1-7.変遷
なんだろう。体がゆらゆらと浮いてる気がする。
水の中に居るというか…無重力的な感じ?宇宙ってこんな感じなのかな?…なんてね。ちょっとした冗談っぽい事を考える余裕はある。
ってゆーのも、イマイチ記憶が曖昧というか…俺自身、自分がこんなゆらゆらした状態にどうしてなっているのかも、全く分からないんだ。
うん。改めて今の自分の状況を鑑みると…少し不安になってきたぞ。
もしかして、俺…何かの事故に巻き込まれて死んだりしたのか?
ラノベの冒頭で良く出てくるシーンってこんな感じだった気がする。
もし、もしだよ?本当に異世界転生的な状況に巻き込まれてるのだとすると、ここから神様的な存在が現れて、何かしらの理由を付けて俺に特殊な力を授けてくれるに違いない。
………。
いや、現実逃避をしていてもしょうがないか。
さてと…真面目に考えてみよう。
俺は何をしてたんだっけ?
確か…駄目だ。やっぱり思い出せない。
おかしいな。何か大切なというか…大事なというか…そんな事に挑戦していた気がするんだけど。
思い出すのを何かに妨害されてるみたいに、記憶に霞がかかってるんだよな。辿り着きたいのに、辿り着けない…もどかしい感じだ。
てゆーか、ここは何処だ?
真っ暗で何も見えないし、何も聞こえないし。
もしかして…夢?
いや、夢にしてはなんてゆーか現実っぽい感覚が抜け切らないんだよな。
…ドッキリ?
いやいや、こんな超不思議体験的なドッキリがある訳ないか。
ってなるとだ、考えられるのは1つ。
俺の想像力を超えた何か。って事だな。
…もうね、正直に言うよ?
何がどうなってるんだかサッパリ分からないんだよね。こうなったら考えても分からない事を考えるのはやめよう。
こーゆー時こそ、焦って闇雲に行動しちゃダメだ。冷静に冷静に…。
今わかる事を1つずつ整理していけば、何か糸口が掴めるかもしれない。
………分かる事が無いな。
俺、何で1人でボケとツッコミみたいな事してんだろ…。
うん。困った。なんつーか、体も動かないし。
こんな感じでゆらゆらと浮きながら考えを巡らせなが途方に暮れていると、急に視界の奥から光が現れた。
その光は少しずつ大きくなっていって……形を成していく。
でだ。ここからが驚きの展開だ。なんと、目の前に龍が現れた!
…いやいや。龍とか意味分かんないし!
マジでヤバイ。もう現実だとかそーゆーのはどうでも良いでしょ。食われる。殺される!ヘルプミー!!!
「私を見てその反応と言う事は…汝も変遷の影響を既に受けているのか。」
龍は俺を見ながら口を開いた。
それにしても…食べるって言うより、話をするってスタンスに見えるのは気のせい?油断させておいて食べちまうぜ!的なやつ?
いや、そもそも俺は体を動かせないから、油断させるも何も無いか。
…でも、一瞬で絶望に叩き落とされた人間の肉が美味いなんてゆー悪趣味なパターンも。
俺の目の前に浮かぶ龍は俺を見ながら首を傾げる。
「…何故話さない?……そうか。変遷によって体の自由すら奪われたか。ならば、先ずはそれをどうにかしよう。」
何を言ってるんだ?てか、変遷って何だし。
俺の疑問が解消される間もなく、龍が両手の前に魔法陣を出現させた。
「先ずは一時的とはいえ、この束縛から解放しよう。」
魔法陣が光り輝き、柔らかな光が俺に向かって放たれる。
これ、ヤバくないか?光に当たった瞬間に大爆発とか…無いよね?
そんな俺の心配を他所に、光は俺に触れ、俺を包み……。
「あら?……聖龍…だよな?」
……なにがどーなってんだ?
気付いたら真っ暗な空間にいて、目の前に聖龍が浮かんでる。
…って、遼達は何処にいったんだ?
確か聖龍と戦ってて、そんでもって聖龍が消えて…そうだ……世界が崩壊するのに巻き込まれたんだ!
俺だけがなんでこの場所にいる?しかも聖龍と2人だけっていう謎展開。こりゃあ…ヤバイぜ俺!的な感じかな?
ガン見しながら考える俺を見て、聖龍が口を開く。
「漸く記憶を取り戻したか。」
「記憶を取り戻した?どういう事だ?」
まるで俺が記憶喪失だったみたいな言い方をするな。
「汝は変遷に巻き込まれたのだ。」
「変遷…?」
何を言ってるんだ?変遷って意味が分からん。Colony Worldで特殊なアップデートでも適用されたのか?
「いや、巻き込まれたという表現は正しくないか。全てが変遷に呑み込まれた以上…。」
「聖龍、どういう事だ?何が起きたってんだよ。あの世界が崩れるみたいな現象は何だったんだよ。そもそも変遷って何なんだよ。てか、俺の仲間達はどこなんだ?」
「そう1度に質問をされても簡単には答えられない。…むぅ、時間もないようだ。」
聖龍は俺の後方に視線を向け、目を細めた。
振り向くと…その先には色々な輝く色が混じり合う光点が渦巻いていた。
やばい。アレに巻き込まれてはいけないと俺の直感が警鐘を鳴らす。
「龍人よ。」
けど、この状況下にあって、聖龍は落ち着いた口調を崩す事は無かった。まるで、こうなる事を予め知っていたかのような落ち着きぶりだ。
俺が返事をしない事に構わず、聖龍は言葉を続ける。
「汝は固有職業『龍人』の持ち主。その汝が変遷の際に私の近くにいた事は、1つの奇跡と言って良いだろう。最早時間の猶予はない。故に、私の力を授けよう。」
「力…?」
「うむ。恐らく、私は変遷先で封印される。彼らにとって私は障害でしかないからな。だからこそ、彼らの目論見を打ち砕く存在が必要。汝にその役を押し付けるのは…心苦しいが、他に選択肢は無い。我が封印されようとも、汝を支える2体の龍を託そう。」
「…どういう事だよ。彼らって誰だよ!?」
訳が分からない俺は、叫ぶ。
どうしてこんな意味不明な事態に巻き込まれなきゃいけないんだって。
けど、聖龍は俺の言葉に全く取り合わない。
「さぁ、受け取るが良い。」
聖龍の全身から眩い虹色の光が発せられ、俺を包み込む。
「が…うぁぁぁぁあああああ!?」
途端、俺の体の中を何かが暴れ回った。
それは…力の本流だ。
全てを破壊し尽くすような荒々しい力が俺の体を内側から食い破ろうと暴れ、それに抗うような包み込む力が鬩ぎ合う。
2つの力が俺の内側で暴れ、俺の体を内側から破ろうとする。
…これはヤバイ。体がバラバラになりそうな激痛に意識が飛びそうだ…。
「耐えるのだ。そして、荒れ狂う力を制御してみせよ。その力が無ければ、汝はこれより先の世界で平凡な人間の1人として、悪意の思うままに翻弄される末路を辿ってしまう。」
「ぐぁぁ…!だ…だからって……!」
聖龍が言う程、簡単な話ではない。体が内側から破られそうな痛みなんて、生まれてこの方感じた事が無いんだ。
俺はどうすれば良いのかも分からず、苦しみに呻き声を漏らし続ける事しか出来なかった。
どれだけの時間、苦しんだんだろうか。
時間感覚は無く、激痛に思考が麻痺する俺は、聖龍の声を聞く。
「むぅ…もう変遷がここまで到達するか。力の定着も終わっていないというのに…。龍人よ、汝は変遷先で紛い物の記憶を植え付けられるだろう。それから解放できる可能性を持つのは、里の因子を持つ者のみ…だろう。忘れるな。そして、諦めてはいけない。奴らの企みを阻止出来る者は…汝しかいないかもしれないのだ。」
霞む視界の先で、空が歪むのが見えた。
同時に俺自身も歪みに引っ張られる感覚に襲われる。
「一体どういう…。な……なんなんだよ…!?」
俺は答えを求めて叫ぶが、気付けば聖龍の姿は既に無かった。
なんなんだよ…。どうなっちゃうんだ?
意味が分からない。
グニャリ。という表現が1番近いだろうか。気味の悪い感覚が俺の体を歪ませ、引き伸ばす。
そして…伸びた俺の体は細かく分解されていく。
そして、バラバラになって放出され、自我も砕け散っていく。
そして。
俺は。俺という存在を失った。
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