第14話
「なんだよ、こんなところにいたのか」
その声に振り返る。
「びっくりした。急にいなくなってるから。どこ行ったのかと思った」
倉庫横に置いてきたはずのバスタオルを、すぐ横の机に置いた。
「なんでいるの?」
じっと目が合う。
彼は、ふぅとため息をついた。
「そんなの、こっちが知りたいよ」
手にはコンビニの袋を抱えている。
「ね、お腹空かない? そこのコンビニでパクってきた」
菓子パンとか惣菜とかの、飲み物が二人分しっかり詰め込まれている。
「ちょ、万引き? 勝手に取ってきちゃダメじゃない!」
「だって、誰もいないんだもん。本当に」
そういう問題じゃない。
こんな緊急事態だからって、していいこととダメなことはあると思う。
「ダメだと思う!」
「じゃ、生のジャガイモ食ってれば」
お高いアイスのパックを取り出す。
袋からはちゃんと2つあるのが透けて見えている。
私の分も取ってきてくれたんだ。
蓋を取り中のシールを剥がずと、それをスプーンですくって口に放り込む。
「マズい」
「えっ?」
「やっぱいらない。俺はこれじゃない方にする」
食べかけのアイスを差し出す。
彼の手の熱でわずかに溶け始めたそれを受け取った。
「実はもう一個もらってきたんだ」
同じメーカーの別の味だ。
それを開けて食べる。
「うん。こっちがいい」
カップの表面が、しっとりと濡れている。
私はずっと、怖かったんだ。
彼の姿を見てほっとした瞬間、そのことに気づく。
真っ暗なままの教室は相変わらず真っ暗で、窓の外だけは誰もいない世界で、キラキラと輝いている。
「学校から外に出た?」
首を横に振った。
「そっか。この周辺、ざっと見て回ったけど、俺たち以外誰もいなかった」
甘いアイスはとろりと溶けて、喉を流れる。
「もう少し、真面目に考えた方がいいと思うよ」
「何を?」
彼は座っていた机から、ぴょんと飛び降りた。
「どこで寝る? 保健室? 校長室のソファもよさそうだったけど、用務員の宿直室にも布団はあった。干してはないけど」
校外のコンビニから持って来たその袋を私に差し出す。
「それとも、自分ちに帰ってみる?」
私はもう一度首を横に振った。
ここから離れるのも、一人になるのも怖かった。
私たちは保健室のベッドを動かし、間にカーテンを引いて眠った。
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