4-41.ナイトメアウィザード討伐1 分断
延々と続く荒野。その両サイドに森と湖が広がっているのが恨めしい。
確かに見晴らしは良いんだけど…、面白みが無いと言うか何と言うか。
しかも、出てくるモンスターはシャドウばっかり。この荒野に他の魔獣はいないもんなのかね?
火乃花が言うには「普段はワーム系の魔獣とかもいるらしいんだけど、ギルドの人が言うには、ナイトメアウィザードみたいな強力な魔獣が出現すると、出現地から他の魔獣が離れるらしいのよ。まぁ…だからシャドウばっか出てくるって事は、探す場所としては間違ってはいないと思うわ」って事らしいけどね。
こうやってシャドウを倒しながら進んでいると、タワーディフェンス形のゲームを微妙に思い出すのは気のせいだろうか。ひたすらシャドウってのは、中々に堪えるぞ。
てかさ、シャドウとかナイトメアウィザードって獣か?って思うのは間違いなのだろうか。
普通にモンスター系譜で考えると獣ではなくて霊だよね。となると、魔霊って呼ぶのが普通だと思うんだけど…。
これについても聞いてみたら「龍人君。そういう細かい事を気にしてもしょうがないでしょ?魔霊って呼ぼうが、魔獣って予防が何も変わらないじゃない。」と火乃花先生に言われてしまいました。
くぅ〜なんか悔しい!
ともあれ、2時間くらい荒野を散策していた俺達は、遂に怪しい場所を見つける事に成功したのだった。
「おぉっ。コレがナイトメアウィザードの隠れ場所かなっ?いるかなっ?ボッコボコにするぞっ。」
…ルフトは相変わらず元気だ。俺、遼、火乃花が度重なるシャドウとの戦いにうんざりな表情をしていた時にも、「もっとさ、こうやった方が効率的に倒せるし楽しいと思うよっ!」と、楽しんでたもんな。ある意味で戦闘の天才かもしれない。
「それにしても…怪しい洞窟ね。中にシャドウがウジャウジャいそうな気がするわ…。」
「ホントだね。あ、でも密集しているなら俺の属性【重力】で纏めて倒せると思うよ。」
ゲンナリした顔の火乃花に対して、遼はちょっとだけワクワクしてやがる。
って言うのも、遼は最近やっと属性魔法を習得したらしいんだよね。
最初は習得した属性魔法をお披露目するまで隠そうとしてたんだけど、仲間の能力が分からない状態で戦うリスクを話したら…素直に白状した。
えぇっと…属性魔法は1人3つの属性を覚える事が出来て、主属性、副属性、副属性で構成されているんだっけかな。んでもって、遼が習得したのが主属性【重力】って事らしい。
属性の判別は使用する属性と使用可能形状で行うんだっけ。属性【重力】って形状とか無い気がするんだけど…第1段階〜第4段階のどれなのか。…と、思って聞いてみると「第1段階なんだって。ヘヴィー学院長が教えてくれたんだ。ヘヴィー学院長も俺と同じ系統の属性魔法が使えるらしいから間違いないって。」…だと。
普通に重力ってだけでかなり強い属性だと思うんだけど、それで第1段階とか…末恐ろしいポテンシャルだわな。
「んで、火乃花隊長。どうするよ?」
「ちょ…!隊長はやめてって言ってるでしょ?」
火乃花を隊長って呼ぶと照れるんだよね。その反応が面白くて、ついつい言っちゃうんだよな。…その恥じらう姿が可愛いだなんて思ってないからな?
「全く…。そうね…慎重に進みましょ。ここで洞窟の中に魔法を叩き込むって方法もあるけど、別のモンスターの大群が出てきたら困るし。先ずは洞窟内の様子を調査する方向で。ルフト君…突っ込むの禁止ね?」
「えー?俺っち、爆進して戦いたいんだけど?」
「……話聞いてたかしら?」
火乃花の背後からメラメラと炎が上がる。
こりゃあ…ヤバい。
俺はルフトの肩をポンポンと叩く。
「ルフト。敵は魔獣だけで良いと思わないか?」
「龍人…それはそれで魅力的……。いや、ごめん。そうだね。俺っちは殿を務めるよ。但し!ナイトメアウィザードと戦う時は先頭に立つからね!」
「おう。それで行こう。」
「ちょっと龍人君今のって…」
「よし!行こう!俺が中衛務めるから、龍人と火乃花が先頭でお願い。」
「……はぁ。分かったわよ。」
…危ねぇ。火乃花の怒りが俺に向かって放たれるところだった。上手いタイミングで話を纏めてくれた遼に感謝だな。
「行くか。」
こうして俺達は洞窟の中に足を踏み入れる。
洞窟内の様子は…暗い。魔法で光源を確保しないと何も見えないレベルだ。そして足下はかなり悪い。自然に出来た洞窟って考えるのが妥当だな。
となると、何かしらのトラップがある可能性は低いのかな。逆に、自然に出来た洞窟なら経年劣化っていうのかな?による落とし穴的なのとかありそうだよね。
洞窟自体の強度も不明だから、大規模魔法も使えない。洞窟崩落とかなったら洒落になんないし。
「龍人君、前に何かいるわ。」
「……ホントだ。よく気づいたな。」
「褒めてもなにもないわよ?…それよりも、どうしようかしら。一本道だから戦うのは避けられないだろうけど…洞窟が崩れないかが心配よね。」
「だな。」
暗闇の向こうに見えるのは…黒っぽくて蠢く何かだ。
俺と火乃花が決めあぐねていると、後ろにいる遼が提案を出した。
「あのさ、正体が分からない事を考えると、一旦入口に引き返して誘き出す方が良いんじゃないかな?あまり広くなくて視界も悪い洞窟内で戦うより、外の方が危険は少ないと思うんだ。」
「そうだな。そうした方がいいかも…」
「よしっ!じゃぁ俺っちが牽制で強めの魔法を撃つよっ。そんでそんで、倒せたらラッキー。倒せなかったら全力撤退で行こう!」
「はいっ?」
ルフトの奴、今なんて言った?止めないとヤバい気がする…!
「ルフト。それは…」
「ルフト君、あなたは…」
「ルフト!やめたほうが…」
俺、火乃花、遼の3人が同時に止めようとしたけど、時既に遅し。
目を爛々と輝かせたルフトは構えを取り終わってた。
「おっし!いっくよ〜!迅風【虚空砲】!」
嬉々とした声で放たれたのはルフトのスキル。筒状に形成された風のレーザーがギュン!と俺達の横を通り過ぎていく。
「おいルフト…!………え?」
ドォン。と、着弾した迅風【虚空砲】は暗闇の奥に居た何かを倒したらしく、反応が全て消えていた。
けど、問題はそこじゃなかった。
洞窟全体が振動を始めたんだ。洞窟内に亀裂が走る。
これってもしかしなくても…もしかするよな?
「やばい。洞窟が崩れるんじゃぁ…。」
「逃げま…きゃっ!?」
足元から硬い岩のゴツゴツした感触が消える。
あ〜これは洞窟が崩れたって事ですね。そんでもって、足元が崩れるって事はこの洞窟は地下に続いていて、そこに向かって落ちるわけだ。
うん。やばい。下手すると遭難に……。
「火乃花!」
俺は近くにいた火乃花へ手を伸ばす。
落下を始めた俺達の周りには崩れた岩が一緒に落下していて、遼とルフトの姿は既に見えない。
このまま1人で落ちていくより、2人の方が…生存確率は上がるはず。
必死に手を伸ばし、火乃花の指に俺の指が掛かる。
まるで運命に抗う恋人が如く引き寄せあった俺達は、底知れぬ闇へ落下していく。
そして、ドン!と下に落ちた衝撃と共に上から降ってくる大量の岩による無数の殴打が俺達を襲った。
いや、正確に言うと「俺を」かな。物理壁を下方に展開してたのと、下にぶつかった瞬間に火乃花に覆い被さったからな。一応言っとくけど、襲おうとして覆い被さったんじゃなくて、守ろうとしてだからな?火乃花の整った顔がすぐ近くにあったけど、ドキドキする余裕すらなかったんだからな!
と言う訳で、後頭部に強い衝撃を受けた俺は目出たく意識を手放したのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ピチョン
ピチョン
ピチョン
…水が滴る音が聞こえる。
いつつ…。後頭部がめっちゃ痛いんだが。それに全身の痛みもヤバい。
あー…コレは骨が何本かイッてるかも。
ピチョン
ピチョン
あ、そうか。ルフトのせいで洞窟が崩落して巻き込まれたんだっけ。
……そういや落ちる時に火乃花と一緒で、落ちてくる岩から庇って……どうなった?
ピチョン
ムニュ
……なんだ。
ムニュムニュ
なんかが手に当たってる。こんな柔らかいの……持ってきてたっけ?
ムニュムニュ。ムチムニュ。
「ん……あ……。」
耳元から聞こえるこの声は…。
ムニュリンチョ。
「え……あ……うんっ……!?」
ボワっと火が灯る。
柔らかい光が照らし出したのは、真っ暗な広い空間。
俺と火乃花の周りには一緒に落下したであろう岩が大量に転がっている。
そして、俺に胸を揉まれて身悶えする火乃花の姿が…。
あれ?俺はどこで何を間違ったんだ?
現実を直視して動きを止めると、火乃花ぎ薄らと目を開け…その目に殺気が宿った。
「ど、こ、を、さ、わってんのよ!!」
至近距離からの突き上げが俺の鳩尾を貫く。
「ゔ…!?ご、ごめんなさい。」
「この!」
ガス!
追撃。しかも…同じ場所に。も、もうやめてー!!
数分後。横たわった俺は火乃花にポーションを飲ませてもらっていた。
「全く。何で男ってすぐにセクハラするのかしら。」
「いや、ホントごめん。まさか火乃花の胸だとは思わなくて。何も見えなかったしさ。」
「はぁ……まぁ、いいけど。」
え、いいの?
「それより、ポーションはどうかしら?」
「んー…痛みは少し良くなってきたかも。」
痛みってのは、火乃花に突き上げられた鳩尾。…ではなくて、火乃花を庇って受けた岩の直撃箇所の事だな。何箇所か骨も折れてるっぽいから、ポーションの最大体力20%回復効果は重傷箇所回復を優先的に行う関係で、体力10%回復に効果が落ちてる。それでも骨折が治るんだから凄いよね。
逆に体力だけ回復して骨折が治らないと何も出来ないから、回復10%になってても文句は全くない。
因みに、火乃花の負傷はほぼ無し。この点に関しては感謝の気持ちを持っているらしく、胸を揉んだ件と差し引きで鳩尾2発で許してもらえたらしい。
俺、結構全身ズタボロなんだけどね?
「……これからどうするのが良いかしら。」
「そうだな…遼とルフトも落ちてるはずだから、合流が優先じゃないか?」
「そうよね。だとしたら、まだ龍人君の傷も回復してないし、もう少し休みましょ。」
「だな。流石にこの状態で戦うのは厳しいな。」
「うん。…あ、魔獣が寄せられてくると危ないから、一回火は消すね。探知魔法は使うから安心して。」
「オッケー。ありがとな。」
「うん。」
フッと周囲を照らしていた光が消え、再び漆黒の闇が訪れる。
本当に何も見えない。一才の光が入らない場所にいると、光があるから周囲のものを視認出来ている事を実感する。
こんな暗い場所で生活しろって言われたら…無理だな。
あ、でも何も見えないから聴覚とか気配察知能力は発達しそう。
「……。」
「……。」
沈黙が続く。
別に気まずいって事はないんだけどね。俺はポーションの回復が気持ちいから、ボケーとってしてられるし。
あ、なんか眠くなってきたかも。
「龍人君。」
「んあ?」
しまった。ウトウトしてたら気の抜けた返事をしてしまった。
「あのね、聞きたい事があるんだけど…いいかしら?」
お、俺のボケボケ返事はスルーしてくれた。
「なんだ?」
「龍人君って…信念…みたいなのあるの?」
「信念…?どうしてだ?」
「それは…。」
暗闇の中で火乃花が少しだけ迷う様子が感じ取られた。
「私のお父様と戦った時、諦めなかったわよね。ロジェスと戦っていた時も…もしかしたら死ぬかもしれない直前迄戦っていたんじゃない?普通だったら出来ないって思うんだ。」
あぁ…そう言うことか。
何故俺が命をかけて戦うのか。を知りたいって事だよね。
それを話すには、森林街の事を話さなきゃならない。
けど、話して良いのか?
あの地獄を。
話す事になれば、森林街を壊滅させたセフ、そして彼の所属する天地についても話す必要がある。
それは、俺にとっては大きな選択の1つだ。
だってさ、下手したら火乃花を天地との戦いに巻き込むかも知れないんだ。
火乃花は、きっと天地の話を知ったら関与せずにはいられないと思う。
でも…意志を持って天地と関わるって事は、命を落とす可能性が高まるって事だ。もし、俺が火乃花に天地の存在を教えた事が原因で火乃花が死んだとしたら…俺には耐えられる自信がない。
「…龍人君?」
「あ…あぁ。」
俺が黙り込んだのを不思議に思ったのかな。火乃花が心配そうな声音を出した。
くそ…判断出来ない。つーか、話す勇気が無い。
「あのね、ロジェスの事件の時に聞いたと思うけど、私はお母様を魔法街戦争の時に亡くしたわ。最初はお父様が見殺しにしたんだって思ってた。家族を見捨てて、戦争で功績を上げる事だけを考えてるんだって思ってた。でも…違ったわ。お父様は私達家族を大切に思ってくれてた。」
……辛い話だ。そして、その気持ちを手玉に取った奴らは…許されるべきでは無いと思う。
「それを知った時、私は…2度と大切な人を失いたく無いって思ったの。その為ならどんな努力もしたいし、強くなりたい。だから、今はお父様と毎日特訓してるわ。……時々厳しすぎて吐きそうになるけど。」
うわっ。火日人さんの鬼特訓ヤバいだろ。
「でもね、前は耐えられなかったけど、今は耐えられる。乗り越えて強くなろうって思えるんだ。」
「そっか…火乃花も変わったんだな。」
「うん。だからね、人って信念があれば強くなれるって思うんだ。龍人君もあれだけの諦めない意志があるって事は、きっと普通の人には無い信念があるんじゃないかって思うのよ。」
「…どうしてそれを知りたいんだ?」
「それは…龍人君の事が……………一緒に戦っていける仲間みたいに思えるからかな。」
「火乃花…。」
どうやら俺は間違っていたみたいだ。
火乃花はとっくに覚悟を決めているんだ。
大切な人達を守る為に強くなる事を。諦めない事を。
お母さんを亡くした悲しみを乗り越えて、前に進もうとしているんだ。
その想いを打ち明けてくれた火乃花に、何も話さないっていうのは……俺が火乃花を仲間だと思うなら、あってはならない選択肢だ。
「……分かった。話すよ。俺が、どうして魔法街に来たのか。そして、俺の目的も。」
暗闇で顔が見えないってのが救いだな。
思い出すだけで辛い。言葉にして語るのも辛い。
話す時の顔が火乃花から見えないからこそ…話せる気がする。
「俺は元々森林街に住んでいて……」
こうして俺は、森林街で起きた惨劇を火乃花に話したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます