第五章 回想

 昨日の三限の授業は、文化祭の打ち合わせだった。うちのクラスはなにやら演劇をするらしい。クラスメイトは大いに盛り上がり、役者の割り当てやシナリオの選定を始めたが、僕にとっては苦痛の始まりだ。羨ましいからではない、ただこういう空気感に僕は耐えらないのだ。担任の先生はいつも、君たちの学生生活は君たちが作れ、などと煽ってくるが、結局はそれの形は決まっている。こういうものがその正体で、こういう風にすればそれを感じられる、逆に言えばその型に合わない者はそれを生きることはできない、そういうことだ。僕からしてみれば、その型を、そしてそれにはまって生きることをそれと呼ぶのなら、それらはすべて酷く滑稽に思える。誰かの言う通りに、そういう結果になると予想されて行われている学校行事、学校生活も、それに付随して生まれる友人も恋人も、すべてがとんだ茶番じゃないか。

ただそう思うと同時に僕は耐え難いほどの悲しみに苛まれる。皆と同じようにそれを感じられない自分を、型にはまって生きた方が絶対に楽しいとわかっていながらも、くだらない考えから逃れられない自分を、とても恨めしく思う。ただ普通になりたいだけなのに。

 それでも僕は自分に嘘をつくことはできなかった。自分を押し殺して仮初めの友人に優しく接すれば、自分が誰だかわからくなって、とても気分が悪くなった。挙句の果てには自己との差異で嘔吐までする始末で、とてもそれに触れることはできなかった。

・・・きっと僕にそれは向いていない。

 いつからだろう、そんなことを思うようになったのは。しかしそれが僕の結論だった。僕には鉛筆だけで描かれた、灰色の風景がちょうどいい。

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