4-43.ナイトメアウィザード討伐3 シャドウ包囲網
シャドウ軍団は手強かった。
「あっ!龍人君!次はあっちから出てきたわ!」
「オッケー!」
火乃花が指し示した方向に光矢を連射する。
うしっ。貫かれたシャドウは次々と消えていった。
シャドウは数が多いけど防御力が紙装甲だから、なんとか凌げてる。
「火乃花!このまま戦っててもジリ貧だ。突破しよう。」
「…この数を相手に後ろの壁が無くなっても大丈夫かしら。」
それね。俺と火乃花は洞窟の壁を背にして戦っている。
壁を背にしながらの移動ってのもあるけど…それだとこの広い洞窟を壁沿いに進み続ける事になる。
迷路とかだと壁を右手に進み続けると、最終的にゴールに辿り着けるってのがあるけど…今はちょっとだけ状況が違う。
何故かっていうと、俺達の丁度正面…洞窟の中心方向からシャドウが出現する確率が高いんだよね。つまり、その方向に何かがある可能性が高い。
もしかしたら、討伐目標のナイトメアウィザードがいるかもしれないし。
この大量のシャドウを相手に壁沿いに移動しながら戦い続けてたら、その内…魔力切れになっちまう。
だとすると、結論は1つ。つっこんで蹴散らす。って事になるんだよね。
これが俺と火乃花の共通見解な訳で、だからこそ火乃花の心配に繋がるわけだ。
迷うのは分かるけど、ここはやるしかないからな。使える手段をフル活用して道を切り開くしかない。
「火乃花。俺が後方に魔法壁を展開していくから、前方のシャドウを倒すことに集中してくれ。」
「…魔法陣を常駐させて適宜魔法壁を展開していくって事?」
「そう。同時に後方への攻撃もするから、多分持ち堪えられると思う。」
「分かったわ。やりましょ。」
「うし。」
俺と火乃花は頷き合うと前方の様子を確認する。
…光源も問題だな。
と思ったら、火乃花が火の玉を前方に向けて幾つか放ってくれた。
よし。それなら俺も火乃花の火の玉が照らしていない部分を狙って光球を出せば…なんとかなるか。
俺の放った光矢で…前方のシャドウの幕が開く。
「ここだ!」
「いきましょ!」
俺と火乃花は走る。
火乃花が焔魔法を次々と放ち、姿を現すシャドウを屠っていく。
俺はというと…存外後方からシャドウが来ない。
気を抜いて不意打ちを喰らったら洒落にならないから、警戒しながら魔力温存…で進んでいく。
少し進んだ所で前方から100体を超えるシャドウが姿を現した。
「うわぁ…。」
「龍人君!後方は?」
その後方も問題なんですよ。これまで全く出てこなかったのに、このタイミングで同じ位のシャドウが出てきた。
100体のシャドウによるサンドイッチ大作戦。挟まれたら即死じゃん。
「後ろも同じ状況。」
「う…。…しょうがないっか。」
若干諦めムードの火乃花。
えぇっ?そんな感じ?
「最近覚えたスキルを使うわ。龍人君は後方のシャドウをなんとかして。」
「…お、オッケー。」
諦めじゃなくて、やる気スイッチだったのね。
足を止めた火乃花は焔鞭剣を消すと、魔力を集中させる。
「いくわよ。真焔【流星】!」
おぉ。カッコイイスキル名ですね。
火乃花の周りに拳大の焔が次々と出現し…スキル名の流星の如くシャドウの群れに突っ込んでいく。
うわぁ…これ、1発の威力相当高いんじゃないか?着弾場所で小規模の爆発が起きてんだけど。
ドドドドドドドドドドドドドド!!…と、地響きのような轟音が響き渡る。
すげぇな。この短期間でまた強くなってんじゃん。
「俺もやるか。」
龍刀と夢幻を魔法陣の収納に仕舞い、俺もスキル名を唱えた。
「龍人化【破龍】。」
内側から膨大な力が溢れ出し、黒い輝きが俺の周囲に漂う。
うん。いいね。黒い靄の時みたいな感情の昂りとか、口調が悪くなるってのがない。一先ずはこの力を制御下に置けてるって考えても良さそうだ。
後方に手を向け、魔法陣を連続展開する。
龍人化【破龍】を行なっている時の特徴は、属性魔法を第2段階まで使える事だな。普段は第1段階の形状が線か点の魔法しか使えないんだけど、この状態なら面の魔法が使える。
つまり…今みたいな状況にはうってつけな訳…ですよ!
魔法陣が光り輝き、扇状に光魔法が放たれる。眩い光が洞窟内を照らし、その光に触れたシャドウが次々と蒸発するように消えていく。
「うっし!完了!」
「…ホント龍人君の龍人化って凄いわね。」
「いやいや。火乃花のスキルも大概だろ。」
「そうかしら?」
「あぁ。勝てる気がしないし。」
「ふふっ。そんな事は無いと思うけど、そういう事にしておきましょ。それよりも…あの扉、明らかに怪しいわよね。」
火乃花が指し示したのは、洞窟の中央に置かれた扉だった。ウネウネとした文様が彫られている。イメージ的には…どこにでもドア的な感じ。
「あの扉を開けると、別空間。みたいな展開っぽそうだな。」
「それ、中に強敵が待ってます。みたいな展開って事?」
「だろうねぇ。」
「…自分から危険に飛び込むのは、あんまし好きじゃないんだけど。あの扉の中にどんな魔獣がいるか、何となく想像がつくわね。」
「やっぱり?」
「えぇ。」
「じゃぁ…つっこんでみますか。」
「いきましょ。ここでゆっくりしてたら、またシャドウが大量に出てきそうだし。」
俺は警戒しつつ扉に手を当て…押し開ける。
「…あれ?開かない。」
「えっ?鍵が掛かってるとかかしら?」
「鍵穴とかは無いんだけどね。」
「私もやってみていい?」
「おうよ。」
一歩下がって火乃花に扉の前を譲る。ガッチリびくともしなかったから、何か開けるための仕掛けがあるのかね。
ギィィィィ
…わぁお。開きましたよ。
振り向いた火乃花のジト目がオレを射抜く。
「何か言うことあるかしら?」
「そうだな…ごめん。」
火乃花が引いて開けたドアを眺めながら、俺は引き攣った笑みを浮かべながら謝ることしか出来なかった。
ん?事の真相が分かりにくいって?
まぁ、そうだな。…察してくれ…!!
という訳で、気を取り直した俺達はドアの中に入る。横で火乃花が「緊張感が無いわ…」とボソッと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。けど、聞こえないふりをしたのは言うまでも無い。
自分で傷口を広げる真似をする馬鹿はいないってね!
「こりゃあ…凄いな。」
「さっきの洞窟と全く別の場所みたいね。」
ドアの先にあったのは正方形の部屋。
思わず凄いって言ったのほ、部屋の壁一面にぼんやりと光る幾何学模様が描かれていたからだ。
イメージ的にはそうだなぁ…ゲームを全クリした後に出て来る地下迷宮の隠しダンジョン。的な感じかな?
でもって、部屋の中央に紺色のフードで全身を覆い、片手に巨大な鎌を持った奴がフワフワと浮いていた。
見た目からして幽霊系のモンスターだわ。
つまり…こいつが。
「龍人君…アレがナイトメアウィザードよ。」
「想像より強そうだね。」
「そりゃあそうよ。Cランクの魔獣だもの。」
確かCランクの魔獣は「下位ランクの魔獣を統率する上位個体。4人以上のパーティ、且つ戦闘技術を学んだ者でないと危険。」ってのがギルドの定義だったっけ。
「あら?俺達2人しかいないじゃん。」
「…え?そのつもりだったんじゃないの?」
「いけるかなって思ってたんだけど、よくよく考えると実績的には無謀だよね。」
「龍人君…もう後ろの扉も閉まっちゃったし、覚悟を決めるしかないわよ。」
「げっ。」
ホントだ。いつの間にか閉まってるじゃん。
いや、待て、落ち着け俺。
前向きに考えよう。
ここで火乃花と2人だけでナイトメアウィザードを倒せば、Cランクとしてはそこそこの実力があるって事になるのでは?
「ま、それに…天地と戦おうとしてんだ。Cランクの魔獣に遅れを取ってたら話にならないか。」
「勇敢と無謀は似てるけど違うからね?」
「はい。」
前向きに考えてたのにズバッと切り捨てられた!!
けど、チラッと横にいる火乃花を見ると、少しだけ楽しそうな顔をしていた。
「なんか、楽しそうだな。」
「そうね。なんでかしら。…龍人君と対等に並んでいる感じがあるからかしら。」
「対等に?」
「えぇ。今まで龍人君って少し得体が知れなかったのよね。特殊な魔法陣を使うし、職業も『龍人』だし、諦めが悪いし。」
…ん?最後のは悪口か?
「どこか私達…私とは違うものを見ている気がしてたのよ。それを知りたくて、一緒にギルドクエストもやってみたかったんだけどね。」
「あー。そういう事ね。」
「うん。でも、さっきの話で分かった。見ている相手の大きさは違ったけど、想いの根本は一緒なのかなって。だから私は…龍人君と並んで戦えるように、強くあるわ。」
なんか嬉しいね。ただ、火乃花の方が俺より強いと思うんだけど…。まぁその辺りはどっちでも良いか。
「火乃花。ありがとな。」
「なっ。いきなり何よ!?」
あら?感謝の言葉を伝えつつ頭をポンポンしただけなんだけど。
何故か顔を真っ赤にした火乃花は俺の手を振り払う。
やべ。子供扱いされたって思ってお怒り?
「と、とにかくっ…!ナイトメアウィザードも何故か待ってるみたいだし…戦うわよ!」
「…ん?…オッケー。戦法は?」
「基本は闇魔法みたいだから、龍人君は光魔法中心が良いかな。撹乱してもらって、私が横から強撃を叩き込むわ。」
「分かった。じゃあ…いきますか。」
龍刀を構え、光矢を放ちながらナイトメアウィザードへ接近する。
ナイトメアウィザードも闇矢を連射して応戦してきた。
光矢と闇矢が相殺していく。
この程度なら…いける!
下段に構えた龍刀を通り過ぎ様に振り抜く。
キィィン!
甲高い音だけが響く。
今のは…。
「龍人君危ない!」
焔鞭剣か俺の前に割り込み、側面から滑るように向かってきた鎌の軌道をズラす。
「悪い!助かった!」
ナイトメアウィザードは火乃花に鎌を弾かれた事を意に介さず、俺に向かって連続で斬り掛かってきた。
クルクルと踊るように回りながらの斬撃は…隙がない。弾いたとしても、その方向に回って逆方向からの斬撃に繋がっちまう。
これ、接近戦に持ち込めば崩せるって思ってたんだけど、甘かったかな…。
こうなったら火乃花と連携して一気に攻めた方が確実だ。
火乃花に声を掛けようとした俺は、背後から聞こえる音に違和感を感じた。
「うわ…。」
チラッと見ると、火乃花が部屋の四方から次々と現れるシャドウに襲われていた。
次々と現れるシャドウを次々と撃破しているから、火乃花が倒れる心配は無さそうだけど…。
「……危ね!?」
今、俺の可愛い頬っぺたを掠ったぞ!?
「ウォォォォォン!!」
…ヤバイ!!
ナイトメアウィザードが吠えた瞬間、鎌の速度が上がった…!
ガギギギギン!!
連続して鎌の刃が龍刀に激突したと思うと、俺は後方に吹き飛ばされていた。
「くそっ…!本気出してませんでしたってか?」
ユラユラ揺れるナイトメアウィザードが、鎌を上段に構える。…刃の周りに闇魔法が付与されてるような。もしかして。
ブゥゥン!と、鎌が振られ…刃の軌道に合わせて闇の刃が放たれた。範囲が広く、速度も速くないか!?
魔法壁を展開して防御…!
パリィン!
闇の刃は魔法壁を難なく破壊する。それは容赦なく俺の喉元へ伸び…。
「くそっ!龍人化【破龍】!」
黒に染まった龍刀が闇の刃を弾けさせる。あぶねー。ギリギリだったよ。
「ウォォォォ…。」
龍人化【破龍】を使った俺を見て、ナイトメアウィザードは警戒を強めたっぽいな。
周りに闇矢を浮かべ、鎌を構えたまま俺を凝視してやがる。つっても、フードに隠れていて目が見えないから「凝視されている気がする」というのが正確なんだけど…視線を感じるから間違いは無いと思う。
俺は龍刀の切先をナイトメアウィザードに向けた。
「さぁ、ここからが本番だ。そう簡単には負けないからな?」
相手はCランクの魔獣だ。人間相手の試合だと本気を出しきれない事もあるけど、魔獣相手なら本気出してナンボだし。
最近練習している、魔法剣士ならぬ「魔法陣剣士」を全力で試してみよう。
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