4-37.ロジェスの最後
自爆行為を命じられたロジェスが、爆発の間際に俺へ向けて言った言葉。
「オラ、頼ってもらって…嬉しかった。」
その短い言葉の中にどれだけの意味が込められていたのか…俺には想像する事も出来ない。
ロジェスがどんな人生を送ってきたのか、それすら知らない俺が理解するのは難しいんだと思う。
それでも…ロジェスが「人並みに不遇な人生」と自分で理解している人生だったのは想像に難くない。だってさ、頼ってもらって嬉しかったって…普通に人と関わる人生を送ってたら出てこないセリフだろ?
「マズい…皆、全力で魔法壁を張るんだ!!」
ラルフ先生が焦った表情で叫ぶ。
ロジェスの黒い魔力の質がどんどん上がっていく。周囲の光を飲み込む勢いで膨張し、黒く光る。そして、ギュンっとロジェスの体の中に入って消えたかと思うと…音が消し飛んだ。次に視界が黒に染まり、体の平衡感覚が無くなる。
これ…爆発で吹き飛ばされてるのか。体が千切れそうなんですが…!
「う…。」
気付けば、俺達はぐちゃぐちゃに破壊された部屋の中に横たわっていた。
「こりゃぁ…やられたな。」
少し離れた所で胡座をかいて座るラルフ先生がため息をつく。その視線の先には、原型がわからないレベルで破壊された部屋の壁があった。
「ラルフ先生…何がやられたんですか?」
「お、龍人か。いや、ロジェスが使った自爆の魔法なんだけどよ。凄い威力だろ?」
「はい。魔法戦闘で全然壊れなかった部屋がここまで破壊されるのは、相当な威力ですよね。」
「あぁ。んで、その破壊のされ方がな…。」
どういう事だ?破壊のされ方…。
…!?
もしかして。
「ラルフ先生これって…。」
「そうだ。俺達はロジェスに助けられちまったみたいだな。」
「そんな…ロジェス………。くそ!!」
拳を床に叩きつける。
…ロジェスが放った自爆のエネルギーは、サタナスがいたであろう方向に向けて放たれていた。対して俺たちがいた方は、爆発の余波で破壊はされているけど、サタナス側と比べたらほとんど破壊されていないといっても良い。
ロジェスに助けられたという事実が、俺の心を締め付ける。
「また…助けられなかった。」
同じ事の繰り返しだ。森林街で沢山の人達が殺された時に、2度と同じ事を繰り返させないって決めたのに。結局、また人が死んでしまった。
俺は強くなろうって決めたのに…。強くなれたのか?自己満足だったん…
「龍人君。自分を責めないで。」
クレアだった。俺の横に座り、背中に手を添えて目に涙を浮かべていた。
「…俺は、」
「何も言わなくて大丈夫だよ。龍人君は、私達も皆が頑張ったと思うよ。だからプラムさんを助けられたんだと思うな。」
…そうだ。プラム団長は…周囲を確認すると、ルーチェがプラム団長を膝の上に乗せてくれていた。
「だからね、龍人君。自分を責めないで。龍人君がいなかったら、強くなってなかったらプラムさんだって助けられなかったんじゃないかな。」
クレアは優しいな。確かに、俺が龍人化【破龍】を使わなかったらプラム団長を助ける事は出来なかったかもしれない。
でも、それっていうのは、結局の所気休めにしかならないんだ。
俺jは1人も犠牲者を出したくないんだ。傲慢なのかもしれない。夢物語なのかもしれない。もちろん、この星に住むすべての人を守るなんて、神にでもならない限り不可能だ。
ただ、俺の手が届く範囲にいる人だけは守りたいんだよ。
…守りたいっていう考えも烏滸がましいのかな。
ガラ
ん?今、瓦礫が動いたぞ。
「くく……クハハハハ!!!素晴ら…しい!素晴らしいぞ!ここまでの魔力出力を可能とするとは。魔造人獣の可能性は間違っていなかった!!」
瓦礫の中から出て来たのは、ボロボロの白衣を纏うサタナスだった。ヨロヨロと立ち上がる姿からは、相当なダメージを負っている事が伺える。
けど、死んではいないんだ。
あの爆発を食らって生きてるとか…なんなんだよ。
「最後の最後で僕を裏切るとは思わなかったがね。まぁ…実験体にしては、そこそこに頑張ったか。さて、僕は次の実験を行う必要があるからね。これで失礼するよ。」
次の実験?人の命をマジでなんとも思ってないな。こいつをここで野放しにしたら…また多数の犠牲が出ちまう。
…逃すかよ!
「龍人化【破龍】」
「待ちやがれクソ科学者。」
俺がサタナスへ攻撃を仕掛けるのと同時に、ラルフ先生が転移してサタナスの後方に移動していた。
よし。これで挟み撃ちだ。
「ふむ。中々のコンビネーション。だが、僕が相手でなければ…だが。」
突如、サタナスの足下からゼリー状の触手が飛び出てくる。
それらは俺とラルフ先生の体に巻きつき…なんだ、魔力が…吸われている?
急激な魔力減少に攻撃が遅れた隙を突いて、サタナスが触手の上を滑るように俺達から距離を取る。
「今回は良い結果を得る事が出来た。次の実験でも、是非ご協力を願うよ。」
「はぁ?ふざけんなよ。てめぇみたいなイカれ科学者の相手なんかするかよ。」
「はは!協力をするか否かは、全て僕の選択だよ。」
ラルフ先生が次元刃をサタナスに飛ばすが、ゼリー状の触手に体を包み込まれたサタナスは、そのまま転移でもしたかのように姿を消してしまった。
「あの糞科学者…次会った時はぶっ殺してやる。」
うわぁ…ラルフ先生ガチギレじゃないっすか。
ここまでキレてる人が隣にいると、逆に冷静になっちゃうよ。
それにしても…。
「終わった…んですよね。」
「あぁ。アウェイク製作者はサタナス、蔓延させたのはロジェス。そのロジェスはサタナスに心の隙を利用された元街立魔法学院学院生。こりゃぁ…荒れるな。」
ラルフ先生は面倒くさそうにゴロリと寝転がってしまう。
確かに今回のアウェイク騒動の原因は突き詰めていくと、街立魔法学院に起因するかもな。
これからあるであろう事件後の対応を想像すると…よく分からないけど大変そうだ。
俺はフラフラする足を懸命に動かして、仲間の所へ歩む。
プラム団長を診てくれているルーチェ、ペタンと座りこんだクレア、…瓦礫に頭を突っ込んで腰から下だけ見えている火乃花。…えぇ?火乃花さん、そんなキャラだっけか?
取り敢えず助けるか?
「おし!皆、お疲れ!今回は中々に後味が悪い結末だったが、魔法街の平和に繋がる事は間違いない。執行部長官として礼を言う。」
皆の視線を受けながら軽い一礼を披露した火日人さんは、顔を上げると微笑みを消して真剣なそれに変えた。
「ただし、今回の顛末に関しては口外を禁じさせてもらう。魔法街の上層部への報告は必要になるだろうが、詳細を話す事は誰の為にもならない。それに…サタナス、あいつが所属する天地については、魔法街では認知が低い。今このタイミングで天地について伝える事はリスクが高い。下手をすれば天地へ協力する者が続出するかもしれない。」
天地に協力する者…。そうか。魔法街の体制自体に不満があるのだとしたら、そこが天地に付け入られる隙になっちゃうのか。
「火日人の言う通りだな。街立魔法学院教師としても、緘口令には賛成だ。何よりも…俺はこれ以上ロジェスを死んだ後にまで苦しめたくない。」
ラルフ先生の言葉に全員の表情が翳る。
「まぁそういう事だから、全員火日人に協力してやれ。」
「サンキューラルフ。じゃ、解散にするか。俺は警察の対応すっから残るわ。この規模の爆発だ。警察がそろそろ状況確認に乗り込んで来ると思うんだよな。あ、警察に遭遇すると事情聴取で半日以上拘束されるぞ。さっさと行った方がいいぜ。」
「そりゃぁいただけねぇな。おし、街立魔法学院の奴らは俺の近くに来い。転移魔法で逃げるぞ!」
何故か逃げるという話になった途端に楽しそうにするラルフ先生。うん。突っ込まないぞ。
「よ〜し!逃げるぞ!」
不謹慎なラルフ先生の号令で、俺達は街立魔法学院へ転移されたのだった。
こうして、アウェイクを発端とした事件は収束を迎えたのだった。
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