☆3100突破感謝記念SS 闇風の事情

運動全般が苦手な俺にとって、体育の授業も、それを得意として水を得た魚のようになる連中も大嫌いだった。

だから俺はその分勉強に力を入れる事にした。

運動全般を諦めたと言って良い、それはまだ小学校に入学して3年の頃だった。


けれど運動ばかりで遊んでる馬鹿共が「勉強しろ」と言われるように、勉強にだけ励んでいれば今度は「運動しろ」と言われた。


「お友だちと一緒に仲良く遊びましょう?」


担任の先生からそう言われたが、必要性を感じなかった。


俺からすれば奴らは本当に馬鹿にしか見えなかった。

休み時間の度に外に駆け出していく、体育の授業ではやたらと張り切る。

運動の苦手な俺を明け透けに馬鹿にしてくる。

球技でチームを組めば最初から「戦力外扱い」だ。

ドッヂボールでは真っ先に狙われ、ボールを拾えば俺ではどうせ当てられないからという理由で必ずパスを要求される。

これはまだ良い、勝つために必要なんだと言われればまだ納得もいく。


出来ないならば、出来る奴の指示に従うのは仕方のない事だと学んだ。


けれどサッカー、お前はダメだ。


投げるのでもコントロールができないというのに、蹴ってコントロールなんぞ出来る訳がないだろう?

同じようにパスを要求されても「誰にパスしてんだ?」と皮肉を言われ馬鹿にされるという地獄、地元に少年サッカーチームが多く、そこに在籍している連中が多かったのも更にその地獄を深めるのに拍車をかけた。


一例として、まぐれでその少年サッカーチームに在籍する奴を止めてしまった過去の俺の話をしよう。


「お前何調子乗ってんだ?」というテンプレ台詞の後、執拗にタックルされ、足を引っかけられ、後ろから突き飛ばされ、その後は俺の顔面がゴールだったのか?と勘違いしそうになるほど力いっぱい蹴られたボールが飛んでくる。

全て先生の見ていないところで行われるのが質が悪い、もし目撃されたとしてもサッカーチーム所属の連中が口裏合わせをして大したことないことにされる。


得意なもので活躍して良い所を見せたい、なるほどその心理は理解できる。


だが、こんな連中と仲良く遊ぶ?そんなの不可能だろう?

出来る奴連れて来いよ。


ボールは友だち?馬鹿を言うな。


アレは普通に凶器だ。


同じく運動苦手なクラスメートと「どうか自分たちの所にボールが来ませんように」と祈り、怯え、震えていたんだ。

あんなもの俺にとっては爆発物と同じでしかない。


少林〇ッカー?俺の少年時代の日常でしたが何か?

アレこそがサッカーだろう?寧ろ何の違和感もなさすぎて、寸分違わず俺のトラウマを触発してくれたよ。





話を戻そう。



俺はその分勉学に打ち込むようになった。

運動で馬鹿にされる分、勉強で奴らを馬鹿にしようと思ったのだ。

性格が悪い?そうとでも思わなければやってられなかったんだ。


結果として勉強に励んだ俺はそうした連中とは離れた中学校に受験し、見事合格した。


そこからはまた新たな戦いの幕開けだった。


今度は運動だけの馬鹿共とは違う、勉強が出来る奴等との戦争だった。

こっちは正直言って楽しかった。

テストの点数一点までを争い、学年順位で鎬を削り合い、一喜一憂した。


けれど楽しかったのは最初の一、二年だけだった。


共に勉学に励んできた友人たちに、青い春が訪れ始めたのだ。

右を見ても左を見てもそれはもうキャッキャウフフと――――――。


――――――負けられない。

そんな事に現を抜かす奴らに負けるわけにはいかない。


そうして気付けば独りになっていた。


推薦も内定し、受験の必要も無くなった頃に出会ったのが『オズワールドファンタジー』だった。

最初は暇潰し、息抜き程度だったが暫くすると夢中になっていた。


〖世界大戦〗で第二位になってダンジョンを任される程になった。


俺の思い通りに創って良いとの事だったので、馬鹿の相手はしたくないから謎解きギミックをふんだんに盛り込んだダンジョンにした。

単純な戦闘をしたいだけならばアウグスタの所へ行けばいい。

没入感を求めるならオハナの所へ行けばいい。


俺は俺が認めた相手としか戦わない。


俺のダンジョンにある全てのギミックを解いて、俺のところまで辿り着いた者としか戦わない。


「そんなこと言ってるから閑古鳥が鳴いてるんですよ」


俺のダンジョン運営をサポートするAIのカンガがやれやれ感満載でそんな事を言ってきた。


「――――――行けばいいなんてカッコつけて言ってますけど、人気も実力も最早オハナ様のダンジョンには敵いませんし、最近ではあのアウグスタ様の所でさえも盛り返してきているんです。単純に見向きもされていないというのが当ダンジョンの正当な評価ではないでしょうか?」


良いだろう別に、俺は方針を変えるつもりなんて無い。


「はぁ。これから〖第二回世界大戦〗の戦果でまた新たにダンジョンを与えられるプレイヤー様も増えるはず…………ますます誰も来なくなりますよ?」


「解るヤツには解るはずだ。このダンジョンの良さが――――――」

「この期に及んでまだそんな事を言って………」



「たのもー!!」



ダンジョンの主である俺の部屋に一人のプレイヤーが入って来た。

見たところ人間族の女、装備もそれなりに整っている。


「………信じられません。闇風様の嫌がらせとしか思えない性格の歪んだ謎解きギミックの数々を突破して、態々此処まで来て下さるプレイヤー様が居るだなんて――――――」


遂に来たんだ。

俺の敵として向かい合うに相応しい相手が!!

あとカンガ、お前は少し言い方を考えろ。

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