第十一話 夜の受付嬢


「あの、ジェランさん。大変ご迷惑をおかけして、申し訳ありません」


 頭を深々と下げる受付嬢に、遠慮がちにジェランはとめた。


「やめてください。俺は自分に降り掛かった火の粉を払っただけです」

「でも」

「それから安心してください。上司には、あなたのことは言っていませんから。全部俺が起こしたことだってしておきました」

「そんな、わたしが頼んだようなものなのに」

「いいですから、気になさらずに」

「いいえ、気が済みません」


 祈るように両手を絡めて、ジェランを見つめてくる。

 和風を感じさせる物腰の柔らかさとは相反する、変幻自在の砲弾たちに、どうしても視線がいってしまう。

 受付嬢はそんな視線に鈍感なのか、さらに迫った。


「ですから、お礼をさせてください」

「お礼なら、いい仕事を回していただければそれで」

「いえ!」


 なにか意を決したように首を振り、さらに迫ってきた。

 鼻孔にシトラスの香りがくすぐってくる。

 そしてジェランの手が、柔らかな両手に包まれた。

 さらにあろうことか、さきほどまであった聖域に引き寄せてきた。なんという柔らかさだ。手の心地よさが消し飛んでいく。暴力的な中にも、優しさや真面目さや淫らさが伝わってくる。

 童貞でなくても、一発で死んでしまう破壊力があった。


「ジェランさん、今夜は空いていますか?」


 どんな硬派な男も軟化させてしまう眼差しに、ジェランは二つ返事で頷いてしまった。

 帰ったとき、ミフィリアに全て話した。

 気まずくなるのは分かっているが、隠してバレたらどんな呪詛をかけられるか分からない。今までの彼女の行動からして、ヤンデレな性格がちらちら見え隠れしていた。

 アルスを救う前に、ミフィリアに殺されてしまうのだけは避けたかった。

 すると、ミフィリアはにっこりとしていった。


「ジェラン、正妻も決めてないのにもう三人目なの? あなた、英雄の素質があるのかもね」

「いやいや、待ってくれ。娶るなんて言ったつもりはないぞ」

「どうして汗が吹き出ているの? あ、そっか。蒸し暑いものね」

「悪かったから。謝るから。まさか一度助けただけであんなに迫られるなんて」

「その人、おっぱい大きいでしょ」

「なぜそれを? は!?」

「やっぱり。いつもわたしの胸を夢中で吸い付くものね」

「形はきっとミフィリアが勝ってるぞ。というか、君のような大きいのに形が良い女性が帝国にいるのか?」

「広い国ですからねぇ。ああ、これから何人ライバルが増えるのかしら」


 といった修羅場のほうがまだマシな出来事を乗り越えて、小洒落た軒がつらなう地区にやってきた。

 ジェランはタキシードを着ている。

 待つこと十分。

 爽やかな夜風とともに、艶やかな女性があらわれた。

 驚いたことに、着物を着ている。


「こ、こんばんは、マユさん。とても良く似合ってますよ」

「こんばんは、ジェランさん。ありがとうございます、東地区に遊びに行った時、ひと目で気に入って、その、とっておきのときに着ようって、着付けの練習してました」


 帝国はかなり広い。

 様々な国の集合体だから、「帝国」なのである。

 東地区は、日本のような東洋文化が盛んらしい。別に西が日本文化でもいい気もするが、それはお約束というものだろう。

 ゲームでは適当な3DCGで質感もよくなかった。

 こうして本物を目の当たりにすると、懐かしさがこみ上げてくる。

 マユと呼んだ受付嬢が、ジェランを気遣った。


「どうかなさいましたか? どこか変でしょうか」

「いいえ、マユさんにぴったりなドレスですよ」

「ありがとうございます。袖の大きなちょうちょがお気に入りなんです」


 振り袖というのだろうか。

 艶やかな着物の長い袖の左に蝶と右に芍薬シャクヤクが描かれていた。

 初夏を思わせる柄であり、見ていると心が落ち着いてくる。

 それではと、予約した店に入った。

 平民が入ることのできる、数少ない高級料亭である。

 テーブルについたジェランたちは、食前酒でくつろぎ、前菜を食べた。

 食欲が湧いてくる味付けで、なかなかに分かっているコースだ。


 そして、食べ終わった頃に新しい食事が運ばれてくる。

 このサービスの質は日本人なみだ。

 主菜は揚げた魚のあんかけに辛めのリゾットだった。

 食べるとあんと魚がよく絡んで香ばしい。

 しかしやや淡白なので飽きがくる。そこでこのリゾットを食べると新しい刺激となって食欲をそそる。

 とてもバランスのいい主菜だ。

 マユはナイフで切り分けた魚をフォークにさして、ゆっくりと口に運ぶ。唇についたソースをぺろりと舐めると、つややかなリップに潤いが加わる。

 食事をする女性がこんなにエロいとは、今まで思ったこともなかった。

 

「どうかされましたか?」


 熱い視線に気がついたマユが、水を一口飲んでから聞いてきた。

 ジェランは乾いた笑いでごまかした。


「いや、その。なんでもありません」

「友達とお昼食べる時、みんなわたしを見るんですよ。食べ方がエッチだって。そんな事あるわけないのに」


 そんなことありません、もうギンギンです。

 と言いたくなったのを、ブドウ酒と一緒に飲み込んだ。

 それがよかったのか、緊張が少しだけ和らいでいく。

 冷たいスープでディナーが締められた。

 もちろん支払いはジェランがすべて持つことになっていた。

 それでもマユが少しは出させてくださいと言ってくれたが、丁重に断った。

 テーブルに来た店員から伝票ホルダーがやってきた。

 ゆっくりと開いた時、店員が合計金額を言ってきた。


「三◯◯ドルガになります」

「ああ、ちゃんと用意してあるよ。ヴァンプレットは?」

「伝票ホルダーですよ。初めてのご来店なのですね、ありがとうございます」


 驚いてホルダーをみると、一センチほどの厚みがあった。

 なるほどと思い、カバーをかぶせてあった聖剣の柄に触れて支払いを済ませた。

 チップを支払おうとしたが、それは手のひらを見せられて無言で断られた。


「十分にお給料を頂いておりますので、うちでは必要ありません」


 お店をでて、しばらく歩くことになった。

 マユは笑顔で、ごちそうさまでした。と言ってきた。


「でも、お礼をしたかったのに奢ってもらうだなんて。悪い気がします」

「気にしないでください。マユさんのとの食事は楽しかったですよ」

「わたしもです。でも、それではわたしの……気が済みません。この近くに自宅があって、一人暮らしなんです」

「マユさん」

「わたし、こういうの初めてで! あの、その、いつも誰かを誘っているわけじゃ」


 そんなの耳まで顔を真っ赤にして目をうろうろさせている様子で、バレバレだ。

 女がウソを付くときは目線をじっと合わせてくるものだ。手練れならその限りじゃないが、マユにはそんな気配は感じられない。

 最悪の事も考えて、ステータスを見ておくか?


《名前:マユ=レヴフォニア 性別:魔女 年齢:二十歳 

生命力 C

筋力 C

素早さC

器用さB

知性 A

魔素効率 S/100%

スキル……第ニ,三階位無詠唱A・魔素索敵A・事務処理B

>>>次のページ>>>

性経験なし……》


 ここから先は、彼女の性癖とか癖とか過去が読めてしまうので、自重した。

 聖神教会の関係者らしき痕跡もないし、本当にギルドの受付嬢だ。

 ただ、一点気になるところがある。

 ――性別が魔女ってなんだこれ?

 魔女と言えば魔法少女とか色々しっている。魔法を使って何でもできる。けど代償を払わされる……、これはさすがに破滅系の見過ぎだ。


 この世界には普通に魔法が存在するし、魔女がいてもおかしくない。

 見た目はどこからどう見ても女性だ。

 着物の上からでもわかる膨らみが偽乳だったら、童貞でなくても泣いてしまう。

 だからといって、性別を聞くのは失礼なのでそのままマユの自宅にたどり着いてしまった。


 ジェランもまんざらではない。

 ミフィリアには話したがアルスには言っていなかった。

 貴族である以上仕方がない。通信すらよこすなと釘を差されている以上、事後報告になるか。

 家は片付いており、女性らしいというより簡素で家具が必要最低限並んだものだ。

 ジェランはマユに促されて、部屋に入った。

 すると、後ろからがっしりと羽交い締めにされた。

 そのまま胸板を撫でてくる。

 背中にやわかなものがあたり、否応なしに愚息が固くなっていく。

 それからジェランのお尻に硬い感触があたり、びっくりして振り返った。


「え!?」

「ごめんなさい、黙ってて。わたし、魔女なんです」

「魔女って性別の?」

「はい。魔女は初めてですか?」

「はい」


 そもそもこの世界における魔女の存在すら知らない。

 素直にそう答えると、マユは着物の帯を緩めて肌を露わにした。

 その下には、ジェランの愚息を超える怒張が彼女の乳房の目の前でビクビクといきり立っていたのだ。


「わたし、心は女性です。それに魔女は、女性のアソコもちゃんと付いているんです」

「ふたなり!?」


 男性器と女性器を両方兼ね備えた存在。一部にはその愛好家がいると聞いたことがある。

 実際のふたりなりはここまで竿が大きいわけではないらしいが、そんなものは前世の常識だ。

 目の前にあるのは、ジェランが子供に思えてしまうほどの竿と見事に柔らかく垂れ下がった乳房だった。

 不安そうな顔でマユがうつむいた。


「やっぱり、魔女はお嫌いですか。そうですよね、ついていない普通の女の子のほうがいいですよね」

「そんなことはありません」


 ジェランが竿を握って答えた。

 手からすごい熱さが伝わってくる。

 それを下へ滑らせていくと、とろけるように濡れた秘裂にたどり着いた。男には必ず付いている睾丸がなかった。

 女性の蜜の暖かさにほっとすると、同時にジェランの竿も固くなっていく。

 ジェランは、鼻が当たる距離までマユに迫った。


「俺はマユさんを受け入れます」


 舌を絡めたキスをかわすと、マユは「嬉しい」と涙を滴らせた。

 シーツが激しく乱れた。

 そして、日差しの強い早朝。

 目が覚めると、マユは置き手紙だけを残して姿を消していた。


《お仕事に行ってきます。鍵をかけたら、ギルドに来てください。――愛しのジェランへ。マユ》


 ジェランは自分の尻を撫でながら、ほっとしていた。

 彼女は、ずっと女性役に徹してくれていた。

 あの巨大なモノを使って、ジェランを貫くことは一度もしなかった。

 ジェランは申し訳なく思い、自分より太いものを口で愛撫した。そのとき「やっぱり女のほうが感じます」と、頬を滑らせて逆に加えてくれた。

 どうやら彼女は、自分の竿にあまりこだわりがないようだった。

 一晩中、後ろの処女を奪われるのではないかと、冷や冷やしていた。


 これで三人目の彼女が出来てしまったことになる。

 まさか転生してからハーレムルートに入るとは、思ってもみなかった。

 これから三人の女を平等に愛することができるのか?

 とにかく、今はアルスの死亡フラグを回避しなければならない。

 作り置きしてくれていた朝食を食べて、片付けたあとに鍵をかけた。

 ギルドに顔を出すと、マユがその場で手をふって迎えてくれた。

 するとあらゆる方向から、鋭い視線で針のむしろにされてしまう。


「なんであいつだけ」

「あんのやろう、巨乳の彼女だけじゃなくてマユちゃんまで」

「ざけんな! ヤリチン! 顔面格差反対!」


 散々の言われようだが、最後だけは納得行かない。ジェランの顔はひいき目に見てもイケメンからハズレているし、顔だけなら昨日来ていたリュークのほうが、悔しいが上だ。

 よくいるモブ顔と大差ないのに、何を言っているんだとそっと周りを見てみた。


「あ、ごめん」


 ジェランは聞こえない声で、小さく謝った。

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