勘違い令嬢は愛されてる事に気が付かない!乙女ゲームのモブですが、ヒロインや悪役令嬢と同じように攻略対象と関わってます

仲仁へび(旧:離久)

第1話



「私」


 私は、現代風乙女ゲームの世界に転生したらしい。


 けれど、ヒロインでも悪役令嬢でもない立場だ。


 ただのモブ。


 生まれ変わったのは、どこにでもいる一般人だった。


 ちょっとお金持ちの家に住んではいるけれど、特別なものはなにもない。


 でもモブはいい。


 気楽でいい。


 だから、横からラブストーリーを眺めているだけでいい人生だと思っていたのに。


 波乱もない人生だからと、楽観的に考えて生きていたのに。


「なあ、一緒に帰らねぇか?」

「今日は、僕と遊びに行くって言ったでしょ?」

「君と話したい事があるんだけど。今いいかな」


 なぜか攻略対象がよってくる状況があった。


 何をしても、自然によってくる。


 学校に通ってるんだけどーー登校後・下校前。放課中・部活中ーーとにかくいつも視界の中に誰かしら入ってくる。


 今も下校しようとしたら、こうだ。

 目の前にイケメンの顔が三つ。


 圧が強い。

 きらめきも強い。

 存在感がはんぱない。


 一体なぜこんなことになってしまったのだろう。

 考えてみてもわからない。


 まさか、私に気がある?


 と思ってみたけど、即座に否定。


 私はヒロインでも悪役令嬢でもないんだから。


 モブに惚れる攻略対象なんているはずがない。


 だったらどうして?


 あらためて考えてみてわかった。


 ああ、他の女の子達からの風よけですか。


 と。


 それなら納得できる。


 この学校には、一部の図々しいファンクラブの人達がいるから、そのせいだろう(ヒロインを除くと、人が話している所にわざわざ突っ込んでいくような人はいないからね)。


 仕方ないかな。


 ファンクラブの人たちはところかまわず、攻略対象へ話しかけたり、ちょっかいかけたりしてるらしいから、辟易してるんだろう。


 という事で、私は脳内処理を終えた。


 はい、現実に復帰。


 目の前に並んだイケメンたちに返事をする。


「分かりました、じゃあ皆で楽しいお話でもしながら、途中で遊べる所に寄りましょう」


 安心してください、攻略対象の皆さん。


 愛されてるなんて、勘違いはしません。


 せいぜい良い風よけとして、毒にも薬にもならない役に徹しときます。








「攻略対象1」


 俺は図々しい連中が嫌いだ。


 俺は他の連中よりちょと見た目がいいらしく、女性からよく声をかけられる。


 別に好意を寄せられること自体は嫌いじゃない。

 けれど、度を超したアピールをしてくるのは嫌いなのだ。


 俺のような人間に対して作られたファンクラブ、だなんてもんがあるらしいが。

 そこの連中が毎度毎度暴走してくるから困っている。


 見た目はちょっと他の奴とは違うかもしれない。

 めずらしいオッドアイなんて特徴があるから、目立つのは分かる。


 でも俺の中身は普通の人間と同じだ。

 一人になりたい時や、機嫌が悪い時は、そっとしておいてほしかった。


 だから、つい先日一部のファンが暴走して、俺の秘密の居場所にまで踏み込んできそうになったときは怒鳴りそうになった。


 でも、そこにあの彼女がやってきて誤魔化してくれたのだ。


「貴方が探している人なら、さっき向こうへ行くのを見ましたよ」


 そいつは、そこに俺はいない、とファンに向かってうまく言ってくれたのだ。


 おかげで安息の地を守る事ができた。


 それからだ。学校で、あいつの事を目に追うようになった。


 目立たない容姿をしているから、クラスメイトだったのに気が付いた時は驚いたな。


 そんな事があったから。


 やがて、季節外れの転校生、(けっこう見た目の良い女生徒だ)がやってきて、俺の秘密の場所に立ち入った時も怒らずにすんだのかもしれない。


 俺はその時、その見た目の良い女生徒が、他のファン達とは違ってただ迷い込んだだけだったのだと気が付く事ができたのだ。








「攻略対象2」


 僕にはお姉ちゃんがいたんだ。


 でも、子供の頃に亡くなってしまった。


 その日の前に、僕はお姉ちゃんと喧嘩していたから、お姉ちゃんが亡くなったのは僕のせいだ。


 次の日、かくれんぼしていた僕が意地悪して、先に帰っちゃったから。


 嵐になっても僕を探し続けていたお姉ちゃんは、雷にうたれて命を落とした。


 だから、学校の修学旅行で廃墟探索に行った時は、自分への罰が下されたんだと思ったんだ。


 先生に内緒で真夜中に皆で廃墟に行ったんだけど、戻る時に嵐がやってきた。


 雨はみるみるうちに、土砂降りになって、風もすごくなった。雷もひっきりなしに鳴り響いてた。


 正直怖かったよ。でもその時には、仲の良い女の子が一緒にいたから、僕はどうしても彼女を助けたかったんだ。


 転校生の女の子だ。


 最初は見た目が可愛くて声をかけたんだけど、でも彼女は優しくて、あったかくですぐに大好きになった。


 だから、やみそうにない嵐の様子を見て、「僕が先生を呼んでくるよ」と言って走り出した。


 彼女を助けたい気持ちは本当だったけど、でも内心では、僕はずっと誰かに罰してほしかったんだ。


 だから、あんな危険な事を。


 でも、雷が落ちるってなった時、誰かが僕を押し倒して助けてくれた(その代わり、雷は近くの木に落ちたみたいだ)。


 助けてくれた人は、クラスの中にいる目立たない女生徒だった。


 彼女がいなくても、助かったのかもしれない。案外なんともなかったのかもしれない。もしもなんて、人間には知る事ができない。だから、本当はどうなったのか分からないだろう、でも。


 命をかけて、助けようとしてくれるなんて、なかなか出来る事じゃない。


 その女生徒は、一人で飛び出した僕を心配して、追いかけてきてくれたようだ。


 そんな事があったから、僕はその日から彼女から目が離せなくなった。


 僕には好きな女の子がいるのにおかしいよね。








「攻略対象3」


 私には許嫁の女性がいる。

 同じ学校に通っている同年代の女性だ(少々個性的で華美な見た目をしている者で、なぜか手にはいつも扇を持っている)。


 しかし、彼女は少し高慢な態度をとるから、あまり仲良くしたいとは思えなかった。


 特に転校してきた見た目のいい女生徒に難癖をつけているところなど、見るに堪えない。


 だから、私は許嫁である彼女に対して何度か注意したのだがーー。


 まさかその行為が誰かに咎められるとは思わなかった。


 悪いことをしているとは思っていなかったからだ。


 俺は、咎めてきた女性とに対しては、まったく意識を向けていなかった。そんな人物がいるという事すら、認識していなかったはずだ。影の薄い、そうそんな人物だったから。

 けれど、そんなクラスに一人か二人はいるような、目立たない少女に注意されるとは。


 予想外だった。

 そのような人物がこれまで、こちらに何かを言ってきた事はなかったからだ。


「本当に自分は何も悪くないと? 貴方が彼女の事を気にかけてあげないから、荒れるようになったというのに」


 不意につぶやかれた言葉。

 それは聞こうと思って聞かなければ、意識に入ってこないような小さな声だった。


 きっと私の立場を考えて、私にだけ聞こえるように言ったのだろう。


 私はクラスのまとめ役だったから、表立ってそういった意見をすると良くないと考えたのかもしれない。


 その瞬間から私は彼女に興味が湧いた。

 

 私はどうも、自分の感情に疎いところがある。


 だから、彼女から見た私というものを一度聞いてみたかった。







「私」


 下校の最中。

 通学路で、イケメンに囲まれながら過ごす時間は目立つ事この上ない。


 お金持ち学校に通っているといっても、私の家はちょっと背伸びした感じの家だから、自分が一般市民と交じっていても良いのだが、生粋のお金持ちオブお金持ちであるイケメン達が一緒だと、どんな面でも目立つ。


 店に入るところから、何か買い物するところ。ゲーセンでの遊び方とか、公共交通機関の利用の仕方とか。その他にもあれこれ。色々な事を教えるたびに、それを痛感する。


 彼らは口々に「新鮮で面白れぇ」とか「世界って広いんだね」とか「うむ、勉強になるな」とか言ってるが、私の苦労も考えて。


 風よけなんだから、好きに使いたくなるのは分かるけど、使われる方の都合もあるのだから。


 まあ、たまに怪我しそうになると守ってくれたり、心配してくれるところがあるから、良いんだけど。


 こっちもイケメンといられて、目の保養になるし。


 はぁ、でもまさかこんなに攻略対象達と関わる事になるとは思わなかった。


 私はモブなんだから。


 ちょっと前に、


 ヒロインと攻略対象のイベントをつぶさせないためにファンを妨害したり、


 好感度足りなかったからなのか、攻略対象の命の危険にかけつけなかったヒロインの代わりをしたり、


 悪役令嬢が不憫すぎて独り言のつもりで攻略対象に文句言ったりはしたけれど。


 そんな事、この現状にはぜんぜんなんの関係もないだろう。


 だって私は、ただのモブだしね。


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