第五世界 終焉
落ちて、墜ちて、堕ちた。天は割れ、大地が崩れ落ち、その虚像が剥がれ堕ちる。天に咲く漆黒の虚。全ては塵に帰り、虚の内側へと吸い込まれる。現れた虚の奥にて顕現する大聖堂。そこに在るのは偉大なる素晴らしき最後の濾過装置。破滅の道に待つ滅びの末路。人類の進化を拒絶するもの。機構に意志が、意志に悪意が混ざった災厄。んーこれはちょっと、いやだいぶマズイなー。
石造りの街は姿を消し、大いなるナニカの根城が現れた。禍々しく、悍ましい内装より目を引くモノが、祭壇のある最奥にそれはいた。闇だ。そこには闇があった。蜷局を巻き、脈動し、そして、こちらを見ている。生きた闇。意思のあるナニカがあの闇の向こう側にいる。
「ソロ!何だよアレ!」
蜷局を巻く闇は一際大きく脈動すると、ぼこぼこと膨張を始める。
「知らん!知らんが……アレはまずい。本当に、まずい。ホープ、しっかり掴まって、余計なことはするな!来るぞ!」
膨張した闇は弾けるように爆ぜ、次の瞬間無数の触手のようなモノが縦横無尽に放たれる。
「ソロ!」
「分かってる、『我が言葉に答えよ。希望よ、守護せよ。未来よ、邪悪を祓え』」
ホープとソロの周囲を黄金と白銀の光が包む。二色の光は螺旋状に旋回し、輝きを増しながら球形となる。闇の触手は光の壁に接触すると浄化されるように胡散していった。
「ソロ、今のもしかして」
「魔術さ。悪かったな、黙ってて」
ホープの問いにソロはバツの悪そうな顔で答える。
「記憶戻ったんだ、良かった!」
「純粋だな君は!」
呆れたような、でもどこか嬉しそうな、そんな表情をソロはしていた。
だが、休んでいる暇はなさそうだ。闇は怯む様子もなく、新たに触手を作り。飛ばしてくる。
避けて、逃げて、たまに防ぐ。ソロの戦い方はそんな感じだ。さっきのは魔力の消耗が激しいらしい。もちろん、避けて、逃げてにも魔術が使われた。高速移動や瞬間移動など何でもありだった。ソロの魔力切れが先か、ホープの転移が先かそのような状態だった。ソロもかなりギリギリの攻防に疲れているらしい。疲労を感じさせる表情を見せながらも確実に闇を翻弄したからだろうか、一瞬だけ、靄に切れ目が、靄の向こうを観た。悪意に満ちた貌。赤く、黒く、猟奇的に、狂気的に嗤う。その一瞬を共有した者がもう一人、隣にもいたようで——
「——ぁ、……貴様は!貴様貴様貴様貴様貴様貴様貴様。お前さえ!いなければ!必ず殺すと誓った!」
突如激高したソロが単身で正面から闇に向かって駆ける。
「ソロ!ダメだ!落ち着け!戻れ!」
ホープはソロを引き戻そうとするが、彼は止まらず魔術の詠唱を始めた。
「『我が言葉に従え。月光に輝く君よ。凍てつく夜にて狂気の星は輝く』」
幾重もの氷の輪が闇を取り囲む。うねる触手が弾かれている。闇そのものもどこか縮んでいるようだ。闇の動きが封じられていた。
「私は、冷静だ。ホープ、これは封印術だ。これから、アレを仕留めるから、お前は安全なところに——」
ソロがその続きを言うことは無かった。縮んでいた、否、自身を圧縮した闇は漆黒の光を放つ。気が付いた時には遅すぎた。避けられない。逃げられない。
死——
「『彼のものを、護りたまえ』」
腹部に痛みを感じて気が付いた時には、何もかもが終わっていた。倒れていたのは、さっきより離れた場所。さっきまでいた筈の場所には、倒れたソロがいた。あぁ、そうだ。被弾の直前にソロに蹴られた。だから、私は攻撃の軌道から逸れて無事なのだ。だから、ソロは倒れているのだ。
「ソロ、何で」
呆然としながら歩み寄る。半身を失ったような感覚だ。どうすればいい。分からない、解らない、判らない。生死の確認方法もこの後どうすればいいのかも。闇が脈動する。当然だが、氷の輪は消失していた。
闇が収縮する。先程と同様の、漆黒の光の前兆だろう。走れば逃げられるだろうか。間に合わない。どこへ。逃げ道はない。もう——
諦めかけたその瞬間、蜷局巻く闇は床に押し潰され、雷撃が闇を襲う。闇は想定外の攻撃に、声にならない悲鳴のような叫び声を上げながら、無数の触手で闇雲に周囲を攻撃するが、それらは閃光によって相殺された。
「先生ェ、やっぱ足んないですよォ」
「黙って時間を稼げよ。お前は優秀なんだからさ。ほらほら、僕の分までしっかり働いて!属性はすぐに変える!対策させるな!勝機を探す!攻撃手段も全パターン試すよ」
「アホかァ!ふざけんなァ!てか、何であんたは全盛期の状態じゃないんだよォ!!」
遠くから微かに二人分の話し声が聞こえる。他に人がいたのか。いや、そもそも、この声は——
「hープ君、だね?tすけに来たよ。応援を呼んだのだが、うん、少ないね。仕かtない。とにかく、彼らがあのゲテモノの注意を引いている間に逃げるよ」
「え?」
どこからともなく声が聞こえたかと思うと、転移が始まる。体が薄まるのがかなり早い。慌ててソロを引っ掴み、声の主を探す。
人?を視認した時には、既に世界は変わっていた。いや、人なのかコイツ。
「セーーーフ。いやー、危なかった。大丈夫かいホーpくん。大丈夫だね:ならよし。おいおい、そんな熱い視線で見つめないでくれよ。照れちゃうじゃないか//」
ネズミだ。
「ぶふぁwwwどうしたのさ、変な生き物でも見たyoうな顔して、めっちゃ面白いね君.僕はさ君と話したくて話したくて仕方なかったんだ。会えてuれしいよ」
ネズミが喋っている。変顔しながら。
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