第13話 これから

 モンスターが示した突然の行動に、タロウは唖然とした。

「マックス!」

 駆け出そうとしたヒューの肩を反射的に掴む。

「止めろ! あれはやばいって」

「でも、マックスが!」

「マックスは死んだ」

 ヒューに睨まれ、タロウは不服そうに見返す。本当のことを言ったまでだ。

 タロウは、モンスターに視線を戻し、自分の目を疑った。モンスターの口が、裂けそうなほど開き、焼き鳥でも食べるかのように、マックスの上半身を食いちぎった。モンスターは咀嚼し、マックスの血で口の周りを赤くしながら、再び被りつこうとした。

「止めろっ!」

 ヒューの怒声が空間に響く。子供とは思えないドスの利いた声に、タロウは思わず、手を放してしまう。ヒューはゆっくりとモンスターに歩み寄った。タロウは再び肩を掴もうとした。が、モンスターの様子を見て、困惑する。モンスターは、明らかにヒューを恐れていた。

(どういうことだ?)

 近づくヒューから逃れるように、モンスターはじりじりと下がった。そして、タロウに気づき、にやりと笑う。――嫌な予感がした。瞬間、モンスターが一瞬で間合いを詰め、タロウの目の前に迫った。

(こうなっちゃうのねっ!)

 タロウも瞬間的に体が動き、モンスターが伸ばした両手を掴む。握り合い、にらみ合う。

(その自慢の握力で、俺の手も粉砕してくれねぇかなぁ!)

 と思ったが、先に悲鳴を上げたのは、モンスターの両手だった。タロウの甲が輝き、肉の泡が肩まで広がって、弾けた。

「ぎゃぁぁ」

 甲高い声を上げて、モンスターが退く。その両腕は、肩から無くなっていた。

(お前も期待外れか)

 タロウは呆れる。強そうなのは、雰囲気だけか。

「ぎゃぁぁ!」

 モンスターは叫んで、力む。肩の断面から新たな腕が生えてきた。

(やるじゃん)

 やはりこの敵は、やってくれそうな雰囲気がある。モンスターは力み続ける。「ぎゃぁぁ!」という気合とともに、両肩からさらに腕が生えた。4本の腕を振りかざし、阿修羅の如き形相で構える相手を見て、タロウは痺れた。

 そのとき、ゾッとするような寒気が走った。タロウはヒューを見て、息をのむ。マックスの死体のそばにたたずむヒューが、禍々しくてどす黒いオーラを放っていた。そのオーラに見覚えがある。アキトがまとっていたものに似ていた。

 ヒューはモンスターを睨んだ。

「許さないぞ」

 モンスターは怯え、逃げ出そうとした。ヒューは右手をモンスターに向け、呪文を唱えた。

「“燃えろ”」

 空気の爆ぜる音がして、豪速の火球が放たれた。火球はモンスターに直撃し、爆発する。肉体が吹き飛び、散らばった肉塊は炎に包まれ、燃える。

「マジかよ……」

 呆然とするタロウ。どさりとヒューが倒れ、タロウは慌てて、駆けよる。

「大丈夫か!?」

 ヒューの体を抱える。静かな寝息が聞こえた。気を失っただけのようだ。

 タロウはため息を吐いて、燃え続けるモンスターの肉片を眺めた。この敵なら、自分を殺してくれるかもしれないと思ったのだが、その期待も一瞬で灰になった。つくづく思い通りにならない人生である――。



 ヒューを背負ってタロウは歩き続けた。歩きながら、自分のこれからについて考える。

(本当は、さっさと死にたいんだけどな)

 それが、どれほど贅沢な悩みであるかは理解しているつもりだ。世の中には、行きたくても死んでいった人たちがいる。だから、そんな人たちのことを思えば、簡単に死にたいなんて思ってはいけないのだろう。しかしそれでも、生き続けることがつらいのだからしょうがない。

「はぁ……」

 ため息を吐くと、幸せが逃げると言うが、それなら、さっさと逃げてほしいものだ。

 前方から光が見えてきた。洞窟の終わりだ。その先に何があるかは全く想像できないが、どうせろくなことにはならないと思う。例えば、ヒューが魔法を使えた理由だって、よくわからない。そのままにしていたら大変な気はする。しかし、自分で考えるほどのやる気もないから、なるようになれと思いながら、タロウは光に向かって進んだ。

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陰キャでも活躍できる世界があるって本当ですか? 三口三大 @mi_gu_chi

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