死神草子(ENCOUNTER)

@ayumi78

死神草子(ENCOUNTER)

夜の商店街のアーケードの真ん中で、ギターをかき鳴らして歌う2人の少女がいる。誰も見向きもしないが、本当に一生懸命だ。1曲終わると、「ありがとうございました」と微笑みながら一礼している。

そんな少女達を見ていると、ふいに「あら、こんばんは、死神さん」と言う声が聞こえる。

え?見えてる?

驚いた私を見て、くすくす笑いながら2人は顔を見合わせた。

「私の歌、聴きに来てくれたんだね?」とにっこり笑う少女。

こちらが思わずうろたえるほど屈託のない笑顔だ。そして、もう1人、

「いやー、まさかこんな所で」

こっちはよく見ると人間じゃない。

「会えるとは思わなかったよ」

白いワンピース、背中に翼、つまり……天使。

「そ。私はあなたと同業者みたいなもの」

今日は散歩しにきたのよ、と花のような笑顔で言う。

私が「それだけが目的じゃないでしょ」

苦笑いしながら言うと、「まあね、本当は見学してきなさいって言われたの」

見学?どういう事?

「どうやって魂を集めているのかを見てきなさいって」

なんだか調子が狂うな、と思いながら、「分かった」とだけ返事した。

背後で「じゃあね」と、2人が別れる声を聞きながら。


「ふーん、なるほど」

天使は興味深げに、私の後をついてくる。

「イメージと違うのね。無理やり魂を刈り取っているのだと思っていたわ」

「まあ、そんな死神がいるのは確かだけど、今はほとんどこのやり方」

魂が死を受け入れるまで待つ。あるいは説得する。納得したら籠に入ってもらう。

「ただ、地縛霊は力ずくになるけど」

そう、あの時、あいつに手伝ってもらったように。

「逆に聞きたいんだけど」

「なあに?」

「そっちはどうやって集めているの?」

「……同じ」

「え?」

「見てて思った。同じだなって」

じゃあ、見学する必要ないじゃない。

「…呆れた」

思わず笑いが込み上げてきた。

「そうね」

2人で笑いあったあと、

「なあんだ、同じなのか、なあんだ」と天使が小声で呟いた。

「一体何を期待していたのよ」

鎌を仕舞い、魂を入れた籠を持って帰り支度を終えた私は、そんな事を思いながら天使の方を振り返り、「じゃあ、帰るから」とだけ言った。

「うん、私も帰る」と言って、天使は翼を広げた。

またどこかで会えるかな?と言いながら。



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