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平和な世界。誰もが羨む理想郷。誰一人として不幸とは無縁の日常。全人類、今を生き、これから生まれる無数の人々が、未来に希望を持ち、望みを叶え、何の疑いもなく毎日を生きられる世界。冗談だろ。不可能に決まっている。聖人の理想と凡人の我欲と悪人の気まぐれが同居できるはずがない。少なくとも今の人類の価値観でこの理想を推し量ることはできない。つまり、今の人類に平和を享受する術はなく、況してや観測など論外だ。だから、別の道を探す。諦めない。そう、彼らに誓ったから。
一瞬の出来事だった。男は、何が起きるのかワクワクしながら瞼を閉じた瞬間、強烈なプレッシャーに襲われた。反射的に瞼を開き、何が起きたか確認しようとして愕然とする。
——何も見えなかった。
男の視界に映る景色は真っ白だった。しかし、先ほどまでの状況とは異なる。ついさっきまでは、何もないがある世界だった。だが、今は明らかに何かの気配を感じるが、それを認識することを妨害されている。靄か霧のような何かが、本来の景色にモザイクをかけ、さらに強烈なプレッシャーが身を縮ませる。悪意や敵意のようなものは感じない。見ようとすることを許さない抵抗力だけだ。何か見られてはいけないものがあるのか。体を動かそうにも、思うように動かせない。指の先端に至るまで途轍もなく重かった。見ることも触れることもできないとは、一体何があるのか。そもそも、どうしてこんな状況になっているのか。
「どうして、そういえばさっきの真っ白な世界はどうなった」
冷静に考えてみれば、今の状況は色々と意味不明だ。今いる場所とさっきいた場所は確実に別だ。自分から動いた覚えはない。何なら瞼を閉じて開いたら別の場所だ。瞼を閉じる前、何か変わったことがないか。頭を捻って一つ思い当たった。記憶が無くなっているため変わったことしかないが、体が薄れるのは明らかに異常現象だろう。自分で歩いたわけではなく、体が薄れ、次の瞬間には別の場所にいる。まとめてみると結論は一つだった。
「では、テレポートか」
突拍子も無さ過ぎて笑えてくるが、全く異なる世界に移動したと考えるほか説明できない。何をトリガーに発動するのか不明だし、そんな魔法のような現象が存在するのかも分からない。だからこの現状を説明できる説が今後現れたらそちらを採用するとして、とりあえず今はこの線で行くとする。
異なる世界の旅。もし、その考察が正しいのなら、この世界は何だ。未だに何も起きない。いや、こちらから行動しなければならないのだろう。先ほどの世界もこちらから行動しなかったからか、何も起きなかった。もし、テレポートの発動が時間によるものなら、一秒も無駄には出来ない。なぜか分からないがこの霧の向こうにはとても興味がある。
男は再びこの世界と向き合った。
重たい体を気合で動かす。何か掴めるものはないかと、手を伸ばした。石のような足に力を入れる。何でもいいから見えないかと目を見開く。抗って、この霧の先にあるものを見たい。男は魅入られたように、この霧の世界に執着を募らせる。ここに男が探していた何かがあるのではないかと、自身が何かを探していたことを思い出してもいないのに、そう思っていた。
一歩前へ。風のような抵抗が強まり、精神的なプレッシャーはどんどん重くなる。
さらに前へ。抵抗の風は壁の如く、プレッシャーは鎖の如く体に巻き付きこれ以上の進行を妨害する。思わず左目が閉じてしまう。こいつはまだまだ臆病らしい。
この先へ。それでも、霧の、向こうへ。
その執念の結末は、最後まで開けていた右目の破裂と共に幕を閉じた。
「あっ」
だが、男の意識は右目の破裂ではなく、薄れゆく意識でもなく、意識と共に薄れ始めた体でもないものに向けられていた。
視力を失う直前、なにか を 観た 気が する。
薄れる意識がズタズタの記憶を見つけた。誰だろうか。焚火を挟んで、向こう側に誰かがいる。誰だろうか。男か女かも分からない、彼あるいは彼女と僕は何か喋っている。そうだ、たしか、我々は平和な世界を夢見た。互いに理想を語り合って、笑いあった、気がする。顔が思い出せない。話の内容も詳細に出てこない。でも、きっとこの人は、僕の友だ。
誓いは此処に。私を突き動かすは一つの解。人よ、私は願う。例え、それが儚く小さな希望でも、それを糧に前に進めると。例え、それがどれだけ強大でも、手を取り合い、背中を預け合うことを。
私は人類を愛している。だからこれは、恨みや憎しみではない。希望を教えてくれた。助けてくれた。彼らには感謝しかない。だから、私は彼らの幸福を探すのだ。
全人類の皆様お元気ですか。私は皆様にお詫びしなければならない。申し訳ございません。許してくれとは言いません。恨んでいいです。憎んでいいです。それだけのことを今から行うのですから。死んでください。より良い、未来のために。
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