4-44.ナイトメアウィザード討伐4 魔法陣剣士

 ナイトメアウィザードの動きを注視しながら、魔法陣剣士の構想を再確認する。

 今までの俺の戦い方は、魔法と剣術が別々になっていた。時々刀に魔法陣をぶっさす形で展開して、魔法剣みたいな使い方はしたけど…。なんてゆーか、それでも別個に使っている感じが否めなかったんだよね。

 そこで思いついたのが「魔法陣剣士」っていう戦闘スタイルだ。

 この発想は魔法剣士から。

 魔法剣士っていうのは、剣術と魔法を一体化させた剣士ってのが一般的だと思う。

 要は炎剣、水剣、雷剣…ってな感じで、斬撃時に付与属性ダメージを与えたり、付与属性の斬撃を飛ばしたりという戦い方だ。最終的には魔法剣士にしか使えない最上位魔法を使えるようになって「俺ツエー」を謳歌するっていうのが魔法剣士の醍醐味だよね。後は、色々な属性魔法が使えるからどんな状況にもマルチに対応できるっていうのが強み。

 逆に弱みはどれか1つの属性を極める訳じゃないから、エンドコンテンツ的な突き抜けた強さを必要とするダンジョンとかボス相手にはイマイチな性能になっちゃうってトコかねぇ。

 んでもって、この魔法剣士をベースに俺が使える魔法陣展開魔法の組み合わせ方を考えた訳だ。

 これを考えるにあたって、大きなヒントになったのが、俺の使う魔法陣の特異性だ。

 ん?魔法陣展開魔法だろうって?

 それがさ、違うんだよね。勿論、魔法陣展開魔法を使えるからこそ、展開速度は一般的な魔法陣よりは早いけどな。実は、俺の魔法陣…移動してるんだよね。

 意味が分からないって?

 そうだな…。えぇっと、端的に言うと魔法陣魔法って、使用する魔法陣は展開したり描いた空間に固定されるらしいんだよ。けど、俺は移動しながら一緒に魔法陣が移動しているって訳。これは一般的な魔法陣魔法の常識を覆す事態らしい。

 ちなみに、なんで気付くのが遅かったのかっていうと、この世界では魔法陣魔法の使い手がほとんど居ないらしいんだよね。転送魔法陣とかがあるから使える人はいるけど、メインで使っている人が基本的にいないんだと。魔具魔法っていう便利な魔法があるからね。

 魔具魔法ってのは簡単で、使用者の属性と一致した属性を持つ魔具を媒体として属性魔法を発動する魔法の事だ。言い方を変えれば、魔具が無ければ属性魔法を発動する事が出来ない。

 俺の使う魔法陣も媒体に該当するんだと。

 そういう意味では、魔具に縛られないから便利だよな。

 ま、そんな訳で魔具魔法がメジャーな世界で、超マイナーな魔法陣魔法の特性を把握している人が殆どいなかったっていうのが真相な訳だ。

 この話もつい先日ラルフ先生に教えてもらったばっかだしね。


 さて…ここからが本題だ。

 俺の使う魔法陣展開魔法。この特性を活かした戦い方は…魔法陣を常に展開して状況に応じた攻撃魔法や防御魔法といった対応を行い、属性魔法刀での攻撃を絶え間なく行うってやつだ。言うは易し行うは難し。なんだけどね。

 ただ、龍人化【破龍】を行なっている間なら、魔法陣同時展開数の上限がほぼほぼ撤廃されているから、問題なく出来るはずなんだ。心配なのは「思考回路が複数の魔法陣を同時管理し、更に攻撃と防御を行なっていく」という同時演算的な処理能力が追いつくかどうか。

 思い付いたのが昨日だったから試す時間が無かったんだよね。


「ま、やってみるしかないだろ。」


 龍刀の切先をナイトメアウィザードに向けたまま、気軽に言うと、俺は周囲に6個の魔法陣を、龍刀の刀身周りに4個の魔法陣を展開した。

 そして、ナイトメアウィザード目掛けて…吹っ飛んだ。

 足の裏に風球を発生させてみたんだけど、危ないなこれ!?普通に風魔法による移動強化とかの方が無難だな。

 崩れそうになる体勢をなんとか制御しつつ、闇矢乱射で牽制を仕掛けてくるナイトメアウィザードへ向けて光球を放つ。

 矢の形状より球の方が面積大きいから矢との相殺はこっちの方が狙いやすい筈。


 ドドドドン!


 と、光と闇が衝突していく。

 その隙間を抜け、居合の姿勢で刀の間合い内に踏み込んだ。


「ウォォン!!」


 短い咆哮を上げながら、踊るような動きでナイトメアウィザードが応戦してくる。

 けど、それは想定済み。

 龍刀の周りに展開した2つの魔法陣を使い、光の刃2つを発生させて鎌を弾く。

 更に残り2つの魔法陣で光魔法エネルギーを龍刀に付与して…!!


「はぁぁあ!!」


 一閃。輝く閃きがナイトメアウィザードの半身を斬り裂いた。


「ヴォォン!??」


 斬撃の衝撃に身を捩り絶叫を上げる姿を横目に、4つの魔法陣を直列で展開する。


「吹き飛べ!」


 魔法陣直列励起によって威力を増大させた光属性のレーザーが、ナイトメアウィザードの姿を掻き消す。


「…ふぅ。」


 火乃花に倒したぞ報告をしようと振り向いた俺が見たのは、顔を青褪めさせた火乃花だった。

 周囲に溢れかえっていたシャドウは全て消えている。…流石だね。

 にしても、魔獣を全て撃破したってのになんであんな顔してんだ?


「龍人君…後ろ!」


 後ろ?何もいないだ………えぇ?


「どーゆー事だよ。」


 そこには、4体のナイトメアウィザードがユラユラと浮遊していた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 龍人と火乃花の2人と落下時に分断されてしまってから約1時間。

 俺とルフトは地下の洞窟を彷徨っていた。

 落下した先が細い通路で、今彷徨っているのも細い通路。どの道を通ってもクネクネ折れ曲がった細い通路が続いている。


「これって…もしかしなくても、もしかするよね?」

「だねっ。コレは迷路だっ!」


 そう。迷路。

 しかも1時間歩いても脱出出来ないとか、大迷宮じゃないかな?


「てゆーかさ、魔獣ゼロとかおかしくないっ!?」


 ルフトは…さっきからプリプリ怒ってるんだよね。魔獣が出て来ないのがとても不満みたい。

 俺としてはナイトメアウィザードと戦う前に余計な魔力を消費したくないから、好都合な展開なんだけど。


「ルフト。魔獣が出て来ない事も気になるけど…先ずはこの迷路を抜けないと。」

「…いっその事、壁を吹っ飛ばしちゃう?」


 うわっ。平然とした顔でぶっ飛んだ事言い出したよ!?

 ルフトってバトルジャンキーだけど、それ以外は常識的かなって思ってた。


「………。」


 え?俺の事ジト目で睨んでくるんですけど。


「遼。」

「な、なに?」

「今、俺っちの事ぶっ飛んだイカれ糞野郎って思ったでしょっ!?」

「お、思ってないし!」


 半分くらい当たってる事が怖い!


「俺っちだって色々考えてるんだからねっ。このまま迷路を彷徨って、その間に龍人と火乃花がナイトメアウィザードと戦うことになったら、つまん…危ないじゃんっ?」

「…。」


 俺のジト目返しを受けてルフトは目を泳がせた。


「と、とにかく!早く合流する事が重要なのさっ!」

「それは否定しないけど。」

「じゃあどうやって合流する?」

「だから迷路を…。」

「却下!パーティー分断の今、安全策は愚策だよっ。」

「でもさ……。」

「安全な戦いなんてないんだからねっ!無謀と勇敢を履き違えなければ大丈夫!」


 なんか…押し切られてるような。


「と言う訳で!…やるよ?」


 押し切って最後に俺の意見を聞こうとするなんて……ルフトは策士だね。

 すごーく嫌な予感がするけど…ルフトが言う通り、のんびり進んでる場合じゃ無いのは本当だし。…乗ってみようかな。


「分かったよ。でも、どうやって壁を壊して龍人達の方向に向かうの?完全に俺達迷子だから、方向感覚も怪しいと思うんだけど…えっ?」


 ガシッとルフトに腕を掴まれた。

 そして、爽やかな笑顔で…俺の想像を超える言葉を言ったんだ。


「大丈夫!ここまで迷ったら直感で進むしか無いから!吹っ飛んでいくから、しっかり捕まっててねっ!いっくぞ!迅風【虚空砲】!」

「え、ちょ……う、うぎゃぁぁぁぁぁっ!?」


 強力な風のレーザーが迷路の壁をぶち抜き、その穴に向かってルフトが俺を引っ張ってぶっ飛んでいく。

 これ、めちゃめちゃ怖いよ!?


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 俺と火乃花は体を密着させていた。

 そう。俺達は度重なる連戦を潜り抜けて来た事で、互いの想いに気付いたのだ。触れる肌。重なり合う指。そして互いの吐息が混じり合う距離で見つめ合い…。


「ってんな訳あるか!」

「…いきなり何よ!?」

「あぁ悪い。ちょっとした現実逃避。」

「いやいや!現実逃避してる場合じゃ無いわよ!?この状況をどうにかしないと!」


 さっきの謎の恋人同士みたいな文章は忘れてくれ。どこかの誰かの妄想が現れちまったみたいだ。

 今の状況はそんなピンク色な世界じゃない。どっちかっていうと真っ黒だ。あ、でも密着しているのは本当。

 と言うのも、ナイトメアウィザード4体による波状攻撃を、2人で交互に魔法壁を使って防いでいるんだよね。

 闇矢と鎌から放たれる闇刃の嵐が絶え間なく魔法壁に激突し、ビリビリと大気を震わせ続けている。

 正直このままだとかなりマズイ。攻撃に転じる余裕もないし、このまま防御を続けていたら魔力が尽きる。


「どうにかして反撃できないかね?」

「…今のままじゃ難しいわ。魔法壁が隔絶結界である以上、どうにもならないもの。」

「じゃあ…魔法壁を全方位じゃなくて半球状にする?」

「それやったら私達が蜂の巣よ。そもそもCランクの魔獣相手に持ち堪えてるだけ凄いわよ。」

「そうかもだけとさ…あ、例えば俺達の攻撃だけ透過する魔法壁って出来ないのか?」

「防撃結界の事かしら。」

「え、あるの?」

「あるけど、基本的に4人以上の魔法使いで発動するものよ。発動原理も複雑みたいだから、そんな簡単に使えるものじゃないわ。」

「げぇ。一発解決の名案だと思ったんだけどな。」

「…龍人君。あとどれくらい持ち堪えられそう?」


 火乃花の額を一筋の朝が流れ落ちる。この様子を見るに、ギリギリのラインって事か?


「俺は…あと10分位かな。龍人化【破龍】で魔力効率が結構上がってるけど、そろそろジリ貧だな。」

「私は、そろそろ限界。今は龍人君が魔法壁を担当してくれているから大丈夫だけど…次の交代で魔力が尽きちゃうかも。」

「…ヤバいな。」

「えぇ。このままだと…。」


 どうすっかね。ナイトメアウィザードの魔力には限界がないのか、攻撃の総量が全く落ちないんだよね。4体全員が俺達から一定の距離を保って攻撃魔法を放ち続けてるから、反撃もしにくいし…。


「火乃花。この後、魔法壁を交代する時に、一瞬だけ隙間を空けられるか?」

「もしかして…。」

「あぁ。その隙間を抜けて俺が突っ込む。だから、俺は魔法壁のギリギリに立つから、俺が魔法壁を解除した後に…俺と火乃花の間に魔法壁を張ってくれ。そうすれば、多分大丈夫だろ。」

「でも…龍人君、4体も倒せるの?」

「倒せるかどうかじゃなくて、倒すんだ。」

「でも…でも、もし倒せなかったら龍人君は…。」

「火乃花。」


 俺は火乃花の肩に優しく手を乗せる。…手が震えそうになるのを押さえるので必死だよ。


「俺が倒せなきゃ、火乃花だって同じだろ?だから、この攻撃に掛けるしかない。」


 下唇を噛んだ火乃花は俯いてしまう。

 はは…そりゃそうだよな。仲間が自分自身を犠牲にして火乃花を生かそうとしてるみたいな展開だもんな。

 でもさ、俺はこれが最善だと思っている。火乃花の魔力残量はかなり少ない筈。つまり、俺と火乃花のどっちが道を切り拓ける可能性が高いのか。って話だ。2人が魔力全開なら迷わず火乃花に託すけどな。

 なんたって火乃花の攻撃力は1年生の中で随一だし。あ、ルフトも同じくらいの実力はありそうかな?

 ともかく、2人が生き残るには…これしかないと思う。

 …思っていた。


「そんなの…駄目よ。」

「……へ?」


 肩に乗せた俺の手を退けた火乃花は、そのまま俺の手を握り締めてきた。


「どうして自分だけ犠牲になる…みたいな事を言うの?違うでしょ。私達はパーティーよ。仲間よ。仲間なら…誰か1人に負担を強いて犠牲なんかにしない。力を合わせて困難を乗り越えるものでしょ!?」


 え。もしかして…。

 火乃花が伏せていた顔を上げる。

 その相貌に光るのは、強き意志を秘めた瞳だった。


「私も攻撃するわ。2人で切り拓きましょ。」


 ……はは。俺、間違ってたのかもな。

 森林街の皆が殺された事がちょっとトラウマチックになってるのかも。無意識に仲間が死なない方法を考えていたみたいだ。その結果に俺自身の犠牲ってのがあっても疑問に思わないくらいに。

 火乃花はそんな俺の考えを真っ向から否定してくれた。普通なら自分の身可愛さに俺に攻撃を任せるはずだ。でも、火乃花は一緒に攻撃をするって言ってくれた。

 こりゃぁ…火乃花の想いに応えるしかないよな。


「…火乃花。サンキューな。……絶対に生き残るぞ。」

「当たり前よ。手を抜いたら許さないわよ?」

「ははっ。勿論だ。」


 握り締めた手を離した俺と火乃花は、軽くハイタッチする。

 そして、構えを取った。今出せる全力の攻撃を叩き込む為に。

 よく見るんだ。ナイトメアウィザードの攻撃にも僅かな隙がある筈。それを見極めて、少しでも攻撃が成功する可能性を高めないと。


 ……………………ここだ!


「いくぞ!」

「うん!」


 魔法壁を解除し、全力疾走と攻撃による反撃を開始…しようとした時だった。


 ドガァァァァァン!!


 という轟音と共に壁がぶっ壊れ、その中心をイキイキとした顔のルフトと、涙と鼻水を垂れ流す遼が突き抜けて来たのは。

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