第三話
ソルが風邪を引いた。数日前からの熱はいまでも引いていない。
「普段なら一日ねて、魔女さんの特効薬を飲めば治るのに...」
ルナは心配でたまらないのか、弟のところにいては大丈夫かきいたり、台所の方にいったり特に意味もなく家中を歩き回っていた。
かくいう私も心配なのは同じだった。この4年間彼らがこんなにも熱にうなされることはなかった。
しかし、私のいつもの薬が聞かないとなれば私の打つ手はもうない。
(仕方がない..)
「医者を呼ぼう。」
「え、それは、この家にということですか?」
ちょうど冷やす用の器の水をくみ替えてきたルナはおどろいて立ち止まった。この私が街の人間を家に招き入れようとしているだ。ちょっと前なら絶対にあり得なかったことだろう。
でも、今はなりふり構ってならない。
「街にいって、医者をつれて帰ってくる。すぐに戻る。」
「あ、まってください、」
そういうルナの言葉も聞き取れないまま私はそそくさとでていった。
近くの街は魔法をはじく措置もなされていないから一瞬でいける。
ついたやいなや私は通りにあるく人に話しかけた。
「この街の医者はどこに住んでいる。」
彼は突然の問いにぎょっとしながら
「ええ、医者ですか?それなら、この通りをずっと行って、緑の建物の角を曲がったすぐそこにありますよ。」と答えた。
「そうか、ありがとう。」
そう言うや私は急いだ。
「医者はどこだ。」
入るやいなや、そういった私にましてや度肝をぬかれたような男がおそるおそる「えっと、私ですが。」といった。
「病人がいる。見てほしい。」
「ええ、わかりました。ええっと、どちらに?あなた、というわけではないようですが。。」
うろたえたままの医者をつかむ。どうせ家に来たらわかるのだ。ならばれても良いだろう。
「ついて行けばわかる。」そういって、私は自分の家への魔法を唱えた。
「残念ながら、どこが悪いのか私にはわかりません。」
医者の診断は予想外れのものだった。
「彼はいたって健康です。体はなんの異常もない。それでいて熱だけが出ている。これには私もお手上げです。」
「そんな。」
ルナは両手を口にあて泣きそうな声を上げた。
「ほんとうになにもわからないのか。」
焦りからか語尾がつよくなる私に、体をびくっとうごかし、目をそらす。
「はい、そうです。ただ、、」
何かを言いたそうだが言いよどむ男に私は先を促す。
「なんだ。はっきりと言え。」
「その、私の見解としては、魔法使いと過ごしたせいでこの体調不良が引きおこされたのではないかと。」
思わず顔をしかめた私に、男はまた後ずさりしながら続ける。
「いえ、ただ、あなたと長い間一緒にいたことによりあなたの魔力におかされたのではないかと。子供は純粋だからこそ悪いものの影響をすぐ受ける。魔法使いの魔力はその魔法使いの性質ににるとも言われてますし。」
「ひどい!!」
となりでじっときいてたルナがいきなり立ち上がり叫んだ。
「そんな、魔女さんが悪い魔法使いみたいな言い方をして。失礼ではないですか!それに、わたしだって魔女さんと一緒にくらしていますけどなんの病気にもなってないです!」
少女に怒られ、むきになったのか男は語尾を荒げながら返す。
「医者としての見解を言っただけだ。そもそも、悪い魔法使いなのは事実だろ!街にはこの魔女に襲われたという人間がごまんとしているぞ!」
「そんなのうそよ!勝手に言っているだけでしょ。」
「そっちこそ、なにもしらない子供のくせにおとなの会話に口を挟むな!」
「あら、勝手に人を罪人扱いする人間が大人だなんて笑わせないでほしいです!」
終わりが見えないような言い争いにめまいがする。こんな言い争いをしてもソルの病気は治るわけではない。
(やはり、街の人間を頼ったのは間違いだったか。。。)
私は立ち上がり、医者に言う。
「これ以上わからないのだけはわかった。もういい。かえってもらう。
代はそちらのいう値でいい。今から魔法で飛ばす。」
「は、代金はいらないよ。
その代わり二度と呼ばないでいただきたい。」
そう男が吐き捨てる前に私は魔法で飛ばしきった。
「本当に失礼な人でした。あんな人でも医者になれるなんて。」
ルナはまだ怒ったままだった。
しかし、私は医者の言葉に引っかかっていた。
(魔力の影響。。。)
じっと黙ったまま口に手を当て考えている私をルナはのぞき込む。
「魔女さん、あんなの気にしなくて良いですからね!」
むーと口を膨らませて怒ったまねをする彼女のいつになく幼く見えた。
「まあ、でも、ソルはどこか悪いところがあるわけではないみたいですね。このまま熱が引いてくれるといいのだけれど。。」
そういって、弟のところへ看病を再開使用とするルナに声をかける。
「さっきの、医者の話あながちデマでもないかもしれない。」
「え。。?」驚きの声とともに振り返ったルナはしかめっ面をしていた。
「なんですか、魔女さんはあんな自分をけなされた言葉を真に受けるんですか?」
「そっちではない。魔力の影響かもしれない、という言葉だ。」
「魔力の影響?」
「ああ、あんなにも小さいときから私の魔力を身近に暮らしたことによる歪みが体に影響してきたのではないだろうか。」
人間には魔法を適応する能力はない。それでも、空気中にわずかに放出されている魔力をあびながら生活することによって大人になっては魔法使いとふれあっても特に問題はなくなる。でも、その免疫のない赤子の時から直にふれあったらどうなるか。大量の魔力による体の不調が一気にでてきてもおかしくない。人間と魔法使いが赤子の時から一緒に暮らすということはほぼない。だから、そんな症例も聞いてこともなく考慮に入れてこなかった。
(それでも、考えつかないことではない。子供を育てるというのに注意をむけれなかった完全に私のミスだ。)
そうやって落ち込んでも、原因が推測できたところで対処法がわからない。家中の本はすべて目を等してあるがそんなことひとつも書いていなかった。
(これは、他の魔法使いに頼るしかないだろう。しかし、私が頼れると言ったら...)
若い頃に親に絶縁され、それ以来人間のみならず魔法使いとも交流をたってきた私には頼れる人は一人しか思いつかなかった。
「兄のところに行こうと思う。」
話の飛び方についていけてないルナはなにもわからず目をパチパチさせている。そんな彼女にお構いなく続ける。
「以前はなしたことがあるだろう。唯一私が関わりを持っている魔法使いだ。隣国の外れの方にすんでいる。兄は他の魔法使いとも関わりを持っている。あいつにきけばきっと何かわかるだろう。」
私とはちがい人付き合いのうまい兄は昔からなんでもしっていた。これで、対処法はわかる。しかしながら、もう一つ問題が出てきてしまった。
「だが、兄のところの町は魔法による結界がはられていて認められてない私では魔法で通行できない。近くまでは魔法を使うがそれ以降は自力で行かなければならない。往復で最短で二日ほどかかる。もっと長くかかるかもしれない。それまで、留守番をしておいてもらわねばならない。」
そう言ってルナをみると、彼女は不安そうな表情を浮かべて下へと目が泳ぐ。
人が近づかないとはいえ、何があるかわからない。いままで、街に買い物を行くときも2時間以上空けたことはなかった。そんななか病気の弟と彼にに対する不安とともに二日も過ごさなければならないのだ。しかし、そうとはいっても魔力酔いをおこしてるソルをまた魔力で連れて行くことはできないし、ソルの対処をなにもしなかったらこのままもっとわるくなるだけだ。
「大丈夫です!私はもう十分におおきいですから、留守番なんてなんの問題もありません。それよりも旅路気をつけてくださいね、魔女さん。」
顔を上げたルナはにっこりと笑った。
(ああ、またあの笑顔だ。)
またしても彼女に耐えることをしいてしまうしかない、己の状況とふがいなさに歯がゆく感じる。
「すまない、なるべく早く帰る。」
(かえって、ソルの体調が良くなったら思いっきり甘やかしてあげよう。)
そう決意して私は簡単な身支度とともに家を後にした。
兄さんの家に着いたのは翌日の明け方ごろになった。
東通りの三丁目。赤と白の等のよこの緑色の家。ときおり人に聞きながらやっとたどり着いた。
(兄さんが私の家に来るたびにいってる特徴は間違ってない。かすかに魔法の気配もかんじる。よかった引っ越していない。)
家の前に行き扉をたたく。
「はーい。」そういって出てきた兄に
「久しぶりだな、兄さん。」と一言つげる。
兄は私の訪問に一瞬びっくりしたような顔をしたがすぐにらたっとわらって招き入れた。
「!テイ!どうしたんだい、びっくりしたよ。
いきなり尋ねに来るなんて。」
兄さんは私とは対照的に誰とでもうまく付き合い昔からみんなから好かれていた。こんなことになった私にも同情したまに森にやってきていたが、私が兄のところに行くことは一度もなかった。
「まあまあ、中にはって。よかったよ、今日は誰とも会う予定はいれてなくて。」
「また、人間相手に遊んでいるのか?その年になっていい加減にしろ。」
「いやいや、今回こそは本気だって。」
そう軽口をたたきながら私は本題に取りかかる。
「実は、兄さん、お願いがあるんだ、、、」
そういって私は、四年前幼い姉弟をひろって育てたこと。その幼い少年が風邪を引いたこと。その原因が魔力のせいだと考えること。そして、彼を直すための方法を探していること。それらを一気に話した。
兄は私の話を黙って聞いてくれた。そして、その後口を開いた。
「話はだいだいわかったよ。そういう話は知り合いに聞いたことある。そのときはたしか、何か薬でなおった気が、、、」
そう言って部屋の奥に行った後、しばらくして一冊の本を持ってきてくれた。
「うん、この本に薬の作り方が書いてあった。多分テイなら自分で作れると思うけど材料が結構特殊だ。どうする?ここで作っていく?」
ざっと作り方をみると私の家には手に入らない食材がある。
「このウィザリアの花とシラルノワの実は私の家にはないものだ。どう手にいれればいい。」
そういうと、兄は嬉しそうに返す。
「ちょうどうちの家にあるやつだ!ならここでつくっていこう!」
そういうと私の返事も聞かずに兄は薬造りに取りかかり始めた。
ウィザリアの花をお湯に30分浸けそのお湯をとる、ホシシラズの草とアスノヲルの葉を細かく刻んで合わす、シラルノワの実を、、、
兄は手際よく薬を作っているのを、することなくそっとそれを見つめていると彼は口を開いた。
「でも、びっくりだな。テイが僕を頼るなんて。」
「他に頼れるものがいなかっただけだ。」
「また、そんなことをいって笑。その人間の子達がよほど大切なんだったんだね。」
「そんなことない。」
「でも、ほんとにどうでもよかったらほっとくだろ?
わざわざ僕のところに来るっててだけで大切なんだよ。」
反論ができず黙ったままでいると兄さんはいつもの笑い顔をやめ真顔で返す。
「本当に大事なんだね。
もし、その子の熱が直ったら彼女達も連れておいで。喜んで歓迎するよ。」
兄さんはいつになく優しげな表情で微笑んでいた。
約半日ほどたって薬は完成した。
「じゃあ、約束を忘れないでね。彼女達によろしくね。」
そううるさくいう兄を置き去りに、私は帰り時を急ぐ。
(予定よりも一日ほど遅くなった。ソルは大丈夫だろうか?
ルナはが心配していないといいが。)
森へ帰るやいなや私は目を疑った。
家は荒れ果てていた。
銃かなにかで穴は無数にあき、中は何者かに荒らされたようだ。
なにがあったか何もわからない私はとりあえず急いでルナとソルを探す。
あれはてた家の中にはだれない。血の気が引いていく。
「ルナ!ソル!いたら返事をしてくれ!!」
出せる限り声を張り上げる
「まーさん?」
おそるおそる、あれはてた近くの影から、ソルが顔を出す。まだ熱のせいか顔は赤らいでいて足下はふらふらしている。
「ソル、よかった。」
いそいでソルの方へ賭けより抱きしめる。
(ああ、あったかい。)
そのあたたかさにほっとした私とは対照的に彼の口からは堰を切ったようにことばがあふれ始める。
「まーさん、まーさん。いえがね、どーんとなって、こわれて。おとこのひとたちが。それで、ねーねが、ねーねが...」
しかしながら出てくる言葉は単語ばかり要領を得ない。私はソルの背中をそっとなでる。
「もう、大丈夫だ。私がいる。」
そして、まだ言葉もでてこない彼に聞く。
「姉さんはどこいった。」
彼は泣きながらそっと、森の向こうがわ、東の方を指さす。
私はソルをかかえ指さす方向にかけだした。
そして、森のすこし開いた先。ルナがいた。
彼女は胸に血を流しぐったりと倒れていた。
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