4-42.ナイトメアウィザード討伐2 火乃花との話

 俺の話を聞き終わった火乃花は、言葉を失っていた。

 そりゃぁ…そうだよな。火乃花のお母さんを亡くした話もかなり重いけど、俺のは星に住む人々全員を殺された話だ。おもさのレベルが違う。

 勿論、話の重さを張り合うつもりはないけど…聞く側は中々受け止め切れないよな。

 話終わってから数分の間…沈黙が続いた。

 俺はポーションの回復効果が終わったのを確認して、もう1本のポーションを飲み干す。話はしているけど、今いる場所はナイトメアウィザードがいるかも知れない洞窟の地下空間。油断は禁物だからな。

 限りある時間を有効活用して、今のうちに体力を回復させておかないと。

 もし、今の状況で魔獣に襲われたら…多分俺は完全にお荷物龍人君状態だ。


「グス…。」


 今聞こえたのは…。

 え?火乃花、泣いてるのか。

 いきなり聞こえた鼻を啜る音に俺が動揺していると、俺の手がフッと温かい感触に包まれた。

 え、なに?え?…これって火乃花の手か?


「ごめんね。」

「ど、どうしたんだよ?」


 何故に謝るんだ。

 つーか、こんな火乃花初めてなんですが。

 つーか、手を握られるとかドキドキなんですが!?

 つーか、火乃花の手が柔らかいんですが!?

 いや、てか、女の子の手って柔らかいんですね!

 このまま握り返しても良いのでしょうか?でも、握り返した瞬間に「セクハラ認定」されるのがオチな気がする。セクハラっていうのは被害者が「セクハラ」って思ったらセクハラだからね。あ〜あ、言動に気を付けないといけない仕事の日々を思い出したらちょっと憂鬱になってきたよ。

 違う違う。憂鬱も何も、俺、今、火乃花に手を握られてるんですが!

 もしかしてこのまま告白イベント的な?

 チューされちゃう的な!?


 と、いきなりの展開に俺の思考が暴走していると、火乃花の堪えるような声が聞こえてきた。その声色に俺は「ハッ」と冷静さを取り戻す。

 よし。いいぞ俺。ステイクール。ビークール。


「私、龍人君はもっとお気楽に生きてるのかって思ってた。……それが、森林街でそんなに辛い事があったんだなんて。」


 これは…同情?されているんだろうか。

 さり気なく貶されてる気がするのは気のせいだろうか。「お気楽に生きてる」…ね。確かに普段、街立魔法学院ではのんびりマイペースに授業を受けてるからなぁ。そう思われても仕方ないかとは思う。でも直接言われるとちょっとだけ心外な気持ちになってしまうのですよ?

 …うん。手を握りながら貶すとか超高等テクな気がするから、ディスられているのは、気のせいという事にしておこう。

 ここで的外れな事を火乃花に言ったら「巫山戯んのも良い加減にしないよ!」と、極大の焔をぶち込まれそうだし。そうなったら魔獣に襲われる前に俺は天へ召される。

 触らぬ神に祟りなし。だね。


「龍人君は…何をしたいの?」


 うぉっ!?火乃花の顔が近付いた気がするのは気のせいか!?

 落ち着け俺。ビークール。ビークール。

 あ、ちょっと良い香りが…。はっ。俺、今、変態の道を歩みそうになっていた気がする。

 よし。冷静に。冷静に。


「俺の目的は……天地に同じ事をさせない。ってのか1番かな。その為に強くなりたい。」

「…その天地って組織は、龍人君の話を聞く限りだと、別の星を滅ぼそうとしてる可能性もあるよね?」

「まぁあるだろうね。」

「もし、もしだよ。天地が別の星を滅ぼそうとしてるって知ったら…どうするの?」


 …そこ迄は考えた事なかったな。

 でも、答えはすぐに出せる。


「絶対とは言えないけど…天地を止めに行くと思う。」

「…そっか。」

「ま、天地の目的とかも知らないから、考えが変わるかもしれないけどな。あ…でも。」

「でも?」


 …別に隠しても何も変わらないかな?


「目的と言えば…なんだけど。森林街を襲ったセフって奴は、里因子所有者ってのを探してるみたいな口調だったんだよね。」

「里因子所有者…聞いた事無いわね。」

「だよね。里因子所有者は世界を変える力を持つ者…とかも言ってたかな。」

「話のスケールがいきなり大きくなるわね。心当たりはあるの?」

「多分…にはなるんだけど、俺の職業が関係してるんじゃ無いかとは思ってんだよね。」

「龍人君のは…『龍人』だっけ?」

「そだね。」

「…ちょっと恥ずかしいけどね。」

「それは…言わない約束で。俺自信が恥ずかしいんだから。字で書いたら自分の名前が職業ですか?だよ。」

「ふふっ。なんか龍人君らしい気もするけど。」


 きたー。完全に馬鹿にされてますよコレ!ま、良いけどねっ!

 強引に話をまとめてやるんだから!


「まぁそんな訳で俺は強くならなきゃいけない訳ですよ。」

「うん。分かった。」


 お、納得してくれた。

 本当だったら異世界転移の話もした方が良いのかなぁ。でも、そうすると話がややこしくなるから…まぁいいか。

 嘘はついてないし。

 ん…?火乃花が俺の手を握る力が強くなった。


「龍人君。いきなりこんな事言うのはアレなんだけど……私も一緒に戦いたい。」

「ふぇっ?」


 想像の遥か斜め上を言った言葉に変な声を出しちまった。


「ふぇっ?じゃなくて、私も一緒に戦いたいの。」


 お、火乃花が言った「ふぇっ?」が結構可愛かったぞ。


「いや、なんで?」

「駄目?」

「駄目っていうか……死ぬかもしれないんだぞ?セフは多分ラルフ先生と同等かそれ以上に強いし、きっと同じレベルの奴はもっとゴロゴロといると思うんだ。天地と戦うなんて、普通に考えたら自殺行為に等しいと思うんだけど。」

「でも、龍人君は天地と戦うつもりなんでしょ?」

「そりゃあ俺はこれ以上失うものはないからな。」

「だからよ。」


 ……え?


「龍人君は気付いてないかも知れないけど、あなたはもう…私達街立魔法学院1年生の仲間なのよ?1人で戦って命を落とすとか、皆が悲しむじゃない。そんなの嫌よ。何より私が嫌。1人よりも2人の方が成功確率は高いわ。」


 うっ。それはそうなんだけど…どうしたら上手く断れるんだろうか。

 他の誰かを巻き込みたくないんだよな。それは、森林街で一緒に過ごしてきた遼に関しても同じだ。これは俺が決めた事だから、基本的に1人でやりきるつもりだった。

 だってさ、異世界転移、里因子所有者。このキーワードだけでラノベ的展開なら…碌な異世界生活が待っているとは思えない。

 遼も火乃花も俺の大切な友達だ。それはColony Worldで遊んでいた時も、今も。


「でも…。俺は…」

「あぁもぅ!分かったわよ。じゃぁ、私も本音を話すわ。私は…龍人君の力になりたいのっ。それだけよ。だから…良いじゃないっ。」


 え。それってどういう…。


「ウォォォォォン!」


 今の声は…。


「火乃花。今のって。」

「…うん。魔獣が近くに来ているみたいね。シャドウは…声を出さなかった気がするから、違う魔獣じゃないかしら。龍人君、ポーションの回復はどう?」

「えぇっと3本飲めたから…1本は10%だから…50%は回復したのかな?」

「まぁ計算ではそうなるわね。動けそう?」

「あぁ。」


 俺の返事を受けて俺の手を握っていた火乃花の手が離れる。


「じゃぁ…もう1本飲みながら魔獣の襲撃に備えましょう。」

「おっけー。」

「あ。」

「え?」

「…さっきの話、ちゃんと後で答えを聞かせてね?私、本気だから。」

「お…あ、あぁ。分かった。」

「よぃ。もう少し戦いやすい場所に移動しましょ。」


 火乃花の手に火が灯る。

 ボンヤリと照らし出された火乃花の顔は…どことなく赤い。

 熱でもあんのか?このタイミングで熱とかヤバいぞ。

 俺が心配して顔を見つめていたら、火乃花はプイッと顔を逸らして歩き出す。


「早く行くわよ。光源を出している時点で、魔獣に見つかる可能性が高いんだから。」

「あ…あぁ。だな。…危ない!」


 咄嗟に火乃花の体を抱き抱えて横に飛ぶ。

 その俺達がいた場所に黒い矢が無数に突き刺さった。なんて数だよ…。


「今のって…。」

「シャドウだな。しかも相当数いるぞ。」


 この洞窟に来るまで、シャドウと戦いまくってたから間違い無い。

 あの黒い矢の正体はシャドウが操る影矢だ。

 先ずは周囲の状況を正確に把握するのが優先だな。

 …よし。


「火乃花。迎撃の準備だけしといてくれ。」

「分かったわ。」


 火乃花を抱き抱えたまま着地した俺は、火乃花を降ろすと魔法陣を展開して光球を出現させる。純粋に周囲を照らす事に特化させた光球だ。


「こりゃぁ…また。」

「背水の陣ね。」


 光球が照らした光景は、いきなりクライマックス!的なシチュエーションだった。

 俺たちの後ろには洞窟の壁。そして前方には…50体は下らない大量のシャドウ軍団。

 ウヨウヨと大量のシャドウが蠢いている様は、結構グロテスク。しかも俺達の存在には当然の如く気付いていて、静かに俺たちの方向へ移動を始めていた。

 シャドウって何も声を発さないから、無言で近づいてくる感じは…結構怖いな。

 完全に逃げる事が許されない状況。

 この洞窟はシャドウの巣窟だったって事か。

 一緒に落ちたルフトと遼が合流してくれたら良いんだけど…。いや、俺と火乃花がこの状況って事は、あの2人もシャドウ軍団に襲われている可能性は高いか。

 ん〜…どっちにしろ援軍的なのは望めない状況って考えておいた方が良さそうだな。

 俺と火乃花の2人でどうやって切り抜けるか…そこに思考を集中しないと。

 龍刀と夢幻を取り出した俺は、隣で焔鞭剣を構えた火乃花に軽く視線を送る。


「やるぞ。」

「もちろんよ。龍人君、足を引っ張らないでね?」


 ちょっと茶化した雰囲気を出す火乃花。

 中々にヘヴィーな状況なのに余裕があるねぇ。そーゆーの好きだわ。


「もち。火乃花は俺を燃やさないでくれよ?」

「それは…燃やしたらごめんね?」

「ははっ。じゃぁ…。」


「やるか。」「いきましょ。」


 俺と火乃花はそれぞれの獲物を手に取り、シャドウ軍団に向けて斬り込んだ。

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