

向こうの木陰からルナが顔をだす。ソルは彼女の足にしがみついている。

服は血だらけだが普通に歩けている。

よかった。巻き込んでいない。

安心して笑みが漏れる。


しかし、ルナは悲痛な表情をしながら駆け寄ってきた。

「...どうして!どうして、、、、」

そうして、呪いで蝕られはじめた私の足をみて私の胸に顔を埋める。


「体は大丈夫そうか?」

しかしながら私には彼女にかまっている時間はなかった。

「ええ。でも、魔女さんが、、、」

他に言いたげな彼女を遮って私は話を進める。

「今から、おまえ達二人を私の兄のところに送る。

 とはいっても、兄の街の近くだが。ただおそらく送った先の川に沿っていけば街につく。そこの街の東通りの三丁目。赤と白の等のよこの緑色の家。オケアノスという名の魔法使いだ。自分の妹の育てた子供達だといえ通じるはずだ。」

そう伝えたいことを一気にじゃべる。


そして、彼女達へ魔法をかけようとすると、ルナはそっと首をふった。

「いやです。」

それは彼女の初めての拒絶だった。


「いやです。このままで別れなんて。」

彼女は泣きながらそう訴える。そして私の胸に顔を預けたままむせび泣く。


「魔女さんも一緒に来てください。そして、そのお兄さんに解いてもらいましょう。私はまだ、魔女さんに話していないことがいっぱいあります。」


(あたたかい。)そんな彼女にたいして不謹慎にも私はそう感じていた。

ああ、こんなにもの暖かさを私は怒りで金輪際手放してしまったのだ。

それだけはものすごいおしいことだった。

でも、それは私の選んだことた。私は自分の自業自得な選択によって命を落とすのだ。それに彼女達に巻き込んではいけない。


私は彼女の体をそっとおこさせ、あのエメラルドの目を見ていう。

「私はいけない。行ったところで体が持たない。」

「でも、」

少女の綺麗な目は今は涙で満ちている。

あんなににもみたいとおもった泣き顔もまったく嬉しくない。


「私たちを生かすためにあなたは、、、」

そうやってまた彼女は視線を落とす。


彼女の母親は彼女の弟を、彼女を守るために命を落とした。

だから、彼女は自分の命も弟を守るためにならおしくないとおもいこんだ。


そしてまた、彼女は目の前で自分を守るように人を亡くす。

ああ、私は自分の過ちに気づいたが、もう遅い。

あんなにも彼女が自由に無邪気に生きていくことを望んだのに

私もまたかの世をしばる鎖の一つとなってしまうのだ。


(せめて、最後に、この鎖を解かなければ、)

もう時間のない私は最後にと口を開く。

「ルナ。おまえのためでない。」

私は口下手で人と関わるのをやめてからはもっと伝えるのが下手になった。

でも、それでも彼女たちへと伝えたい、その思いから言葉を紡ぐ。


「私が、したかったのだ。自らにのろいが返ってくることをわかっていながら魔法を唱えたのだ。でも、それに対しては後悔はない。あるとすれば、おまえ達の成長する姿を見れないことだ。でも、私は確信してる。おまえ達はきっと素晴らしいおとなになると。だから、もう未練はない。お願いだから、泣き止んでくれ。」

ルナはそっと顔を上げる。


「でも、魔女さん、私はもっと一緒に...!」

そういって泣き止まない彼女に笑いかける。

「いっただろ。もう十分だ。」

「でも、でも。」

そう行って聞かない彼女に私は困ったように声をかける。

「お願いだ。最期に私の魔法をかけられてくれ。もう時間はない。」

「....」

すこしの間だまったあと彼女はてで涙を拭い私にむきあった。


「ありがとうございました。

 私はあなたに会えて、そだててもらえて幸せでした。あの、その、まじょ」

そういう彼女に遮りながら言う。

「テイアーだ。」

驚いたように彼女は目を見張る。

「テイアーだ。私の名前だ。」

そうやって笑う。


ぐっとつばを飲み込んだ彼女は、数回の瞬きをし、すっと息を吐き続けた。

「ありがとうございました。テイアーさん。

 私はほんとうに、ほんとうにあなたに出会えて良かったです。

 ほら、ソルもお別れを言って。」

そう言ってソルを抱きかかえる。

ソルはきょとんとしたかおで操られるままに手をふる。


そのまま、彼女はちょっと罰の悪そうな顔で続ける。

「私は実は、、」

それを私は遮る。聞くのはさっきの言葉で十分だ。これ以上が必要ない。

「こちらこそ、ありがとう。ルナ、ソル。

 おまえ達と出会えて私は人の温かみをしれた。」


「ソル。元気に大きくなれ。おまえの無邪気さはきっと多くの人を救う。」

そして、ルナに向き合う。

「ルナ。自由にいきなさい。おまえの人生はおまえのものだ。」

そして、最後に続ける。

「おまえ達が何者であろうと、私はおまえ達を育てたことに後悔はない。

 ずっと愛しているよ。」


そういうと、何か言いたそうな彼女を無視し魔法をかける。


私にとっては彼女達はルナでソルだった。たとえ別の名があってもそれ以外の名で呼びたくはなかった。

ああ、きっと兄さんならうまく面倒を見てくれる。

追っ手達も隣国の奥までは間に合わないだろう。

大丈夫だ。きっと大丈夫だ。


そうおもうと私は静かに目を閉じた。

呪いは静かに私の体をむしばんでいる。あと10分も生きれないだろう。


いい生涯とは言いがたかった。

おろかで純粋だった少女時代に、人との関わりを夢み、自らに呪いをかけるほど人を愛した。でも、その愛した人に裏切られた。

すべてを失い、すべてを憎んだ。

そして、誰もかもと縁を切り孤独な生活を選んだ。

何十年も世を憎みながら暮らしていた。

そんな中に彼女達はやってきた。

明るく無邪気な彼らは私に忘れていた人との縁を思い出させてくれた。

いい生涯ではなかった。それでも、最後は悪くはなかったな。


呪いの森の奥で、自分を呪った愚かな魔女はそう満足そうにわらい

一人静かに息を引き取った。

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