4-35.ロジェスとの決着
ラルフ先生の言葉に耳を疑う。
「ラルフ先生…今、殺すって言ったんですか?」
「あぁ。」
何を言ってるんだこの人は。人の命をそう簡単に諦めて良い訳が無い。躊躇いなく「殺す」だなんて、イカれてるとしか思えない。
「龍人、アイツはロジェスなんだよな?」
「…?そうですけど。」
「はぁ…。そうか。アイツが今こうなってるのは、俺達教師のせいだ。責任取って俺が引導を渡す。」
「ロジェスの事知ってるんですか?」
「…街立魔法学院の学院生だったんだよ。アイツを守れなかったのは…事実だ。」
…そんな。って事は、ロジェスが「強くなりたかった」「否定された」「夢を奪われた」みたいに言ってたのは、街立魔法学院で何かがあったのか。
そして、ラルフ先生はその事実を知っているみたいだ。
「何があったんですか?」
「まぁ…簡単に言うと、ロジェスは魔法の才能はあったんだが、優しすぎた。結果として戦闘が大の苦手でな。魔力操作とかはかなり優秀だったんだけどな。属性【水】と高い魔力操作能力が合わさった変幻自在な水魔法は、学年でトップクラスだった。」
「そんな優秀な人がどうして…。」
「虐められたんだよ。ロジェスの才能を妬み、先頭のの才能の無さを見下した同級生に。俺達教師陣は、その虐めを乗り越える事で、ロジェスの闘争心が養われるかも…って当初は静観してたんだけどよ、気付いた時には深刻な虐めになってた。虐めた奴らを退学処分にしたが、自分の魔法に自信持てなくなったロジェスは自分で魔法学院を去る決断をしたんだ。」
そんな事が……。でも、だったら…!
「だからこそ助けてやりたい。そう思ってるんだろ?」
「…そりゃあ、そうです。だから殺すだなんて…」
「俺だって同じ気持ちだ。けどよ、あそこまで姿が変わっちまったアイツが元の姿に戻れると思うか?」
「それは…。」
「あの姿は、何かの影響で体の構造自体が作り替えられちまってる。今ここで正気に戻ったとして、あの姿のアイツが………魔法街で生きていけるとは思えねぇ。」
「でも、諦めるなんて俺には出来ません!ラルフ先生、贖罪の気持ちがあるんなら…何か方法を……ぐっ!?」
ラルフ先生に首元を掴んで持ち上げられる。
至近距離で俺の顔を見るラルフ先生の顔は、憤怒の表情…なんかしていなかった。
「あ……。」
「頼む。俺に任せてくれ。」
……俺には、ラルフ先生を止める資格が無い。
この顔は悩み続け、悩み続け、苦渋の決断をした人のソレだ。
あんなに哀しそうな顔をするなんて…。ラルフ先生の頬を流れるひと筋の雫が、それを否応なく証明していた。
「ラルフ先生…よろしくお願いします。でも、最後まで諦めないで欲しいです。」
「あぁ。約束する。」
ラルフ先生は静かに進んでいく。その存在に気付いた火乃花と火日人さんが、ロジェスの魔力球を防ぎながら後退してラルフ先生と言葉を交わす。
そして、静かに頷くと…ラルフ先生を残して俺たちの所へ下がってくる。
「火乃花…ラルフ先生はなんて?」
「……俺に任せてくれって。」
「アイツのあんな顔、久々に見たぜ。」
火乃花も火日人さんも、少し辛そうな顔をしていた。きっとラルフ先生の表情から並々ならぬ想いがある事を察したんだろう。
普段から適当発言とセクハラしかしないラルフ先生だからな。真面目な時のギャップはデカい。
「ククククク…!なんという展開だ!まさか、あのラルフ=ローゼスとの戦闘データを取れるとは!消滅の悪魔の力…これは良い検証材料となる!」
くそっ。サタナスの野郎、今の状況を楽しんでやがる。自分が攻撃を受けないからって、無防備に戦いを観察しやがって…!
……待てよ。
サタナスへの攻撃って本当に何も効果無いのか?あそこにいるサタナスが幻だとして、本体は何処だ。
少し探ってみるか。この中で適任なのは…。よし。
俺がこそこそと打ち合わせをしている間に、ラルフ先生とロジェスの戦いが始まろうとしていた。
ラルフ先生は、静かに、噛み締めるように話しかける。
「ロジェス。お前の憎しみは…理解しているつもりだ。けどな、そうだとしても手を貸してはいけない連中ってのがいんだよ。知らなかったとしても……だ。」
「オラは許さない。全てを、オラを虐げた者たちを!!教師のお前も!!」
ロジェスの周りにこれまで以上の魔力球が出現する。しかも、表面が波打ってるな…。凄い嫌な予感がするのですが。
「死ねぇぇぇえ!!」
うわっ。マジか。魔力球が分裂しやがった。1つ1つか小さい矢みたいになってんぞ。
アレに襲われたらたまったもんじゃ無いだろ。
「人としての姿を失って手に入れたのが、この程度の力じゃぁ…浮かばれねぇな。」
ラルフ先生は、どことなく哀しそうな雰囲気で右手を魔力矢群に向ける。
そして向かい来る凶器を…吸い込んだ。
「悪いが、この程度じゃぁ俺には勝てない。人の道を踏み外した事を後悔するんだな。」
直後、ロジェスを中心に連鎖的な爆発が引き起こされる。
「ぐぁぁぁああああ…!?」
全身から煙を上げて膝を突くロジェスを見て、横にいる火日人さんが苦笑いを浮かべた。
「ラルフの野郎…相変わらず反則的な強さだな。」
「前から疑問だったんですけど、ラルフ先生の使う属性って…。」
「アイツ、そんなんも言ってないのか。ラルフが使うのは属性【次元】だ。反則としか言いようのない属性だよ。」
「次元…。」
凄い属性魔法が出てきたな。ゲームだったら最強キャラが覚えるレベルの属性魔法な気がする。
「にしてもラルフの野郎…ロジェスをどうするつもりなんだか。」
「え…さっき殺すって…。」
「それはそうなんだけどよ、あのラルフが簡単に人の命を奪う選択をするとも思えないんだよ。」
どこか難しそうな顔をする火日人さん。
火乃花もその言葉に頷いていた。
「私もそう思うわ。魔法街戦争の時、犠牲になった人達の為に大暴れしたって聞いた事あるし。」
「はは…。」
自分も同じような経緯で暴れた事があるからか、罰が悪そうに笑う火日人さんを見た火乃花は「しまった」みたいな表情を一瞬浮かべ、すぐに視線をラルフへ移した。…誤魔化そうとしてるな。
「ラルフ先生はどうするつもりなのかしら?」
「まぁ…さっきの応酬でラルフの勝ちは決まったようなもんだ。後はアイツがどうするつもりなのか。…それ次第だな。」
火日人さんの言葉を聞いた全員の視線がラルフ先生に集中する。
皆の視線集めている事を知ってか、知らずしてか…ラルフ先生はそっと片手をロジェスに翳す。
「ロジェス、悪かったな。今…助けてやるよ。」
え…これってトドメを刺すつもりなんじゃ。
と思ったら、ロジェスの体を光が包み込んだ。
その様子を遠目で見ていたサタナスが低い笑い声を漏らす。
「ククククク……。その次元魔法で僕の研究結果の解除を目論むとは。叡智の結晶である僕の研究結果に手を出すなど…傲慢も烏滸がましい。」
笑ってるんだけど…顔が怖いんですが。絶対怒ってんだろ。
それに、サタナスは戦力だった筈のロジェスとプラム団長が無力化された今の状況になっても、余裕を崩さない。何かある気がする。
「グァァギャアグガ!?」
ロジェスの体がビクン!と跳ねる。
「これか……。テメェ、なんて事をしやがったんだ。」
「クク。良いアイディアだろう?親和性が重要なファクターとなるが、適性の高い者がいれば、彼以上の結果を残す事は間違いない。」
ラルフ先生に睨み付けられたサタナスは愉快そうに肩を揺らす。…どういう事だ。何かわかったのか?
「…心臓に魔瘴石を埋め込む事の何が良いアイディアだ!」
真剣な顔でロジェスへ使う属性魔法を制御しながら
ラルフ先生が怒鳴る。
魔瘴石…なんだそれ。名前的には良い雰囲気は無いよね。
「ハハハ!そうか。ラルフ…君はアウェイクが魔瘴石だと気付いていたか。だが、分かっていない。ロジェス…彼は幾多の実験結果の上に成り立つ魔造人獣だ。お前に今ここで奪われる事は避けなければならない。故に、逃げの一択だ。」
サタナスの姿が…消えた。
「ちっ。」
いつの間にか、ロジェスの姿も消えていた。舌打ちをしたラルフ先生は俺達を見て叫ぶ。
「おい!ここでサタナスを逃すのはマズい!周囲を探知魔法で探るんだ!
周りの皆が探知魔法を発動しようと動き出す。
その中で、俺は落ち着いてラルフ先生に返事をするわ
「ラルフ先生、大丈夫です。」
自信満々に言い切っちまったけど…大丈夫だよな?
なんか周りから「何が大丈夫なんだよ。」的な視線を感じますけどね!
ラルフ先生は眉根を寄せて、首を少し傾げて俺を睨み付けてくる。先生、それ、イチャモンつけるヤクザと同じですから!
「どう言う事だ?」
「ルーチェが見つけてます。多分。」
「見つけるったってよ…」
ドォォォォン!!!
爆発が起きて部屋の壁が壊れる。
「ふぅ。頑張りましたの。久々に複数の属性魔法をフル活用しましたの。」
壊れた壁の近くでは、汗を拭う仕草のルーチェが立っていた。
実はちょっと前にサタナスの居所を見つけられないかルーチェに頼んでたんだよね。結果はご覧の通り。
「この僕の隠れ場所を見つけるとは…恐れ入った。」
サタナスとロジェスが壊れた壁の向こう側に佇んでいた。
背後にあったであろう逃亡用の通路も壊れて塞がれてるし。ルーチェさん流石ですな。これで袋の鼠って訳だ。
「こうなったら…。最後の手段を取るしか無いか。ロジェス。」
「分かった。おら、地下施設ごと爆発する。」
追い詰められたサタナスが選んだのは…ロジェスの自爆だった。
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