4-39.ギルドクエスト開始!

 ルフト、遼とギルドでクエストを受注した後、俺達は対象の魔獣を討伐する為に西区へ来ていた。

 今いるのは西区最南端にある南区のギルドの転送魔法陣と繋がっている管理小屋だ。その中にある食堂で食事を食べていた。


「てゆーかさ、ルフト。ランクアップクエストを受けるって言ってくれたら、4人目を魔法学院から連れて来れたのに。」

「ん?あぁ…まぁね。そうなんだけどさ。」


 そう。ルフトが見つけたクエストというのが、Cランクに上がるためのランクアップクエストだったんだ。このクエストの受注条件がDランク以上のギルドメンバー4人以上のパーティってなってたんだよね。

 不思議なのは、受付に行ったら3人なのに何故か受注出来たって事だ。


「実はさ、既に別の人が1人で受注していて、一緒にクエストをやる人を募集してたんだよっ。だから、チャンスだと思って便乗したって訳。」


 …はい?つまり、俺達はこれからどこの誰とも知れぬ人とパーティを組むってのか?


「ルフト…流石に募集していた人が誰なのかは知ってるんだよね?」


 フライドチキンを片手に不安そうな表情の遼が聞くが…。


「いんや。全然知らないよっ?まっ、多分大丈夫だよっ。」


 出たっ!お気楽ルフト。まぁ確かによっぽどの偏屈野郎じゃない限り、ある程度の連携は取れうだろうから大丈夫かも知れないけど…。仮にもランクアップクエストだからねぇ。

 Cランク相当の魔獣が討伐対象な訳だし、ちょっと不安は残るぞ。


「まぁまぁ2人ともそんな顔しないのっ!もう待ち合わせの時間だから、そろそろくると思うよっ。」


 ニカッと笑うルフトを見て、俺と遼はがっくし頭を落とす。

 こりゃぁ駄目だ。ルフトの思考回路は…俺達を遥かに超越したスーパーポジティブみたいだ。こういう人にアレコレと言っても、効果ないんだよね。うん。知ってます。

 もう諦めモードに入った俺は、ミートソーススパゲッティを巻き取ったフォークを口に運ぼうとして、動きを止めた。

 何故止めたのかって?そりゃぁ、転送魔法陣がある部屋のドアが開いて見知った人物が出てきたからだ。

 いや、でもさ、流石にこの人が4人目のパーティーメンバーって事は…ないよな?


「え。何であなた達がココにいるのよ?」


 俺たちを見るなり動揺した顔で言ったのは、街立魔法学院1年生でトップクラスの実力を持つ…火乃花だ。


「ん?なんでって、俺たちこれからランクアップクエストを受けるんだよっ!いやぁ楽しみだもんね。強い魔獣と戦えるとか楽しみすぎるっ。」


 ルフトの言葉を聞いて、動きを止めた火乃花はニッコリ微笑む。


「成る程ね。実は私もランクアップクエストをやりにきたのよ。あなた達はどの魔獣が対象なのかしら?」

「ナイトメアウィザードだよっ。」

「え…!?」


 火乃花の動きが固まる。


「本気…?」


 マジか。火乃花が動きを止めるってヤバい気がする。ナイトメアウィザードって実は結構強いんじゃないか?


「あぁ、本気だけど…結構強いのか?」


 火乃花の首がギギギギ…と俺の方を向く。


「…いや、強いは強いんだけど…問題はそこじゃないのよ。」

「え、なに?」


 フライドチキンを持ったままの遼が首を傾げると、火乃花は一瞬だけ視線を彷徨わせる。

 そして…。


「……私もナイトメアウィザードが討伐対象なのよ。」

「えっ?」

「へっ?」

「はっ?」

「つまり、私が4人目のメンバー。…最初に受注して募集していたのよ。」


 なんとまぁ。つまり、火乃花を含めた俺達4人で討伐クエストに当たるって事か。

 火乃花は逸らしていた視線を戻すと、俺の隣に座る。


「急すぎるわよ。」


 と、ボソッと言った後に真面目な顔で俺たちを見回した。


「取り敢えず、作戦会議をしましょう。多分だけど、このメンバーは経験値がちょっと少ない気がするわ。」


 うん。だよな。俺と遼はそんなに討伐クエストを沢山やった訳でもないし、ルフトは基本的に勢いで戦うタイプだし。火乃花も火日人さんとの特訓が中心だったろうし。

 実力は置いておいて、経験値の視点で…下手したら全滅もあり得るからな。


 こうして俺達は、結構真面目にナイトメアウィザード討伐の為の作戦会議を行なったのだった。


 ふと思ったんだけど、急すぎるって何の事なんだろうな?


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 今回、火乃花が1人でナイトメアウィザード討伐のランクアップクエストを受注していたのかというと、父親の火日人さんに「見知らぬ人と突然協力することもある。その練習も兼ねて。」と言われたらしい。

 流石は警察庁執行部の長官。スパルタだ。

 火乃花としては知らない人とパーティを組むのは面倒くさいって思ってたらしいんだけど、結果的には同じ街立魔法学院1年生の俺達がパーティになったので結果オーライだな。

 てか、前に「一緒にギルドクエストをやろう」みたいな事を火乃花に言われてた気もするし、俺としても結果オーライな気が…する。


 まぁまぁそんな余談は置いといて、作戦会議を終えた俺達は西区を進んでいた。

 目指す場所は円心状に構築された西区のCランクに相当する荒野だ。1番外側の森がEDランクだから、難易度的には一歩だけ上級者向けって感じかな。

 出てくる魔獣も荒野に因んだ魔獣が多いらしい。…あ、荒野に因んだ魔獣ってなんだよって思っただろ?

 それはアレだ。俺も勉強不足でいまいちよく分からない。

 狼とかハイエナみたいな感じの魔獣はいそうだけどな。後は…なんだろ。ん〜荒野のガンマン。みたいな魔獣とか?いるわけないか。


 んでもって、今回の討伐対象の魔獣ナイトメアウィザードについてだ。

 つねにいる魔獣ではなくて、一定周期で出現するんだとか。

 魔獣のランクはCランク。

 えぇっとCランクは…「下位ランクの魔獣を統率する上位個体。4人以上のパーティ、且つ戦闘技術を学んだ者でないと危険。」ってのがギルドの公式見解だったかな。

 俺達がこの基準に当てはまっているのかは…、まぁ微妙な気がするけど、今更不適格とか考えてもしょうがないし。どうやって倒すのか。が重要だよね。


「さぁてとっ!火乃花、どうやってナイトメアウィザードを見つけよっか?」


 ウキウキルンルンのルフトが腕をグルグル回す。やる気しか感じられない。これくらいのやる気を常に持ってたら、もっと強くなれるのかな?


「ん〜ナイトメアウィザードって、基本的には閉鎖空間にいるらしいの。…この荒野のどこに閉鎖空間があるのか。って事よね。」


 なるほどね。閉鎖空間にいるってのなら探しやすい。要は屋内にいるって事だ。

 つまり、単純に言えば見える建物を手当たり次第に探していけば…いつかは見つかるって訳だ。

 そうなんだけど…。


「火乃花…閉鎖空間って言うけど、なぁんにもないよね。」


 冷静な遼が腕を組んで現実を突きつける。冷静だけど表情は眉根を寄せる困り顔だ。


「そうよね…。どうしようかしら。ここまで何もないなんて思わなかったわ。」


 だよね…。

 目の前に広がる荒野は…まじで何もない。あるのは延々と続く岩場だ。その周辺を囲うようにDEランク魔獣が住まう森が広がっていて、荒野の内側にはBランク魔獣が住まう湖が広がり、その先には薄っすらと建物が見える。Aランク魔獣がいる廃都市だったっけな?

 他ランクの地域は置いといて、この荒野のどこに閉鎖空間があるのか。ってのが目下最大の問題だ。

 既に絶望的な感覚がするのは気のせい…ではないはず。だってさ、本当に何も無いんだから。


「まぁ大丈夫っ!まずは歩いてみよう。」


 ルフトだけは何故か前向きだった。そんなにナイトメアウィザードと戦うのが楽しみなのかね?

 ま、でも前向きな人がいると、悩む時間が少なくて良いか。行動しなきゃ何も始まらないのは本当だし。


「そうだな。…変な魔獣も出てきてるし。倒しながら散策?するか。」


 俺の言葉通り、岩場の陰から平べったい影の魔獣が出てきた。形はツノが生えた人に羽が生えた感じ。なんつーか、地球の某有名ゲームに出て来そうな姿形だ。

 既視感覚えるよなー。


「アレは…シャドウね。Eランクモンスターよ。そんなに強い魔法は使ってこないはずだから、油断しないで倒しながら進みましょう。」

「オッケー。」

「うん。」

「ははっ!片っ端から倒していくよ!」


 どれが誰の返事なのかは…ご想像にお任せします。っと。

 つーか、あの魔獣はシャドウって言うのね。こーゆー辺りも地球とやけに似通ってるんだよなー。いっその事事全然違う名前だったらよいのに。

 ちょいちょい色んな場面で地球を思い出すのは…精神衛生上、良くは無いよな。


 さぁて、頑張ってクエストクリア目指しますか。

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