レストア/Restore

@ProtoT

序章

とある一人の科学者が一体のアンドロイドを作り上げた。

そのアンドロイドに付けられた名は、その科学者のある願いが込められた。

アンドロイド……否、彼女はこの世界で何を見出すのか。



彼女の名は





『レストア/Restore』





ヒトモドキ…人の形をした、人ならざる者。人としての倫理を失った者たちの総称、私のデータベースにはそう記録されている。

かの者たちの発祥は不明、唯一分かっている性質は、ヒトモドキはヒトに伝染するということのみ。

私は、自身がアンドロイドであること、この世界における一般常識、そしてこのデータのみを持ってこの世界で目覚めた。真っ白な空間で、たった一人。

左手首に刻まれたこの《Re:S-00》の番号と『レストア』という名前が、私をアンドロイドたらしめている。

私は自分の中にあるはずの、使命を忘れてしまった…いや、もしかしたら元々プログラムされていないのかもしれない。でも、それは分からない。わからないからこそ、世界を巡るしかなかった。

既に5年の月日がこの世界で流れた。私がアンドロイドであることに感謝した日は多い。一般常識に従って、まずは通貨を入手しなくてはならないことを理解した。ラーニング能力を最大限活用し、最も自身に合う働き方を調べた。人間に必要な3大欲求である【食欲・睡眠欲・性欲】は不要。時間ある限り働き、必要分として算出された分を稼ぎ終え、すぐさま全てを見て渡った。

世界各国様々な国で、沢山の人間の中からヒトモドキを見分けてきた。しかし、見分けるだけで、彼らの被害者を救うことは叶わなかった。

私は、別の観点から被害者を救うことを考え始めた。被害者を救うのではなく、相対数を減らしていく。すなわち、ヒトモドキを人間に引き戻す、また人間をヒトモドキにしない。それにより被害者の数を減少させる試みを始めた。人間心理のラーニングにより、悪意に蝕まれかけはしたが、どうやら私の製作者はそれを読んでいたようだ。自己保存プログラムと自己保善プログラムのおかげで、知識のみをラーニングできた。

が、それはヒトモドキが持つ悪意の強大さを感じる結果になった。そして、ヒトモドキが伝染する原因を、私に知らしめてくれた。

人間が持つ不完全な【ココロ】や【カンジョウ】というものは、憎しみに染まりやすいのだ。そして、それは周りの人間にも伝わる。

日本のことわざに【類は友を呼ぶ】というものがある。確かにその通りだ。似たものが集まる、似たような憎しみなどの負の感情を募らせる。そして一人がヒトモドキと化す事で、その周囲の人間にも伝染が始まる。そして、人間関係とは様々なネットワークを確立している。そこから、ヒトモドキが伝染していき、勢力を拡大していく。

そして、その輪からはみ出た正しい心を持つ者や悪意の対象となってしまったか弱いモノ達が、ヒトモドキの餌食となってしまう。

これが、私が世界を回って得た、ヒトモドキたちに関するレポートだ。




先程までのレポートを前提とし、どこから是正すべきかを考えた。何度も何度もシミュレーションを重ねた。かつて放映されたとある番組のように、多感な思春期の子どもを正しい方向に導くことも考えたが、私が奮闘したところで、世界に蔓延るヒトモドキに再度汚染されてしまえば元も子もない。しかし、人間を集めたところでヒトモドキに比べて圧倒的少ない。仮にヒトモドキを少数にし、人間と混ぜ合わせ浄化効果を狙っても、ヒトモドキと化す可能性の方がはるかに高い。



私が出した最終判断は、人類を厳選し、ヒトモドキを全て排除する。ヒトモドキは、人に似た形をした、倫理観を失った怪物だ。だが、前述した通り何分数が多い。殲滅する間にも新たなヒトモドキが生まれてしまう。イタチごっこにしかならないのだ。

私は…シミュレーションを重ね続けた。何億通りの検証を行い続け、全てに欠点が見つかる。たった一点の曇りでも残れば、ヒトモドキは伝染・増殖する。

私は結論が出せずにいたのだった。

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