第4話「烏と猫の吸血鬼」

金髪翠眼の騎士。

必ずしも武器が剣とは限らない。剣は常に携えているがそれがサブウェポンである

騎士も存在する。その一人がこの騎士、エリオ・ヴェルディ。

騎士団の中でも弓に関して高い実力を持っている。但し、剣による戦いが弱いという

わけでは無い。


「面目ありません。騎士団長…」

「いいや、俺も国の政治を担う老人たちも気が付いていなかった。リアナ殿は

気が付いていたらしいがな…」


騎士団長は苦笑して悠雅に茶を飲む魔術師を横目で見る。


「老人たちはほとんど腐っているからね。適当な理由を付けて脱落者として

名前を出すだけさ。何も心配する必要は無い」


リアナは席を立つ。


「今はゆっくりしていくと良い。ケジメはしっかり付けてもらうけどね」

「…はい」


リアナの鋭い言葉にエリオは頷く。体中にはまだ包帯が何重にも巻かれており

部屋も借りて療養中だ。


「メルヴィナ様、貴方は不思議な方ですね」


メルヴィナは首を傾げた。


「貴方の周りには色んな人が集まってきます。集まってきた人たちは自然と貴女を

大切に思うようになる。こういう言い方が良いか分かりませんが、貴方は

この選挙の候補者の中で最も人心掌握に長けており、皆が望む優しさを持っている」

「人心掌握って…なんか悪役みたい」

「やっぱり、そういう風に聞こえてしまいますよね。でも良い意味で、ですよ?

誰かに無理強いさせられるでも無く自分の意思で従いたくなるような包容力を

持っているんです」


そういった長所は自分では気が付くことが出来ない。他人に言われて初めてその

長所を知るのだ。きっと皆そうだ。短所ばかりを見て自分の事を過小評価する。

それではちっとも成長できない。成長するための要素の一つが周りの評価。

それによっては良い方向にも伸びるし、悪い方向にも伸びる。


「そっか、そうなんだ。そんなことは初めて言われたんだ。教えてくれて

ありがとうエリオ」

「…いいえ。お気になさらずに」


メルヴィナが部屋を出てからエリオは何かを考える。

黒髪に青い眼…。

次に部屋に入ってきたのはアスラン・コルニクス。メルヴィナに仕える

使用人だ。包帯を変えに来たらしい。


「貴方、ですよね。牢獄に来た烏は」


彼は何も言わないでせっせと包帯を取り換えていた。


「助かりました。ありがとうございました」

「・・・・礼なら、メルヴィナ様に」


エリオはアスランの正体について触れる。


「貴方は―」

「―」



その夜に騒動が起きた。


「確かにこれは吸血鬼の噛み方だね頸動脈からガブリといかれたか」


リアナは苦い顔をする。人が死んだことに悲しむ人が多い中で

一人だけ違う意味で顔を真っ青にしている人物がいた。

リアナとアスラン、二人だけが一室に残った。


「よく耐えたね」

「あの人の前だ。多少の我慢なら出来る。…もう良いか。仕事がある」


アスランはすぐに部屋を出て行こうとする。そんな彼の背中にリアナは

言葉を投げる。


「そろそろ潮時かもしれないよ。君の嘘も、消える時だ」


反応は無かった。さっさと外に出て行った烏はどんなことを想って

この声を聴いていたのだろう。彼の心の中は恐怖が入り混じっていた。

もし、自分が…自分が吸血鬼だと彼女たちが知ったら?

きっとこんな生活は送れなくなる。

そう思わせるために敵は事件を起こしたのだ。


「あ、あのアスランさん」


何処かしどろもどろに接してくるミーニャ・アルエットにアスランは目を向けた。

見つめられて緊張するミーニャは重い口を開いた。


「顔色が悪いですよ?今日は少し休んだ方が良いのでは…」

「いや、大丈夫だ。仕事が多いし、自分だけ休むわけにはいかない」


それ以上は言えなかった。というよりアスランが言わせなかった。

だけどやはりその態度で分かってしまった。

言葉を掛けてあげたいのに、自分には勇気が無かった。

こんなことも出来ないのか。頼りにしていた人にたった一言、告げるだけで

良かったのに何も言えないとは。

夜になって、全員が一つのテーブルに集まっている中で一人だけ来ていない。


「アスランは?」

「何処かに行ってしまいまして…で、でも!すぐに戻るから先に食べててくれと

アスランさんが」


その言葉にメルヴィナは首を大きく横に振った。


「食べない。さぁ、全員でカチコミだよ!!!」

「言い方…ェ」


少し言い方は悪いが、要は探しに行って連れ帰りに行こうという意味だ。

全員が席を立った。

その頃、アスランはある吸血鬼と対峙していた。


「久しぶりだな。どうしたんだよ、随分とまぁ甘くなって」


同じようなワインレッドの眼を持っている。そして人懐っこい笑みを浮かべる

青年はアスランに近寄った。ファレル・フェーレースは容赦なくアスランの

脇腹に銀のナイフを突き刺した。


「日光には強くても銀には極端に弱い、知らないと思ったか?」


膝をついたアスランを見下ろすファレルは嘲笑する。


「昔だったらこんな手には引っかからなかったはずだぜ。人間になんて

従うから弱くなるんだよ」


次の攻撃は避けたがすぐにフラつき、再び膝を地面についた。彼の言う通り

アスランは日光こそ克服しているがその代わりに銀に弱くなってしまった。

屋敷にも銀が使われたナイフやフォークもある。それらを洗う際は全て

ミーニャに任せている。


「俺よりも銀に弱いお前じゃ、その傷を塞ぐのにどれぐらい必要なんだろうな?」

「ひつ、よう…?」

「分かってるくせに。俺たち吸血鬼は人間の血で生きながらえてるようなもんだろ。

これ、必要だってんなら譲っても良いぜ?」


彼がちらつかせたのは紅い液体、本物の人間の血だった。

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