☆1900突破感謝記念SS 今だけはとことん悪になるのも悪くない
息子家族から現実世界の方に手紙が届いた。
詫び状かと思い中を検めて――――――怒りで気が遠くなったのは初めてだ。
どうやら息子たち家族は本当にゲームに魂を売り渡したらしい、詫びの一つも書いてやがらねぇ……………。
それどころかワシや婆さまにダンジョンの皆を売れとまで書いてやがる。
こんなもん婆さまに見せる価値も無ぇ。
ワシはそれを破いてごみ箱に捨てた。
翌日、ワシが日課の散歩から帰ると婆さまが庭で焚火をしていた。
「あら、爺さま。おかえりなさい」
長年連れ添って来たワシには解る、今の婆さまは途轍もなく怒っておる。
いつもなら婆さまはワシの方を見て出迎えてくれるというのに、今日はワシに背を向けたまま火を見つめている。
これは…………以前婆さまが楽しみにしていた戴き物の上等なおはぎを黙って食べてしまった時以来かもしれん……………。
考えろ…………何か婆さまを怒らせるような事をしたか…………?
そしてワシは見つけたのだ。
婆さまの手にあった紙――――――昨日息子家族から届いてワシが破り捨てたものだった。
それを婆さまは復元してしまったらしい。
ぬうぅ…………もう少し細かく破っておくべきだったか!
セロハンテープでテカるそれを見ていた婆さまは、躊躇うことなくその手紙を焚火の中へ入れるとこちらを向いた。
「あの子たちは本当に……………――――――」
婆さまはそれ以上言葉を紡げないようだった。
婆さまは今本気で怒っている。
それと同時に、否、それ以上に悲しんでいる。
だから婆さまに見せたくなかったんじゃ。
口を抑え肩を震わせる婆さまにワシは寄り添い、またワシの最愛の女を泣かせた馬鹿息子共への怒りが募った。
「コテツさんとワヲさんの息子さん家族?」
「あぁ。どうやらウチの馬鹿どもはオハナちゃんたちを狙ってるらしくてなぁ」
ダンジョンで、ワシはオハナちゃんたちに事情を話す事にした。
身内が他人様に迷惑をかけようとしてるんだ。
もう身内の恥だとか言っとれんし、それに何より婆さまも昨日からずっと気を張りつめていて――――――見てられん。
「――――――その手引きを私たちにしてほしいって、昨日手紙が届いていたの」
全部洗い浚い話すと案の定、皆微妙な顔をしていた。
気持ちはよくわかる。
身内のワシたちでさえ理解不能なんじゃから。
「コテツさんとワヲさんの身内の方に言いたくはないですけど――――――」
プリムちゃんがとても言い辛そうに切り出した。
ワシと婆さまは「構わない」とばかりに先を促すと、
「バッッッッッッッッカじゃないの!!!!!?」
どうやらオハナちゃんの方が先に我慢の限界を迎えちまったらしい。
その咆哮はダンジョン内に響き渡った。
気のせいか地面も揺れた気がするぞ?
「コテツさんとワヲさんにそんな酷い事しておいて、今度は手を貸せ!?馬鹿にしてるにも程がある!!」
普段温厚なオハナちゃんが此処まで激昂するのを見たのは初めてだった。
ワシだけでなく、婆さまや古くから知っているというプリムちゃんも驚いているようだった。
「あ、また何かスキル生えた――――――って今はそんな事どうでも良い!!正々堂々正面からダンジョンに挑んで来たなら、倒されても何も文句はないよ?だけど二人も含めて皆はもうダンジョンの仲間なんだから、誰一人そんなくだらない事に利用なんてさせない!!」
オハナちゃんのその怒りに呼応する様に、眷属たちも唸り声をあげる。
まるでダンジョン全体が揺れているかのような錯覚――――――。
「私も御二人にはお世話になってます!!そんな御二人に酷い事するなんて許せません!!」
勢いにつられて大人しいホタルちゃんまで叫び、オハナちゃんの眷属たちも地面や壁を叩き徐々に場が熱を帯びて行く。
「うおぉぉぉぉやるっすよーーーー!!!!馬鹿な身内に鉄拳制裁っす!!!!!」
カナきちも声を上げる。
何故かワシらの身内以外に向けて言ってるような気がするんじゃが…………?
「オハナさんを害そうとするだなんて許せません!!」
プリムちゃんもオハナちゃんのことになると色々ネジが吹っ飛ぶからなぁ。
だけどそんなプリムちゃんのセリフを聞いたオハナちゃんが、さっきまでのテンションを全部何処かへ置いて来たかのような真顔でプリムちゃんを背後から見てるんじゃが……………?
「プリムさんがそれ言う?」と聞こえた気がするが、ワシには良くわからん。
予想以上に熱くなったダンジョンの皆、大声を出して何処かすっきりとした顔をしていつの間にか、誰からともなく笑い始めた。
「は~………ちょっとすっきりしました。今のうちに少しでも発散しておかないと顔見た瞬間に殺しちゃいそうでしたからね」
普段通りに戻ったオハナちゃんが、あっけらかんと言い放つ。
馬鹿息子共はダンジョンの皆を敵に回した、だから対処はダンジョンの全員でするってのは解る。
じゃが、ワシと婆さまも譲れん一線がある!!
「皆には悪いんだが――――――」
「えぇ。決着は二人で――――――」
言い出しにくかったが、婆さまが後に続いてくれたおかげで負担が軽くなった。
そんなワシらの言葉を止めたのはカナきちだった。
「わかってるっすよ?二人でけじめをつけたいんすよね?」
言いたかったことを言い当てられて驚いて見れば、他の皆も優しく微笑んでくれていた。
「だけど今回はずっと見てるだけって訳にはいきませんからね?」
「あぁ、わかってる。ワシと婆さまがもし負けるような事があれば、その時はオハナちゃんたちの方で対処してくれ」
オハナちゃんからの忠告に応え、ワシの言葉に婆さまもしっかりと頷く。
「オハナちゃん、我が儘言ってごめんなさいね?」
「いえいえ、私は構わないですよ。嫁姑戦争頑張ってくださいね?」
「うふふ。そう言われると俄然やる気が湧いて来たわぁ」
婆さまもいつの間にか普段の雰囲気に戻っていた。
馬鹿息子たちに応じるふりをして誘い出した森の中、のこのこやって来た奴らをワシと婆さまで強襲した。
前回の恨みつらみもまとめて叩きのめしてやると、
「どうして……………僕たちを騙したのか」
「どうだ?裏切られる気持ちってのは?最悪だろう?けどな、先にワシと婆さまを裏切ったのはお前たちなんだぜ?」
「お義母さんまで………どうしてこんな」
「あら?まだ理解できないのかしら?これが貴方たちがしてきたふざけた要求に対する私たちなりの返答ですよ」
「そんな!お爺ちゃんもお婆ちゃんも嘘吐くなんて酷いよ!!」
「酷い……………ねぇ?じゃあワシと婆さまを騙し討ちしたのは酷くねぇってのか?」
婆さまのスキル〖粘液〗で、地面に這いつくばった状態から碌に身動きがとれなくなった三人に近付き、傍で問い詰めてやった。
あの時婆さまを泣かせた事、ワシは絶対に忘れんし許さんからな!!
「ゲームはゲームなんだろ?だったらあの時の恨みはゲームの中でなら晴らしても問題ねぇって事だよなぁ?」
そう言ってワシはオハナちゃんの眷属と同じスキル――――――〖ブレイク〗、他人の装備を容赦なく破壊するなんて他の人には正直使うのは気が引けるが、こいつらには躊躇い無く使える――――――まずは馬鹿息子の高そうな武器を破壊する。
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!?」
ワシたちのやろうとしている事が漸く理解出来たらしい残りの二人、だがもう遅い。
ゆっくりと今度は息子嫁の武器を破壊した。
「や、やめて…………これ、二人から貰ったお年玉で買ったんだよ?」
「私たちがあげたお金ですから、基本何を買おうと自由だけれど…………課金に使われているのはちょっとショックねぇ」
「お前には来年からお年玉無しじゃあ!!」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!?」
森の中に孫の悲鳴が響き渡った。
それからワシはオハナちゃんの眷属と同様、徹底的に装備を破壊し尽した。
「爺さまの~♪もっと好いトコ見てみたい~♪」
婆さまにそう言われちゃあ、応えないといかんじゃろう!!
婆さまもノリノリで「古来より悪い事をした子へオシオキの定番と言えばコレよね~」なんて言いながらの三人の尻を叩き続けていた。
馬鹿息子家族の絶叫と装備破壊の音が景気よく鳴り響く。
「これに懲りたらもう二度と、ゲーム内でワシらに関わるな!それとリアルで一度ちゃんと詫びにぐらい来い!そっちでもその時に説教してやるから覚悟せいよ!!」
一仕事終えたワシは吐き捨てる様に言う。
「あと、オハナちゃんたちにも迷惑をかけちゃダメですからね?」
婆さまもワシが装備破壊してる間、ずっと三人の尻を叩き続けていたから幾分満足したようだ。
「二人とも、こんなひどい事するなんてどうかしてる」
それ、
ゲームに魂売り渡しとるようじゃし?課金装備も残さず破壊し尽したから、ショックは大きかろうて、だからこそワシも婆さまもそれらを破壊する事にしたんじゃから。
けどまぁ――――――。
ここまで出来たのは偏にワシらの大将と呼ぶには可愛らし過ぎる存在があったおかげで、今だけはとことん悪になるのも悪くないと思えた。
それは婆さまも同じだったようで、
「魔物だからのう」
「魔物ですもの」
ワシと婆さまは揃って笑い声をあげた。
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