1-3.遼との合流
ゴブリンの攻撃による衝撃を覚悟し、目を閉じた俺の耳に肉を切り裂く音が響く。
あぁ…早速ゲームオーバーか。なーんもしてないじゃん俺。…そんな諦念を抱きつつ、俺はどこか客観的に分析もしていた。
まず、思ったより攻撃を受けた時の衝撃が少ない。こう…なんというか…痛覚はないにしても振動みたいなものがあるもんだろうと想像してたんだけど、なーんも無いんだな。あったのは音だけ。
これだと流石に現実感が無さ過ぎてどうなのかなって気もしてしまう。
さっきゴブリンに攻撃を当てた時は、手に感触はあったからな…。
「……ん?」
ここまで考えた所で俺は違和感を感じた。
まず、ゲームオーバー的なものが何も表示されない。ってなるとだ、まだ体力が残ってるって事になる。
次に、ゴブリンの喧しい声が聞こえない。
もしかして…ゲームオーバーになって速攻別空間にでも転送されたのか?
俺は恐る恐る目を開ける。
すると…。
「おー、やっぱり龍人だ!見た目が似てるからまさかと思って助けに入って良かったよ。てか、何で街の外にいるの?」
あっけらかんとした笑顔でそこに立っていたのは、親友である藤崎遼だった。
顔や体格は現実世界の遼と全く一緒。けれど、服装は流石にゲーム世界って感じだ。
黒い燕尾服みたいなジャケットに、白いジーパンみたいなのを履いていて、そのジーパンと黒いブーツには赤い紐が通されている。ひと目で「強い」と分かる出で立ちだった。
…って違う違う。
それよりもさっきまで俺に襲いかかって来たゴブリンがどうなったのかが重要だ。
俺が周りを見回すと、それに気付いた遼は事も無げに言う。
「あ、ゴブリンなら倒したよ?ゲーム始めていきなり3体のゴブリンに襲われるとか…龍人って運なさ過ぎじゃない?」
…え?俺が必死に倒したゴブリン3体を瞬殺?何ソレ。
俺がポカンとした顔をしているのを見て遼は首を傾げやがった。
「え?何でそんなにビックリしてるの?ゴブリンって最弱の部類だよ?流石に俺が今更手こずるわけ無いって。」
「あ、あぁそうだよな。」
最弱って…。確かにゴブリンなんてどんなゲームでも最弱系だけどさ。
なんか、すっごい悔しい。
「ま、いきなりゴブリンと戦うのはColony Worldだと無謀な挑戦だし、倒せなかったとしても気にしなくて良いと思うよ。このゲームってある意味で本当に不親切なゲームだから。」
「不親切?チュートリアルが無いのとかか?」
「チュートリアルはあるでしょ?」
「なんだって?」
「……え?もしかしてチュートリアル無かったの!?」
「いやいや!そもそもチュートリアルあんの!?」
「……うわぁ。絶対バグだよ。龍人…ホント不運だね。」
来た。滅多に無い不運なゲームプレイヤーパターンじゃん。ラノベとかだと、ここで隠された力が…!なーんて事もあるけどね。現実は甘くない。
「まぁ、あれだよ。このゲームのチュートリアルって、基本しか教えてくれないから…無かったとしても大丈夫だと思うよ。俺が色々教えるねっ。」
「あ、あぁ。ありがと。」
という訳で、俺は遼から話を聞きながら外壁に囲まれた街…豊受の京というらしい…に向かって歩き始めた。
遼から聞いた話は、まずゲームシステムについて。
ゲームなのにレベルという概念が無いらしく、強くなるのは現実世界と同様に訓練を続けるしか無いらしい。
ただ、スキルは存在するらしい。
その細かい習得方法は不明らしいが、こうすれば習得しやすいというものは発見されているとの事。
そして、聞いて驚いたのはスキルが無くても魔法とかは使えるらしいという事だな。
例えば、炎の竜巻を放つ場合、炎を竜巻のように操作する技術が必要となる。しかも、炎を出現させてから竜巻にするまでに一定の時間を要する訳で、状況によっては実用性が低くなってしまう。
そのデメリットを解決するのがスキルなんだと。例えば、スキルで【炎竜巻】を習得すると、通常よりも短い時間と少ない魔力で発動が出来るんだってさ。
つまりだ、相手の方が実力的には弱かったとしても、所有するスキルの相性によっては負けてしまう場合もあるって事になるよな。戦況の読み合いやら、戦術の選択がかなり重要になりそうだ。
その他も色々と聞いたけど…大体は通常のRPGと変わらないゲームシステムだった。
ま、俺が使えるスキルは何もないから、まだまだ先の話だな。先ずは世界観とかも学ばないといけないし。
遼に仮想デスクトップの操作方法を教えてもらって確認したけど、スキル欄は気持ち良いくらいに何も表示されてなかった。
ゲームスタート時にスキルを持ってないのがデフォルトだって言われはしたけど…なんか寂しいよね?
「さ、着いたよ。ここが豊受の京だよー。」
「おぉ…!」
遼の案内で俺は城門を見上げておのぼりさんのように口を開けてしまう。
凄かった。まるで自分がゲームの世界にいるのを忘れてしまうような圧倒感があった。
外壁と同じ大きさの開かれた門を多数の商人風の姿をした人や、冒険者らしき人々が出入りしている。
「すげぇな。なんて言うか…大都市的な?」
「ははっ。大都市って程では無いけど、俺たちがいる食の京唯一の拠点だからね。」
「ん?ここしか拠点は無いのか?」
「あ、そっか。その説明してなかったね。」
「てか、ここは豊受の京だろ?食の京ってのはどこにあるんだ?」
「あれ?キャラ作成の後に世界観を説明する文章出てこなかったの?」
「…?いや、全く。」
「うわー。ホントに龍人のバグ酷いね。えぇっとそしたら…。」
と、ややディスられつつも…Colony Worldの世界観について説明を受けた。
その世界観は、様々な星々があるという事前に聞いていた内容通りのものだった。
まず、Colony Worldにある星は幾つかのグループに分かれている。
そのグループは 圏という名前が付いているらしく、都圏、藩圏、京圏、街圏、町圏という名前らしい。それぞれの圏には規模があり都>藩>京>街>町という規模関係。そして各圏には5つの星が所属しているのだとか。
普通に考えて5つの圏に5つの星だから…25個の星があるわけだ。名前を覚えるのも一苦労しそうだね。
ええぇっと…遼から聞いた各圏にある星の名前をまとめると…。
都圏には『白金と紅葉の都』『黒水と雪の都』『蒼木と桜の都』『赤火と雨の都』『黄土と砂塵の都』
藩圏には『天使藩』『悪魔藩』『魔神藩』『獣人藩』『機人藩』
京圏には『食の京』『書の京』『音の京』『動の京』『文化の京』
街圏には『機械街』『魔法街』『森林街』『海街』『雲街』
町圏には『空の町』『炎の町』『地の町』『水の町』『神の町』
とまぁ…こんな風になっているらしい。
で、俺が今いるのが食の京っていう星にある唯一の拠点となる豊受の京って事らしい。ちぃっとばかしややこしい気もしなくは無いよね。
ざっと俺に星々の名前を教えた遼は、軽い感じで言ってのける。
「ま、無理して覚えなくても良いと思うよ。先ずは今いる星の攻略を始めるところからだからね。」
「分かった。てか、良く覚えてんな。」
「まぁね。一応ギルドも作りたいし。各星にあるダンジョンでしか手に入らないレア武器もあるし。慣れたら自然と覚えると思うよ。てかさ、龍人は良く俺が居るのが食の京だって分かったね。」
「…ん?」
「……え、もしかしてその反応…再びのバグ?」
「もしかして、スタートする星って選べるのか?」
「アチャァ…。バグが多すぎて、逆についてるんじゃ無いかって思っちゃうね。」
「くっうるせい!」
「ははっ。」
結局は人の不幸だからな。遼は珍事件とでも言わんばかりに笑ってやがる。当人からしたら重大事件なんですけど!?
とまぁ、そんなやりとりをしながらも、何だかんだで遼はちゃんと教えてくれた。
「Colony Worldでは京圏か街圏がスタートの星で選べるんだよ。このゲームってダンジョンクリアだけが目的じゃなくて、仮想世界でゆったり生活も出来たりするから、目的に合わせて皆選んでるんだよね。」
成る程。1つのプラットフォームでダンジョン攻略も、仮想世界スローライフも、なんでも叶うって訳か。しかも、別の楽しみをやりたくなったらゲームを変えるんじゃなくて星を変えれば良いって寸法か。
…開発したゲーム会社、やるじゃないか。
「って事は、食の京はダンジョン攻略に1番適してるって事か?」
「いや、そうでもないかな。俺は単純に美味しいものをゲーム内でも食べれた方が嬉しいっていう単純な理由だよ。同じような理由で食の京を拠点にしてる人は多いはずかな。」
「ゲーム内でも食欲は優先されるんだな。」
「はははっ。まぁね。」
こんな事を教えてもらいながら歩いていた俺達は、1つの建物の前で立ち止まる。
「ここが冒険者ギルドだよ。先ずは冒険者登録をしよ。で、そこからクエストを受注して一気に強くなる!」
「はい?このゲームってレベルとか無いんだろ?クエストをこなして強くなれるのか?」
「ちっちっち。甘いね龍人君。クエスト達成でお金を貰って、強い装備を整えるんだよ。そんでもって、ついでに戦闘とかにも慣れないとね。このゲームは知識があっても体が慣れてないと全く役に立たないから。」
「そーゆー事か…。」
俺は悟った。このColony Worldってゲーム、確実に強い奴は相当な廃人レベルになる。
現実世界と同じくらいの努力を積み重ねないと強くなれなさそうなんだもん。
と思ったら、異時限エリアってのがあるらしく、そこでは現実世界の1時間が8時間にもなるらしい。本当に強くなりたい人達はそのエリアに篭るんだとか。
とまぁ…こういう成り行きで、俺は遼と共に冒険者登録をした後に、クエストをひたすらに受注してクリアするというハードワークルーチンに入っていく事になったのだった。
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