第2話 真っ白な世界で

 私は目を覚まし、体を起こそうとする

「お元気ですか?」と誰かに聞かれる

 声からして若い女性だろうか?

「いえ、少し気だるいです」と私は返す

「まだ、安静にして居てくださいね

 手術が成功して

 嬉しい気持ちはわかりますが」

 はぁとため息をついて、憂鬱だなぁ

 と呟いた。


 この世には色がない 

 雨が降った後も虹はかからず

 横断歩道はなくなり、車は走らなくなった

 誰もが手元の携帯を見て色を探す

 肩が当たったとしても

 手元からは目を離さない

 これらはすべて僕の妄想だ

 真っ白い空間で暇を持て余し

 そんな世界は面白いだろうと考えて居た

 ただ歩く音がするだが

 車の走る音は聞こえないそれだけは事実だ

 一人ではないが

 孤独を感じるには十分であった

 この生活が40〜50日くらい続いたと感じた

 あくまで体感の話で一週間かもしれないし

 三日くらいかもしれない

 ただ一つ不思議な事は

 自分が何かさえわからないことだ

 ただ意思がはっきりしたら

 この世には色がないことと一般常識だけが

 記憶に残っていた 

 自分が何をしていたのかも分からない

 ただ性別は男だろう 

 喉仏の感触があり声が低かったからだ

 そしてここが何処なのかも分からない

 ただ風が一切吹かないことから

 ここは室内だと仮定する

 だとしたらもう一つ不思議なことがある

 何故誰も声をかけないのだろうか

 僕だけが色が見えないかもしれないのに

 例えば警備員だ 

 朝も昼も夜もここにいるとしたら

 不審者だと通報されるのは当たり前だろう

 ただそれが起こらないのは

 この世から色が無くなったと言うのは

 本当なのだろう

 そんな不思議を解決できない時に

 ポンポンと肩を叩かれ、

「すいません」と声をかけられた

 その人はコホコホと咳をしながら

「、、、は何処ですか?」

「そこなら階段を降りて左ですよ」と

 言葉が勝手に口を滑り、

 あるはずのない階段を指す

 彼女は「ありがとうございます」と

 咳をしながら消え入るような声で

 彼女は去っていった

 聞こえ辛かったが彼女が歩くたび

 キュッキュッとなっていた

 その音を聞くたび僕の胸は締め付けられた


 僕は階段のことなんて知らないはずなのに

 冷静になれず息が上がり目を白黒させる

 その時「大丈夫ですか? 」

 爽やかな男の人の声がした 

「ゆっくり呼吸をしましょう

 さあ僕に合わせてください。」

 少しして楽に呼吸ができるようになった

「ありがとうございます」と

 僕は彼にお礼を伝えた

「今度は、、、いえ当たり前のことなので

 それともし良かったら。。。

 の場所を教えてくれませんか?」

 彼は何かを隠すようにある場所を尋ねた

 また言葉は口を滑り

「それならこの階段を上がって右ですよ」

 そう言って僕はまたあるはずのない

 階段を指す

「ありがとうございます 

 それでは体調にはお気をつけて」

 そう言って彼は登って行った

 彼は心が重くなるような色で

 人の形に見えた

 なんで色が見えてるんだ?

 僕は一瞬だけ不思議に思った


 僕は頭を悩ました 自分の知らないことが

 口を滑りそしてそれを正しいと

 認識しているのは何故か

 いくら頭を回転させても答えは出なかったが

 一つの違和感を思い出した

 よくよく考えてみたら

 女性に色がないのは当たり前だが

 何故男性には色があったのか

 違和感を覚えたが何故そうなっているかを

 理解することはできなかった


 不思議が解決できず、

 ため息をついていると、

 一人が少し話を

「少し世間話でもどうですか?

 聞いてもらっていいですか?」

 と元気よく尋ねてきた

 もう一人の男性が「迷惑だろ

 道を聞けばいいだけだろ」と耳打ちをする

 声から推測して

 若い二人の男女は最初から色がついておらず

 姿は確認できなかった

 ただ声が大きいのか

 ひそひそ声は僕にも聞こえていた

 そして二人はそれに気づいてない様子だった

 僕は大して考えず

「いいですよ」と答えていた

 じゃあ「お願いします」と

 彼女の声は跳ねて楽しそうであった

 彼の方はため息をつき

「まただよ」と呆れていた

 じゃあ話しますね 

「少し長くなるので

 絶対に寝ないでくださいね!」

「大丈夫ですよ」僕は苦笑いで返した

「わたしたちは、、、。」

 三十分くらい経っただろうか

 内容は明るく彼との惚気話や喧嘩した話

 だったのにも関わらず

 彼女の声はだんだんと元気を失っていった

 彼はため息をつき

「言っただろ」と苛立ちながら

 突き刺すように彼女に言う

「ごめんね」と先ほどのテンションが

 嘘のように落ち込んでいた

「俺が代わりに話すよ」

「ごめんね、ごめんね、」

 彼女は彼でも僕でもない誰かに謝っていた

 彼は深呼吸をして、話始めた

「俺らはあの日人助けをしたんだ

 サイレンがなって大量の水が来る前に

 悲鳴が聞こえて体が勝手に動いてな

 それに対しては後悔もないし

 むしろ良かったって思ってる

 けれど自分のを残してしまったのと

 許してくれるだろうって思ったことが

 今でも心に残っているんだよ、

 でももしあそこで見逃す選択肢をしたら

 俺らは幸せだと

 言われる日々を過ごせたのかもしれない

 残してしまったものに

 背中は見せれたんだろうか

 俺らだけが幸せのまま

 死んでいって良いのか」

 彼の声は震えていて、

 今にも泣いてしまいそうだった

「俺らは間違っていたんですかね?

 この先手を合わせてもらえるんですかね?」

「それは僕たちが

 決めることではありませんし、

 それを願ってしまったら

 自分自身を否定することになります。

 だから、、、」この先何を言っても

 彼らの傷にしかならないと思い、

 言葉に詰まった。

「君たちは

 階段を降りて左に行ってください」

 僕はまたあるはずのない階段を指す

「やっぱり 間違ったのかな」

 彼らは泣きながら去っていった

 彼らの足取りは重かった

 上の方からチープなおもちゃの音がした

 ヒーローの必殺技だろうか

 ジャキンジャキンと

 その音は僕を責めているような気がした


 ピッピッピっおもちゃの靴の足音がする

「どっちにいったら良いの?」

 声が幼い女の子が不安そうに言う

「そこの階段を上がって右だよ

 次は一人で行けるかな?」

 僕はあったこともない子に

 微笑みかけ、頭を撫でようとしていたが

 咄嗟に手を止め動きが固まった

 その子は少し不思議そうな顔をした後

「うん、バイバイ、ありがとう」

 と言いお辞儀をしてその場を去った

 その子には色があり姿を確認できた

 その子の後ろには薄暗い色がついていた

 僕はそれが少し心配になった

 それとは違う理由で

 その子が階段を上がったあと

 僕は、しばらくの間泣いていた

 泣いた理由はわからなかったが、

 ただ嬉しくて泣かずにはいられなかった


「やっほー何してるの?」

「久しぶり」

「本当だよ、さっきの奴全て聞いてたよ」

「それは恥ずかしいな」

 彼女には色が目以外はあった

「君が最後なんだね?」

 僕の口は先程までのように勝手に動くが

 僕はそれが正しい行動であると

 なんとなく感じた

 そして、彼女には懐かしさを感じた

「そうだね でもその前に君がいるでしょ」

「ああ、なるほどそういうことか」

 僕は少しずつ記憶が戻り頭を抱える

「もういいよ、多分一生立ち直れないけど

 君は色を残してくれたでしょ?」

 僕には彼女が

 悲しそうに笑っていると感じた。

 だから僕は

 言い訳じみたことを言ってしまった

「良いことをしたら

 みんなが褒めてくれるって

 だからさ許してくれるって感じたんだ」

「それくらい知ってるって、

 でもあの時見えないのは

 あの子もそうだけど私もだったんだよ

 だから償いとしてさぁ

 あと1日くらい。。。さ」

「ごめんな、それは出来ないんだよ」

「わかってるって、

 全く昔から大真面目で冗談が通じないな」

 彼女はクルクルと周りへへへと笑う

「こんな時くらいは大真面目

 じゃないとやってられないだろ?」

「また屁理屈を言う」

 彼女はハリセンボンのように頬を膨らます

 その後にニコって笑い、

「でもそんな君だから

 ここまで待ってたんだよ

 一言だけ伝えたくて」

 彼女は一呼吸おき何かを堪えるように

 声のトーンを落として話し始める

「私は多分君のことを許さないよ」

「だろうね、過程はどうあれ

 君を置いていったことに変わりはない

 だから許されようと思ってない、

 今日僕たちが呼ばれたのは、

 それを再確認するためだ」

「嘘だよそれくらい察してよ」

「半分くらいは本当だろ」

「長年一緒にいただけはあるね」

 彼女はふふっと笑う

 その顔は今日見た中で1番の笑顔であった

 僕は両目に

 それまでにはなかった温かみを感じた

 「やっぱりそうか、

  これにも少しずつ慣れてきたよ、

  真っ暗闇だったのが

  やっと君の色を見れたよ、

  だから私は君を許さない

  一生かけて償わせるからね」

「だから、それは、、、」

 なにも気の利く言葉が思いつかなかったので

「わかったよ」と僕は彼女に手を差し出した

 彼女は握り返してくれた

 「本当に最後にお願いだ

  あい言葉を覚えておいてくれ

  僕は多分これから

  色が見えなくなるだろうから」

 「約束だからね、」彼女の泣き声と鼻水の

  音が一緒に聞こえた。 

  握手をし終えたあと僕の色の一部が

  唯一色がなかった彼女の目に移った。

  じゃあまた、手を振り別れた 

  振り向くことなどしたくなかった

  今の彼女にはきっと見えているから

  精一杯の虚勢を張って僕は、

  その場から去り階段を降り左へ向かった

  

「朝ですよ」という声と共に

 私は目を覚ます

 ふぁと欠伸をし背伸びをする

 「朝ごはんですよ」

 声の主はそう言い

 ベッドの前のカーテンから顔を覗かせる

「大丈夫ですか?」

 声の主はトレイをそっと置き私に近づく

「どこが痛いところとかありませんか」

 私はふふっと笑い

「大丈夫ですよ、

 懐かしい人と会ったんです

 そういえば今日で49日でしたから」

 声の主はぽかんとし

「ならよかったです」と言い去っていった

 私は朝ごはんを食べた後

 ジュースを買うために自販機へ向かうが

 欲しいものがなかったため

 看護師さんに少しだけと頼み購買へ向かった

 エレベーターに乗り1階のボタンを押す

 ドアが閉まり

 エレベーターは下の階へと向かっていた

 3階で止まり一人の男性と男の子と女の子の

 三人が入ってきた

 男の子と女の子のは

 元気が有り余っているようで

 男性を困らしており

 私に対してうるさくすみませんと頭を下げた

 私はその光景が微笑ましく思った

 そして

 私はそんな色が見える世界に感謝をし、

 少しだけ憎しみを持った。

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mohoumono短編集 @mohoumono

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