☆3000突破感謝記念SS   ダークサイドオハナダンジョン(7番目の悪魔)

「待て!早まるなッ!」


ダンジョンに響き渡る声の主はゆっくりと、先ほど発した声の対象に向けてにじり寄る。

自然と唾を飲み込み、焦りを隠せていない顔に笑みを貼り付けようと必死だ。


「良い子だぁ………頼むからそのままで居てくれよぉ………」


最早気持ち悪さが限界突破している表情と声色で、今にも泣きそうな心情で慎重に歩を進める先に居るのは――――――。



…………7号だった。



その手には一振りの剣が握られていて、7号の悪癖を知っている者からすれば一目でこの状況が判るだろう。


嗚呼、7号があの剣を気に入ってしまったのだ。と――――――。


7号はダンジョンに挑んでいたプレイヤーの一人から隙を突いて剣を強奪、すぐさまとんずらしようとする7号を追いかけるプレイヤーとその仲間たちによる鬼ごっこが開始された。


「………何で装備出来ねぇのに剣になんて興味持ってんだ?」

「ダンジョンマスターからの指示で只の嫌がらせじゃない?」

「クソッ………地味だがなんて的確で効果的な嫌がらせなんだ」


仲間のプレイヤーたちが泣き笑いの表情を浮かべ7号に近付いて行くのを、固唾をのんで見守りつつそんな会話をしていた。

事実7号に剣を奪われるまで彼らは新たな階層へと挑もうかと考えていた。

しかし7号を追いかけている間に階層を幾つか下りてしまっていたのだ。

無論、オハナは7号に対してそんな指示は出していないのだが、彼らにそれを知る術もなく………結果オハナに対してのヘイトだけが高まっていく。


そんな状況をサンガだけは知っているが彼の興味はそんな処には無く、『何故オハナの事を第一に考える眷属たちが、オハナの名声に対してだけはこうも無頓着なのか?オハナの名を落とすことを平然と行うことが出来るのか?』だった。

しかし言ってしまえばそもそも意思疎通できるだけの自我が在る事自体がおかしいので、サンガの思考はいつも『オハナに関連することは出来るだけ考えない方が良い』と、彼の思考回路と演算能力、処理能力の平穏の為にもそう結論付けられているのだった。


――――――話を戻そう。


7号は今オハナダンジョンに幾つか点在する大穴、一度落ちてしまえば一階層までノンストップ。ちょっとやそっと鍛えた程度のHPと防御力では落下時のダメージに耐えられずに即死するものの一つ、その縁に立っていた。


………その剣を、いつでも大穴へ落とせるように構えながら。



此処で少し、システム的なお話をしよう。

現在この剣の所有者は7号へと移っている。

これは7号によって強奪された時点で、所有権の書き換えは行われてしまう。

そして7号を倒した者が、の次の所有権を得ることが出来るという仕組みだ。


では今現在剣の所有権を得ている7号が、もしもそれを捨ててしまったら………?


答えは、誰の物でもなくなる。

正確には所有者無しのダンジョンでの拾得物という扱いになってしまう。




だからこそ今、7号の持つ剣を奪われたプレイヤーは焦っている。


もしも7号を倒すよりも先に大穴へ捨てられてしまったとしたら………?


オハナダンジョン一階層はビギナープレイヤーたちの良い修業の場で、彼らの装備品なんて初期装備に毛が生えた程度の物ばかり。

そんな彼らの目の前に、オハナダンジョン中層へと上って来られる実力のあるプレイヤーが装備していた品が落ちているとなれば当然二度と返ってくることはないだろう。


コツコツとお金を貯めて昨日ようやく手にした剣だっただけに、奪われたプレイヤーは怒りを一瞬にして通り越してしまっていた。


「頼むからもう返してくれよぉ…………返してくれたら見逃すからさぁ………」


泣き笑うプレイヤーだが、その目は一瞬たりとも剣から離れない。


その情けなくも狂気に満ちたプレイヤーに、7号は怯む様子もない。

普通ならばこのまま膠着状態が続くと思えるだろうが、彼らはとても大事な事を忘れていた。


此処はオハナダンジョンだ――――――。


数々のプレイヤーたちが挑み、未だダンジョンマスターには誰一人辿り着けていない唯一のダンジョン。


そんな場所にプレイヤーが集まってじっとしているのは自殺行為に等しかった。


3号がダンジョン内特有のテレポートで突然現れ、そのまま彼らを奇襲。


その流れ弾が7号の持つ剣を直撃。


くるくると回転しながら剣は大穴へと落ちていく。


「ダアァァァァァァァァァァァッ――――――!!!!!!!!」


壊れた表情で剣を追って、奇声を上げながら自ら大穴に飛び込む元所有者。


「「「サァァァァァァァムッ!!!!」」」


3号の奇襲よりも、自分たちを置いて自ら大穴へと飛び込んでいった男(サム)に驚く仲間たち。

3号に狙われた彼らには勿論逃げ場など無く、あっという間に決着がついた。

あとにはすっきりした様子の3号と、気に入った剣を撃たれて手放すことを余儀なくされてしまった事に怒りポカポカと3号を叩く7号の姿だけだった。

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