4-38.学院生活
アウェイクの事件から数日、俺達は通常の学院生活に戻っていた。
まぁそうは言っても、事件翌日とかは警察が事情聴取に街立魔法学院に押し寄せたり。それを追っ払おうとしたラルフ先生と火日人さんが修練場で過激なバトルを繰り広げたり。…と、かなりバタバタしていたんだけどね。
因みに、事件の顛末については「魔力補充石に似せたアウェイクという中毒性のある魔導具を流通させた組織を、警察庁執行部の霧崎火日人長官が壊滅させた。」という、如何にも当たり障りのない内容で報道されていた。
ただ、俺達街立魔法学院の学院生が数名、現場に居合わせたという噂は広まっているらしく、それを聞きつけた警察が押し寄せた訳だ。
そういえば遼は「俺、出番なかったんだけど。」と落ち込んでいた。
あ〜…ルフトは「なんで!?なんで俺が知らない所で事件が終わってるわけ!?強敵は!?俺のワクワクはどうなるのさ!!」と騒いでたっけ。うん、ルフトは完全にバトルジャンキーだね。あれだけ爽やかキャラなんだから、もう少し飄々としていれば良いのに。とか思っちゃうよね。
今回の事件で変わった事といえば…俺の龍人化【破龍】か。
特筆すべき事は全然無いんだけど、強いて言うなら力の制御が難しいって事かな。魔法陣の同時展開制限が無くなるし、展開範囲も視認範囲ならどこでもいけそうな雰囲気だし…正直言ってかなり強い。
ただ、力の加減がしにくいんだよね。気軽に使うのは危険って訳だ。
後は、龍人化【破龍】をする事で魔法陣関連の能力が大幅向上する以外にも、使えるようになった力が…。
「龍人君。今日もお昼ご飯一緒に食べない?遼君も一緒にいこ?治癒魔法の使い方で相談したい事もあるんだ。」
おっと。クレアだ。
因みに、今は午前の授業が終わって昼休憩に入った所だ。
午後は修練場で魔法基礎能力向上の訓練を行うらしい。
「龍人君。お昼ご飯の後に、魔法の威力を高める特訓方法試してみない?お父様に教えてもらったのよ。」
おっと。火乃花だ。
火乃花はこの前の事件で火日人さんと仲直りしたらしくて、休みの日には色々と特訓してもらっているらしい。
んで、その特訓で教えてくれた内容を「ちゃんと私が理解しているのかの復習よ」と言って俺に教えてくれるんだよね。
この申し出は普通に嬉しい。我流で特訓するより、強い人に教えてもらった方が成長速度は早いからな。
ただ、問題が…。
「あ、火乃花さん今日も龍人君と練習するの?じゃぁ私も見せてもらおうかな。魔法の威力を高めれば、私も治癒魔法の効果を高められるかも知れないし。」
「いいわよ。クレアは今日も龍人君とお昼ご飯?じゃぁ私も一緒に食べようかしら。」
「うん!じゃぁ皆でご飯食べようね。」
ほのぼのとした日常の会話。
…のはずなんだけど、何故か火乃花とクレアの目が笑ってないんだよな。この2人、実は喧嘩してんのかね?
その割には毎日俺と昼ごはん食べて、授業前に魔法の訓練してって一緒にいるんだけど。
この微妙に楽しみきれない感じ…微妙に居心地悪いんだよなぁ。
1番の問題はこれではなく、周りの視線だ。
「龍人、ほんとこのさり気なく毎日ハーレム状態…俺嫌なんだけど。」
ジト目で言ってくるのは遼だ。俺と遼は基本的にペアで良く動いているから、巻き添えを食らってんだよね。
で、遼の言う通り、1年生の綺麗代表である火乃花、可愛い代表のクレアが毎日俺の周りにいて…男連中からの「リア充くたばれ」視線が心に痛いのですよ!
「あら?火乃花さんとクレアさん、今日も龍人君とご飯ですの?私もご一緒して良いですか?」
うわぁ…今日はルーチェ参加パターンね。
毎日ではないんだけど、1週間に数回はルーチェも参加するんだよね。
いつもホクホクとご飯を食べながら微笑んで眺めてるだけなんだけど。
可憐な乙女代表のルーチェが加わった時の周囲の視線はもう…ご想像にお任せする。
まぁ…周囲の視線を気にしなければ、強くなるって視点では充実した日々を送れてるんだけどね。
…と言う訳で、俺達は修練場の端っこに移動することになった。
ご飯食べた後に、すぐ火乃花との練習が出来るからね。最近はいつもこの場所で昼ごはんですよ。
つまり!!学食で食べれないのです。最近は毎朝、学食でお弁当を買ってます。ま、お弁当も美味しいんだけど。
お弁当を食べながらクレアの治癒魔法の魔法回路の使い方について相談を受けていると、ルーチェが何かを思い出したかのように人差し指をピンと立てる。
「そう言えば、皆さんは折り紙好きですか?」
「折り紙?なんでまた。」
「小さい時に折り紙が好きだったな〜と思い出しましたの。…そう言えば、知らないお兄さんにウサギさんの折り紙を貰ったこともありますの。」
「知らないお兄さんってのがまた…ルーチェらしいな。」
「そうですの?」
「だと思うよ。で、折り紙が好きか。だっけ。ん〜俺は小さい頃は折ったりしてたと思うけど、特別好きかって言われると微妙だな。」
「そうですか。なんかちょっとだけ残念ですの。」
首をちょこんと傾げたルーチェは折り紙好きがいないか探し始める。
「ごめん。俺も龍人と同じ感じ。」
遼は肩を竦める。
「私は…小さい時は良く折り紙してたよ。今は折らないけど、頑張って折って完成した時って嬉しいよね。」
「そうですのっ。クレアさんは折り紙の趣をしってますの。
俺とほぼ同じ内容の回答なのに、相手を気遣った台詞を最後に入れるとは…流石はクレアだな。ルーチェの嬉しそうな顔を見ると…気が利かなくてすいませんって気持ちになるわ。うん。これからは相手の事を気遣った発言を心がけよう。
「折り紙って結構やってるものなのね。私、やった事ないわ。」
おっと、ここで衝撃発言!?
「火乃花さん。それは…本当ですの?」
「えぇ。小さい頃から戦いに関わる事は教えてもらったけど、そういうのは全然教えてもらわなかったから。」
火乃花は「当たり前」みたいな顔で言ってるけど…なんか凄く可哀想に思えちゃうのは俺だけ?
「不憫ですの…!!火乃花さん。折り紙は人生に於いて重要な通過儀礼ですの!」
どうやらルーチェも同じ感想を抱いたらしい。…んだけど、ちょっと大袈裟じゃないか?
「ルーチェ…流石にそれは無いんじゃないかしら?」
「いいえ。私は至って真面目ですの。折り紙は物を組み立てる力を幼少期より培うのに最適な遊びですの。その組み立てる力は、魔法に於いても同じ原理が通用しますの。そしてその先にある、可愛いウサギさんや小鳥さんやお花を作った時の、小さな小さな達成感という喜びは、努力する事で…」
おぉ。ルーチェのスイッチが入ったな…。火乃花よ、頑張ってくれ。
さり気なくルーチェと火乃花から視線を逸らすと、クレアに向き直る。…が、何故かクレアと遼はプルプルと首を横に振っている。なにそれ?
ガシッ
「…え?」
ギチギチと振り向くと、額に怒りマークを浮かべた笑顔のルーチェが俺の肩を掴んでいた。
「龍人君。人が話している時は、ちゃんとお話を聞くのが礼儀ですの。」
痛い…痛いってば!!ルーチェさん!?
「先ずは、人の話をちゃんと聞く事の大切さから教えてあげますの。龍人君。そこに正座しなさい。」
「う…。…………はい。」
駄目だ。この迫力、逆らったらどうなるか分からない。
それからのお昼ご飯は、ルーチェによる説教?授業?で時間一杯使う事になったのだった。
…お嬢様って怖いね。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
午後の授業は…まぁ普通だった。普通っていうか、いつも通り鬼畜というか。
…あの鬼畜メニューを普通って考えるのってヤバいな。慣れって怖い。
授業の後は、火乃花にもクレアにも捕まらないんだよね。
火乃花は火日人さんと特訓で、クレアは…何やってるんだろ?特に聞いてないから分からん。
んでもって俺は、ギルドでクエストだ。
最近はお手伝い系のクエストで小遣い稼ぎをしてた。やっぱりこの前のロジェスの事件があってから、少し平穏な毎日を過ごしたい気分だったからね。
「遼、今日は討伐系のクエストやるか?」
「え、討伐?」
「もちろん。あれ?気乗りしない感じ?」
「いや、全然やる気満々だよ。最近1人でお手伝い系クエストやってたから、戦いたくないのかなって思ってたから。」
「はは。その通り。でも、このままのんびりしてたら、また天地の奴らが何か仕掛けてきた時に苦い思いをしそうだからな。それに、龍人化【破龍】を実践でちゃんと使えるようになりたいしな。」
「本気だね。オッケー。じゃぁ行こっか。」
「おうよ。」
こうして俺と遼はギルドに向かう事にした。
「…ん?アレってルフトだよな?」
「うん。何やってるんだろ。」
街立魔法学院の正門に向かって歩いていると、丁度正門に寄りかかって空を眺めているルフトがいた。誰か待ち人かな?
と思ったら…。
「あっ!龍人みっけ〜!!」
何故か俺達の方に向けて満面の笑みで駆け寄ってきた。
「…なんだよ。」
「なぁにを怪訝な顔をしてるのさっ!」
「いや、だってルフトがそんな満面の笑みで寄ってくる時って、大体が戦闘関連じゃん?」
「うんうん。」
俺と遼の同調を見たルフトは目を丸くし、さらにニカッと笑う。
「流石だねっ!その通り!!俺っちとギルドクエストやろうっ。ちょっと楽しそうなクエスト見つけたんだよね。んでね、Dランク以上が3人以上って条件なんだ。やるなら知ってる人とパーティ組んだ方が良いっしょ?で、1年生で強い人で誘いやすくて一緒に戦っててワクワクしそうな人をかんがえたら龍人と遼だったんだよねっ。」
「いやいや、何故に俺と遼だし。」
「だってさ、龍人は最近新しい力身につけてるし、遼も最近属性魔法を使えるようになったって噂を聞いたよ!」
…なに!?
「おい遼。聞いてないぞ!」
「…げ。」
げ。じゃないだろ。げ。じゃ。
「えぇ〜遼君や。何で親友の俺に隠すかねぇ?」
「そうだそうだっ!皆で共有して研鑽を積むのが良いと思うぜっ!」
俺とルフトが遼を責め立てる。
「だってさ…もう少しちゃんと使えるようになってからの方が良いかなって思ってさ。」
「おいおい。かっこつけるなって。」
「そうだそうだっ!皆で一緒に強くなるのが1番じゃないっ!強くなる為にドキドキな戦いをするべきだと思うよっ。」
…ルフトは完全に強い人と戦いたいだけじゃん。
「はぁ。ま、ずっと隠してるつもりでもなかったから良いんだけどね。じゃぁ、クエストの時に見せるよ。それまでは…お楽しみで!」
「はぁっ!?勿体ぶるなよ!」
「やだね!」
何故か頑なに拒否する遼は、楽しそうに笑いながら走り出す。
うわぁ。知りたくても知れない俺たちのもどかしさを見て楽しむつもりだアイツ。案外Sっ気あるのね。
トントン。とルフトが俺の肩を叩いてくる。
振り向くと、確信犯的な笑顔を浮かべていた。
「ねっ?楽しそうでしょ?新しい力を身につけた2人と、もっと強くなりたい俺っちの3人が、厄介な魔獣討伐に出かける編の開始だよっ。」
今、厄介な魔獣って言ったよな?
…また面倒な事に巻き込まれるんじゃないか?はぁぁ…。
まぁ、やりますか。
という訳で次回。
元気な男3人の厄介な魔獣討伐クエスト。
乞うご期待!!
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