お金より大切なものはありますか?

ぬっちゃん

第1話

俺は金が好きだ。

理由は単純。金は何にでも代えが効く。


欲しい物も心も女も全て金で買える。幸せも買える。夢も買える。とても大切なものだ。


俺は都内で一番高いビルの最上階から下界を見下ろすのが趣味だ。人生を賭けて精々数億円程度しか稼げない仕事のために必死でアスファルトを駆け回るサラリーマン達。たかだか数十万円程度の買い物をして愉悦に浸っている上流階級気取りのババア達。明日を生きる金も無く、道の隅に横たわるホームレス。まったく人と言うものは斯くも滑稽なものか。金という名の砂糖に踊らされた地面を這う蟻のようで見ていて飽きない。


俺は幸せも夢も心すら全てを投げ売って金を手に入れてきた。この街の蟻全ての人生を捧げても尚、比べるにも値しない莫大な金だ。「そんなかけがえの無いものを投げ売ったら人として失格だ」とよく言われる。逆に言ってやろう、だからお前達は駄目なのだと。


お前達の言う『かけがえのないもの』とはなんだ?愛か?心か?俺はそんなあやふやなものに縛られるのは御免だ。その点金はいい。金は絶対に裏切らない。物も、心も、愛も、幸せも全て手に入る。金で全ては代えが効くんだ。


そんなことも分からないからお前達は負け犬なんだ。夢も叶えることすらできず、幸せも中途半端、金が無い奴は、時には愛する者の命すら守れない。


とある病院の一室。俺は病床の横に立っていた。握っている女の手は温かい。彼女は大病を患っていた。まだ彼女の病気に関する学術記事はこの世に存在しない。その病に対する特効薬は見つかっていない。


俺は俺が持つ全ての金と引き換えに、世界で最も優秀な医者、最新の技術、最高の設備を揃えた。数年の療養の末、なんとか彼女の命を繋ぎ止めることができた。


もう一度言うが俺は金は好きだ。欲しい物も心も愛も幸せも全て金で買える。


金のために生き、全てを捨てた末に、1人の人間を救うためにその金すら捨てた。全てを無くした俺に彼女はいつもと変わらない笑顔で言う。


「お金よりも、私を愛してくれてありがとう」

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