☆2900突破感謝記念SS ダークサイドオハナダンジョン(闇の聖女と吸血鬼)
素人から玄人まで、幅広い層のプレイヤー達を餌食にしているオハナダンジョン。
その進化は留まる処を知らず、そこで雇われ働いている魔物たちの進化によって更にその危険度を増している。
それでも挑戦者が後を絶たないのはダンジョンマスターであるオハナの経営手腕が優れているから――――――などではない、断じてない。
順調に進める時は驚くほど快調に、けれど一度でもオハナ眷属と出会ってしまった時の圧倒的な絶望感、いつ何処でそんな理不尽な『死』と遭遇するかわからない一瞬も気を抜けない緊張感、ダンジョンメンバーとの手に汗握る死闘、それらが
オハナダンジョンに於いて到達階層を競うことに既に意味は無くなってきている。
如何にオハナ眷属たちの猛追を振り切るか、ダンジョンメンバーとの戦闘で生き残るか、眷属同士を合流させないか、最近ではこうした次元の話になってきている。
ダンジョンマスターであるオハナの処まで辿り着けなくとも、白熱した議論を交わす彼らは楽しそうだ。
オハナが最近になって完全な人型(?)へと進化したことで、〖勇者側〗である彼らにも変化があった。
賞金首として冒険者ギルドに張り出されている手配書、そこに今まで表示されていたオハナの姿が全く表示されなくなったのだ。
代わりにそこに表示されているのは、
〖UNKNOWN〗
――――――という文字だけ。
〖世界大戦〗も終わったばかりの今、オハナの姿を今すぐ確認するにはダンジョンの踏破しか方法が無い。
そしてこのオハナの姿の秘匿がオハナダンジョン攻略への熱を加速させたのだった。
オハナダンジョン攻略を主体に活動しているプレイヤー集団が居た。
彼らは逸早くオハナダンジョンの攻略に乗り出し、そして誰より早くその没入感に魅せられた者たちの集まりだった。
この日は4人で組んだパーティーを5つ、計20人態勢で攻略に向かった。
彼らは順調に魔の第四階層も突破し、第六階層へと来ていた。
途中何度もオハナ眷属たちとの戦闘があり、その数を半分に減らしていた。
彼らはパーティーを再編成し、4:3:3の3つのチームに分かれることにした。
先頭を警戒しつつ歩いていた者が足を止める。
「どうした?」
「いや………先ほどから同じところを歩いている気がしてな………」
「道がループしている?そんなギミックは無かったはずだ」
「追加情報も出てないし、気のせいじゃないの?」
「バカかお前ら!此処はオハナダンジョンだぞ?事前情報が無くてもダンジョンマスターの気まぐれ一つでどうにでもなっちまうんだ。あの悲劇を忘れたのか!?」
彼の言うあの悲劇とは、オハナがGっぽい虫を一匹殺すためだけに〖羽虫殺し〗を習得してダンジョン内に散布し、毒が完全に抜けるまでダンジョンが数日間閉鎖になるという事態に陥った事件のことである。
「確かに………けどここの処そうしたことは無いわけだし、警戒し過ぎるのも良くないんじゃあ………?」
まだ始めたばかりで日が浅いプレイヤーの一人が、もっともらしい顔をしてそんな事を言う。
まさにその直後だった。
日が浅いくせにもっともらしい事を言っていたプレイヤーが消し飛んだのだ。
「ふははははは、それは甘いッス!クリームパンにハチミツをかけたくらい甘いッスよ!!」
それを行ったのはオハナダンジョンメンバー随一の魔法の使い手であるヴァンパイアことカナきちだった。
「基本このダンジョンで働いてるプレイヤーって、何気に侵入者にオハナさんと会わせる気が無い人たちばっかりなんで気を抜くと即、死ぬッスよ?」
レベルアップと共にMPも増えてきて絶好調のカナきちが、明るい口調で言った後ケラケラと笑う。
皆が戦闘態勢へ移行すると、今度はダンジョンの奥から聞き慣れない音が聞こえてきた。
「………噂をすればッスね。自分だけならまだ勝ち目も在ったでしょうけど、ホント運が悪かったと思って諦めてほしいッス」
南無南無と手を合わせるカナきち、音の発生源を確かめる様に注目する一同の前にダンジョンの奥から姿を見せたのは、
「う~うぅ~オハナさ~ん」
――――――今にも泣きだしそうな顔をした自他ともに認める(異論も認める)オハナの大親友にして闇の聖女とも呼ばれているプリムさんだった。
何故泣きそうなのかと言うと、単純にここ最近オハナとログインするタイミングが合わずにすれ違いが続き、二週間ほど会っていないだけである。
「闇の聖女!?」
「回復役がこんなところに!?」
「回復し続けられたら面倒だ、真っ先に潰すぞ!!」
武器を構え、プリムに向けて突進していくプレイヤーたち。
遠距離攻撃に対して優位に働くスキルは獲得したものの、近接戦に於いてプリムは有用なスキルを持っていない。
けれど普段仲間に多用している能力向上系の魔法を全てガン積みしていれば………。
プリムのロッドが大剣を容易に受け止める。
飛んでくる矢やナイフを持ち前のスキルで躱しつつ、バックステップで距離を取ったかと思えば強化した敏捷性で一瞬にして懐に入るその間に、器用に体を捻って勢いをつけ――――――。
その強力な一撃が直撃したプレイヤーが宙を舞う。
それに怯むことなく他のプレイヤーたちがプリム目掛けて殺到する。
「囲めぇ!!相手は攻撃力を強化しているとは言っても元々の数値は低い筈だ!!このまま確実にダメージを与えていけば――――――」
「あれ?もしかして皆さん忘れてるッスか?此処が何処だか」
まだまだ戦意が高い彼らに水を差すようにカナきちが静かに告げる。
そしてダンジョンの天井にはいつの間にかオハナ眷属(1号)の姿があった。
天井に足を突き刺して器用にぶら下がっている。
「ま、まさか………」
「止めろ」
「た、助けて………」
オハナダンジョンを知る者ならば当然眷属についての知識も持たなければ生きてはいけない、そして1号がどう戦うのかも知っている者たちはこれから何が始まるのかを予感して絶望した。
1号は敏捷性を下げる踊りを踊り始める。
「重力に逆らった状態で踊り始めるだなんて、相変わらずオハナさんの眷属は無茶苦茶ッスね」
ダンジョンの天井でそのまま踊り始めた1号を見つつ、カナきちが相手の防御力を下げる魔法を使って更にその一撃の脅威度を一気に跳ね上げる。
「さあ、今宵の我らが聖女様は餓えてるッスよ」
満足に戦えず、逃げ出す事も許されず、彼らは呆気なく全滅した。
【おまけ】
――――――という光景を、偶々ログインして見てしまったオハナの一言。
「………もう少しこまめにログインしよう」
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