よびこい
水瀬周
第1話
僕はとにかく怠惰である。何に対してもやる気がない。全てに対して熱意がなく、全てに対して惰性でこなす。そんな人生を送ってきた。
器用貧乏は損をすると聞いたことがあるが、僕はその典型かもしれない。いつもなんとなくで乗り切れてしまうから、頑張ることを知らない。そしてその繰り返しが、怠惰な僕を強く習慣づけている。
ところがあるとき、乗り切れなくなった。僕は大学に落ちてしまった。それも受けた大学全て不合格で、僕はそのまま浪人した。別に僕が浪人したがった訳ではない。親が浪人して大学にいけと言ったから、それに従っただけだ。
4月の半ばになって、予備校が始まった。怠惰な僕はどうせ授業を聞き流すし、予習も復習もしないし、宿題もしないし、友達も作らない。今まで通った学校でも全部そうだった。つまり何も起こらない。僕は居るだけ。これからもきっとそうなる。
と、思っていた。が、しかし、そんな予想は裏切られた。
どうも僕は恋をしたらしいのだ。
それはあまりにもストレートな瞬間で、思考の余地なんてどこにもなかった。怠惰も勤勉も介在しない分岐点、恋に落ちるか落ちないか。針は、前者に振れた。
恋というものは厄介だった。結局その日、講義は聞き流すことになってしまった。ただ、挨拶を返し、落し物を拾い、消しゴムを貸した。錆びついた僕の歯車は、ほんとうに少しだけ、動き始めた。
よびこい 水瀬周 @Aillis_Write
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