第1話 ムーン・セレーナ I
「ムーン、あんたは産まれちゃいけない人間なんだよ」
私を育ててくれる祖母からの言葉。いつも聞く言葉。ムーンは泥と埃でボロボロになった腕をぐいと掴まれ、「いつもの」部屋に引きずられていった。
「あんたは本当にグズでノロマだね!たったの1時間で家の掃除も終わらないなんて!!」
ガチャガチャと無造作に鍵の束から部屋の鍵を探し、部屋の扉を開ける。祖母の太い腕は弧を描き、その流れに沿って少女は部屋の奥へと押し込まれた。
埃の臭い
「本当に、あんたの母親は余計な荷物を残していきやがったよ!!はぁ、王宮が作りやがったクソみたいな法律のせいであんたを育てなきゃいけないのが本当に腹立たしいよ!!」
「腕を出しな」
細い腕が掴まれる。醜い素肌が晒される。
「・・・・!!!」
声にならない痛みとともに、鋭い鞭が襲いかかる
ーー果たして、私は、忌み嫌われるべき存在なのだろうか。物心ついた時には私のことが嫌いな祖母の手を握って、私に対する気持ちをずっと述べていた。
わたしって いるのかな?
けれど自然と「死にたい」と自ら命を断つような意思は全く生まれなかった。
死ぬ前に、母の存在を知りたかった
街に出させてもらえる日、私のことを昔から知っているという市場のおじいさんに母のことを聞いてみた。すると、彼は少し顔を青ざめて、眼球をしきりに動かして、右腕で顎髭を撫で出して、「知らないよ」と、わざと冷静に言ったように見えた。パン屋のおばさんも、新聞売りのおじさんも、みんな”癖”は違ったけれど、同じ行動を示していた。
おかあさんって だれですか?
今日は特に痛かったなぁ。わからないまま死んでゆくのかな?体が冷たくて、けれど鞭で打たれた部分は温かくて、チグハグしていて、瞼が重くて、何もかんがえられなくて。。。。
ーーーーーーいったい、何時間経ったのだろう
目を覚ますと、そこは森の中だった
「ヤァヤァ、ムーンさん。お目覚めですかい?」
腰に短剣を携えた赤髪の青年が、少し屈んで私を覗き込んだ。話し方に少しクセがある。
「・・・・だれですか」
「おや!こいつぁ驚いたァ。言葉が話せるんですね!」
彼はニコニコ笑顔を見せながら私の手を取り上下にブンブン振ったが、しばらくして落ち着いたのか途端にスッと真顔に戻って腕を離した
「失礼いたしました。私はウェールズと申します。ランブリカ王国の騎士をさせていただいております」
祭典や凱旋パレードの日以外は滅多にお目にかかれない王宮の騎士が、なぜ一般庶民の私に膝をついて挨拶をしているのだろうか
「では、いきましょうかお嬢様」
すると彼は徐に制服の胸ポケットから薄い金属の板のようなものを取り出し、画面をタップした。
「え」
彼の髪が揺れる
私の服が揺れる
そして。森の中にいたはずの私は白い城の前に移動した
マネーフィクスファンタジア パンプキン @yu-shapanke-ki
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