アルストロ.メリア

月影いる

第1話 出会い、そして始まり。


 XXX年。

 世界を滅ぼしたのは、たった二人の少女だった。

 

 荒れ果てた大地に服も体もボロボロな姿で立ち尽くしている一人の少女がいる。片腕しかない少女のその足元にはもう一人の少女が転がっている。

 「……ない。……な……い。」

 地面に転がっている少女は、弱々しく消えてしまうような声でもう一人の少女に向かって言う。あたりには何も無く、砂煙だけが彼女たちを覆う。立ち尽くしている少女は、複雑な表情を浮かべながら彼女の様子をじっと見つめている。

 

 物語は何年も前から始まっていた。彼女達は生まれてからずっと一緒だった。オレンジ色の髪の毛で赤い目をしている少女と、青く長い髪の毛で瞳も青色をしている少女。お互い生まれつき片目がなく、オレンジ髪の子は右目を、青髪の子は左目を長い前髪で隠し、二人で人目につかないようにひっそりと暮らしていた。

 彼女たちが暮らすこの世界は、多くの人が刀を持ち、戦やいさかいが絶えない過酷なところだった。人々は殺し合いを好み、性別や年齢関係なしに殺すことだけを考える。非力な少女達は、武器を持つ大人たちを前にただ逃げることしか出来なかった。生きていくことすら困難な中で、必死に生き長らえていた少女らだったが、この日は不運に不運が重なり、逃げた先が行き止まりだったことに加え、数人の大人達に刀を向けられ完全に追い込まれてしまった。互いの手を握り、目を強くつむり痛みが溢れる一瞬を共に迎えようと覚悟した少女らだったが、いつまでたってもその一瞬は訪れなかった。恐る恐る目を開き、彼女たちは先の大人たちが倒れているのを目の当たりにした。何が起きたのか全く理解が出来なくて戸惑う少女らだったが、近くに誰かいることに気づき、一気に緊張が走る。

 「全く。みな揃いも揃って殺し合いなぞ…。武器を持たぬ者まで殺そうとするとは大したものですね。」

 布で顔を覆い、刀を軽く振るいながら誰かが少女らに近づいてくる。互いに手を強く握り続け、不安げに近づいてくる人物に目をやる。その人物は、彼女達の目の前にくると、顔を覆っていた布を剥ぎ顔をあらわにした。

白い肌には似合わない火傷のあとがよく目立つ女性だった。彼女は優しく微笑むと

「大丈夫ですか?よく頑張りましたね。怖かったでしょう。どこにも行くあてがないのなら着いてきなさい。」

 小さき少女らに言った。まだ状況がよくわかっていない上、目の前の女性を信じて良いのかそれも分からない中、ただ一つ分かっていたのはこの女性が助けてくれたという事実。信じるとか信じないではなく、少女らはこの事実だけを見て、感謝した。そして互いに目を合わせると小さく頷いた。今まで刃を向けられたことはあっても助けられたことはなかった。最初は驚いたが、初めての出来事と初めての感情。少女らは彼女に着いていこうと思った。行くあてもなかったし、そこら辺で野垂れ死ぬよりも彼女の元で死んだ方が良いと思ったのだ。

 これが彼女と少女らの出会い。過酷な世界で生き抜く彼女達の物語。

 

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アルストロ.メリア 月影いる @iru-02

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